2-6 エロ漫画野郎と要塞卿 ニホン国から来た勇者
夜、ふと目が覚めた。
一人宛がわれた部屋の、一人で寝るには大きいベッドの上で上半身を起こして、枕元に置いた時計を確認すると、まだ夜中の二時だった。
ナターシャさんから連絡はなかったが、邪神と戦っているに違い、だろう。
ふと気になって、収納魔法を開いて中を覗き見てみる。
すると、とても淡い光を放っていたタスラムが少しだけ明度を上げて、入口近くまで来た。
どうしたの、とでも言うように、ゆっくり点滅したので、
「何でもない、ちょっとどうしてるか気になっただけだ」
と伝えると、そう、とでも言うように一度だけゆっくり点滅した。
大食いから渡された神器タスラムは、自らの意志を持っている。今は本来の相棒ではなく、俺の元で預かっており、何かあれば一緒に戦ってくれている。
優しい奴だ。
おやすみ、と声をかけると、また点滅して、収納魔法の奥の方へと去っていった。
さて、もう一度寝よう、と思って目を瞑ったが、どうにも眠れるような感じがしなかった。
仕方がない、とベッドから降りて、ふと、窓の外を覗いてみる。
二階の部屋から見える第一区画の景色は、街頭に照らされる、明るい街並みだ。今もあそこで様々な人々が過ごしている。街並みは日本では見られない造りなのに、住んでいた街の夜景を思い出した。街の規模が違うし、明るさも故郷の方が凄いのだが、それでもやはり、綺麗だなと思う。
ふと窓を開けてみると、涼しい夜風が入って来て、少し気持ちよかった。そのまま窓の縁に手を置いて夜景を眺めていると、物音がして、反射的にそちらを見た。
同時に、聖域魔法に反応がないかも改めて確かめているが、反応はない。
俺のいる部屋から大分離れた位置に、半円状のベランダがあって、そこに、部屋着姿のままのセバスティアンさんが出てくるところだった。
この世界に来て視力が大分良くなり、夜目も少し利くようになったからか、月とわずかに届く第一区画の明かるさだけで、彼の表情も大分わかる。強化を使えば、細かい部分もわかるようになる。
今まで仕事をしていたのだろうか。彼は右手を眉間の辺りに持っていくと、指で揉んでいた。
かなりお疲れの様子だし、回復魔法をかけたいところだが、彼は俺だけでなく、メイプルの魔法にも気づける。
もしかしたら、夜襲と思われるかもしれないし、朝、会った時にでもかけよう。
そう思って部屋へ引っ込もうとしていたら、こちらへ振り向いたセバスティアンさんと目が合った。
どうしようかなと固まる俺に、彼は自分の隣に来るように手で示してきた。
流石にこれは逃げられんな。
頷き返してから、空中にシールド魔法を展開してそれに乗り、彼のいるベランダまで飛んだ。
飛んできた俺を見上げ、セバスティアンさんは目を少しだけ見開いていた。
「シールドで物を運ぶ、という発想はあるが、まさかそれで空を飛ぶとは」
「まだ俺とメイプル以外がやろうとすると、上手く行かないんですよ」
答えながら、セバスティアンさんから三歩程距離を置いてベランダに着地し、シールドを消した。
「何か後ろに向けて魔力の炎を出していたな。アレを推進力としているのか」
「そんなところです」
「ふむ、勇者殿でないと、難しいかな」
「あー……らしいですね。」
ちなみに、分析はメイプルとセイジュさん、ココロが行った。結果、満場一致で俺とメイプル、ココロしか使えないと判明した。
使用する魔力は常時消費される。各種制御にも魔力を使い、そして精神力をかなり消費する。
なお、ココロの浮遊魔法と比較すると、普通の人たちからすれば、どっちもどっちもエグい魔力を消費するらしい。
改めてどうなってんだ、メイプルとココロは。
そして、それらを常人でも使用可能な程に低エネルギー、かつ上位互換な効力を発揮する俺に授けられた力も、改めてヤバいと思う。
「そうか。それがあれば、運輸業が発展すると思ったが」
この世界の運輸方法は、人、動物、魔物、馬車や魔物車、船になる。
しかも、魔物や盗人たちから守りながら目的まで進まなくてはならないため、色々と皆、苦労しているらしいと、セイジュさんたちから聞いている。
俺たちが通ってきた道なら、安全な往来が確約されているとメイプルが言っていたので、あのあたりは大丈夫かもしれない。
残念そうなセバスティアンさんを見ながら、頭に浮かんできた鉄道運輸は、胸の奥にしまっておくことにした。
「プレストル様は、このような時間までお仕事を?」
「あぁ。ようやく終わったところだよ」
「お疲れ様です」
精神回復の魔法をかけると、セバスティアンさんは「ありがたい」と言ってくれた。
「この魔法があれば、もう少し仕事が捗りそうだな」
「あー、肉体の方は回復していないので、それはちょっと……」
確かに、この魔法があれば、地球では大変なことになりそうだ……ただし、メイプル特性の身体回復魔法とセットでないと、肉体が限界を超えてヤバいことになる。
あくまで俺が使ったのは、精神を回復して、ゆっくりとリラックス状態になってもらうためのものだ。
「そうか。しかし、やはり私の知る魔法使いたちが使うどの回復魔法とも違う」
「そうですか」
メイプル、褒められてんぞ。
今、見てるかどうか知らんけど。
「やはり、勇者とは、凄いものだな」
「凄いですけど、俺は」
「謙遜も過ぎれば嫌味となるぞ?」
「謙遜じゃないんですよ。嫌味でもない」
俺に勇者と呼ばれる資格なんてない。
あの時、『アイツ』に言われた言葉がずっと残っている。
そう考えると、俺は勇者じゃない。
「何か、事情がありそうだな」
「すみません」
「いや、こちらこそすまなかった」
そう言うとセバスティアンさんは俺から少し離れて、第一区画の方を向いた。
「ハルキ殿は、メイプル殿から、この街について、何か聞いているかな?」
「いえ」
「そうか……」
メイプルは、知りえた情報でも、わざと俺に伝えないことがある。
それは、そうした方がいいと、彼女が思った時だ。
緊急性がなくて、でも大事な情報の時だ。
もしかしたら、今回の戦いで必要な情報が出てくるかもしれない。
そう考えていら、セバスティアンさんが、振り返ってきた。
そして、
「ハルキ殿。貴殿は、ニホンという国を、知っているだろうか」
とんでもない事を、口にした。
言葉を失った。
心臓が大きく跳ねたし、息が変に漏れた。
「その様子だと、知っているようだ」
「何で……」
「何故知っているのか。そうだな、少し長い話になるが、構わないかな?」
これは、この世界に来てから、トップクラスに入る重要な情報だ。
メイプルめ、劇的なサプライズをしてくれやがって。
だが、何か、大きく進展しそうな予感がする。
頷き返すと、セバスティアンさんは静かに話始めた。
「二十年程前に、私は二人の勇者と出会った」
二人の、勇者……ってまさか。
「シカメ・カズマ、マキノ・ヒナコ。
そう、ココロ様の前の世代の、ニホン国から来た勇者だ」
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