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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第七章 サキュバスとエロ漫画野郎と暁の魔法使い
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2-3 サエぼと黄昏の魔鋼師 完璧よ!

 落ち着いたシャールさんが、俺たちに向けて一礼した。


「改めまして、自己紹介するねぇ。

 シャール・トワイライトって言うんだよ」


 にっこりと満面の笑顔には疲労が伺えたが、とても華やかだ。

 身長は、百六十センチ代半ばから後半というところか。腕まくりした袖から見える腕は、ほっそりしているようで、しっかりとした筋肉が付いている。なんかよくわからんが、技術屋って感じだ。


「彼女は現在、我がヴォーバンで、技術士として働いてもらっております」

「えへへ、お腹空いてたのを、ジャンヌちゃんが助けてくれたんだー」


 なるほど。そういう出会いがあったのか。

 メイプル、だからそのチベットスナギツネみたいな顔やめてやれ。何でお前、シャールさんに対してだけちょっと対応が塩辛いんだよ。


「それでね。ジャンヌちゃんと一緒に、城壁の補修とか、お家の修理とか、色々やってるんだよ」

「へぇ、そうなんだ~」『長い間戻ってこないと思ったら……』


 カエデちゃんモードのメイプルが、前半はこっちの言葉で、後半は日本語でそれぞれ感想を述べた。

 その瞬間、笑顔のまま固まるシャールさん。

 もしかしてこの人、日本語がわかるのか。


「メイ……じゃなくて、カエデちゃん、まぁまぁ、よくわからないけど、人助けしてたみたいだし」


 ブロードがどぅどぅと宥めると、メイプルはため息をついて、それから「ん」と両手をシャールさんへ突き出した。

 これに首を傾げるシャールさん。そしてその隣に立つジャンヌさん。


「どうしたの、メイ……カエデちゃん?」

「ますけっと」

「ん?」

「ますけっと、できたの、ちょーだい♪」


 その言葉に固まるのは、ジャンヌさんとルネさん……あ、ルネさんが何か警戒態勢モードに入ってる。微かに姿勢が前傾していて、右手と左手がそれぞれ上着の内側と、ズボンのポケットの方に触れている。

 ヤベェ、この執事さん、できる……!


 じゃなくて、何やってんのこいつ?!

 何でこのタイミングでそれを言った? いつもなら、話が落ち着いて当事者だけになってからやってただろうが。


「あの、貴女? いきなり何を仰っているの?」


 戸惑いながらも、ジャンヌさんは頭ごなしに叱りつけたり罰したりせず、しゃがんでメイプルと目線の高さをア渡せて問いただし始めた。


「あれは玩具じゃないのよ?」

「うん、しってるよ」


 ジャンヌさんは困った表情を浮かべ始めた。どうやって説得しよう、どういう趣向をしているのだろう、と考えているのだろう。

 そしてルネさんの警戒が本格化してきたぞ。多分、小型の投げナイフとか持ってて、それをいつでも投擲できるような態勢に入ったのだろう、素人目ではわからないくらいに、ほんの少し鋭くなった目力でメイプルの事を見ている。

 これにブロードとエルナ、エルフィが気づいたようだが、メイプルの事を信頼しているためか、見て見ぬふりをして、ジャンヌさんの行動を見守っている。

 お前ら、それでいいのか。一応、全員、いざという時のために何かしら対策してんだろうけど。

 まぁ、俺も同じだけど。


「貴女、名前は?」

「カエデだよ~。そこの晴樹お兄ちゃんの義理の妹なの!」


 おいバカ、そこで俺を巻き込むなよ。

 ほらぁ、ジャンヌさんが「どんな教育をしてるんですか?」って顔で俺に振り返ってきたよ。


「貴方、一体どういう教育をしているんですの」


 実際に言われた。俺は無関係だ。精一杯の抗議として、表情を変えずにその視線を受け止める。超痛い、心が。

 ジャンヌさんがため息をついてメイプルへと顔を戻した。


「あのね、カエデさん。マスケットは玩具ではないの。下手に扱うと物が粉々に壊れてしまうし、人だって死んでしまうようなものなのよ?」

「うん。しってるよ」

「だったらどうして欲しがるのかしら?」


 辛抱強く向かい合うジャンヌさんに、メイプルは少し考える素振りを見せた後、


「ちょっと、星海の邪神の前にヤキを入れなくちゃいけないかもしれない相手がいるからよ」


 いつもの、大人びた表情と声音で、そう言った。

 ジャンヌさんが固まり、ルネさんが一歩二人へ近づいたところで、この今にも瓦解しそうな空気を根底からぶっ飛ばしたのは、シャールさんの間延びした声だった。


「ごめんねぇ。ちょぉっと思いついたアイディアがあったから、それを組み込んでたら、遅くなちゃってぇ」


 全員の視線がシャールさんに向けられる。

 彼女は、眉を八の字にし、右手を頭の後ろに持って行って、面目ないと笑っていた。

 そんなシャールさんへ、メイプルは半眼になって声をかける。


「新しいアイディア?」

「うんっ! 何かね! こうっ、前にメイプルちゃんが言ってた連射モードって言うのを組み込めないか試してたんだ!」

「へぇ?」


 もう、メイプル呼びされている事にツッコミを入れていない。

 と言うことは……メイプルの奴……まぁいいか。

 俺はルネさんの動きに気を付けながら、事の成り行きを見守ることにした。


「それで? 上手くいったの?」

「いったよ! えぇとねぇ」


 シャールさんはメイプルたちに抱き着く際に、律儀にちゃんと床に置いていたマスケットを取りに戻り、それをメイプルの前に出して説明を始めた。


「ここのツマミで、一発ずつの通常射撃と、連射に切り替えられるんだよ!」

「へぇ、でも魔法弾専用ね」

「実弾がもうちょっと装填できるようになったら、同じようなことができるよぉ。でも、メイプルちゃんならそれができると思って、実弾用にもう考えてあるんだぁ。今度会ったら、相談しようと思って」

「凄いじゃない、私が考えてた事、本当に実現できてるわ! 今の状態でも完璧よ! この後、話を聞かせてもらうわ!」


 二人はマスケットを前にふんすふんすと鼻息荒く、喜びを分かち合っていた。

 その光景に、あっけにとられているジャンヌさん、そして毒気を抜かれた表情のルネさん。

 まぁ、うん、多分、遅かれ早かれ、こうなってたと思うから、うん。

 邪神とドンパチやってる時に、一瞬でも気を逸らされるよりは圧倒的にマシだから。


 とりあえず、ようこそ、非常識を常識とする(こっち)側へ。


「あの、カエデさん、貴女は一体……?」

「あ、ごめん、それ偽名」

「偽名?!」


 驚くジャンヌさんへ、メイプルは受け取ったマスケットを右肩に担いだポーズを取った。


「メイプル。星海の邪神と戦う勇者パーティーの一人よ」

「えぇっ、メイプルちゃんっ、勇者になったの?!」


 シャールさんだけが、マイペースに驚いていた。

 ジャンヌさんとルネさんは、もう驚きのあまりに固まっている。

 メイプルの奴、もうこの人たち……っていうか、ヴォーバンを完全にこっち側に引き入れるつもり満々だな。

 それだけ気に入ったかもしれんが。


「あ、そうそう。セバスティアンったら、私が会議を覗き見してたのに気づいてたわ」

「うぇっ、マジか」


 今度は俺が衝撃を受ける番だった。

 あのお爺さん、只者(タダモン)じゃねぇとは思ってたが……エクスードさん(ギルマス)と一緒な感じの人だったかぁ……。


「お、おじい様の会議を……何を言っているの?」

「私はね、サキュバスなの」

「サキュバス?! でも貴女、子どもじゃない。それに角は? いえ、ちょっと待って」


 ジャンヌさんは突然、先ほどまでの驚きっぷりがウソのように引っ込んで、顎に指を添えて、真剣な表情でメイプルの頭の辺りを観察し出した。


「髪と頭を触ってもいいかしら?」

「いいわよ」


 許可をもらってから、さらに頭と髪を触り始める。その手つきは乱暴ではなく、恐る恐るだが、メイプルが傷つかないような配慮も感じられた。


「風魔法で消している訳ではない……幻影だとか、隠蔽の魔法でもない……何かしら。頭蓋骨には角の根本みたいな部分がわずかにあるのに……」


 あ、すごいこの人。

 触診って言っていいのかわからないが、普通だとわからないことを、わずかな違和感から導き出したぞ。

 こいつの頭蓋骨の角の根本なんて、普通に頭蓋骨の窪みだとか個人差による形だって言われたらそれで納得できるレベルまで隠されてるのに。


「ねぇルネ、何かわかる?」


 呼ばれたルネさんが二人の傍に片膝をついて、同じように調べ、首を横に振った。


「そう……であるなら……例えば……」

「降参かしら?」

「いいえ、いいえ! ちょっと待ってくださいまし!」


 負けず嫌いらしく、ジャンヌさんは一人、あーでもない、こーでもないと考え始めた。

 どうやら、一触即発の展開は消えたようだ。

 ルネさんも、ジャンヌさんとメイプルの様子や、俺たちの態度を見て、大丈夫と判断したのだろう。

 ため息一つつかずに立ち上がると、壁際に置いてあった掃除道具を手に取り、床の上を掃除し始めた。プロだなぁ。


 そして俺、エルナ、エルフィは、コントのようなやり取りが終わるまで見守り続けることにした。


「あ、もしかして、角だけをどこか別の場所に出しているのかしら? サキュバスは遠距離へ一瞬で移動できる魔法を使用できますよね! アレの応用でしょう!」

「違います」


 結局、ジャンヌさんは答えを出すことはできなかったが、惜しいところまでは行っていた。


「正解は、収納魔法を被せている、でした~」

「嘘っ、そんな事できるはず……そんな、こんな事が……」


 ジャンヌさんはSAN値直送気味になり、メイプルは大変満足したと顔を艶々させて、一仕事終えたとばかりに額をぬぐう仕草をしていた。ルネさんはちらとそれを見て、すぐに作業に戻っていった。いいのか、それで。


「え、何なん、これ?」

「メイプルのお戯れ」


 そのやり取りを見て、呆れた表情で問いかけてきたエルフィに、慣れろと言う意味も込めて答えた。

 君もやられただろ、これ。


「そうそう、収納魔法から実弾を直接転送させる方法をね~」


 そして、シャールさんは一人、マスケットの説明をしていた。

 エルナは……俺のすぐ背後に立ち、気配を完全遮断して、影のようになっていた。お前はお前でどうしたんだ。


 その後、どうにか立ち直ったジャンヌさんと俺たちは、シャールさんも連れて、セバスティアンさんやセイジュさんたちの下へと戻ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


メイプル「パーフェクトよ、シャール」

シャール「感謝の極み、だよ!」

エルフィ「シャールさん、何でそれも知ってるの?」←ネタとして知ってる

晴樹「メイプルが教えたんだと」←本編全巻読破済み

ジャンヌ「あの、あれは一体……?」

ブロード「気にしないでください。いつもの事なので……」

ルネ「……」←床の汚れをテキパキ掃除している

エルナ「……」←晴樹の真後ろに立って全力で気配を消して隠れている

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