2-1 サエぼと黄昏の魔鋼師 大事なお友達だよ!
難しい話は、セイジュさんやココロとセバスティアンさんがすることとなった。
俺たちは待っている間、各自の装備を整え、英気を養っておく、と言うことになった。
「皆様に、是非、案内したい場所がございます」
ジャンヌさんと執事さんに案内されたのは、屋敷の地下へと続く階段だった。
ジャンヌさんが入口の近くの壁に手を当てると、等間隔で天井に淡い魔法の明かりが灯った。
「こちらです」
執事さんが先頭に立ち、その後にジャンヌさん、それから俺たちと続いていく。殿は、最後に動いたエルナだ。
ジャンヌさんと執事さんの背中を視界に収めながら、壁の方を見る。
壁に使われている素材は、ダンジョンの壁面と同じものだった。
これに驚きの声を上げたのは、元ダンジョンマスターのエルフィだった。
「嘘、これ……ダンジョンの建築素材やん!」
「左様でございます」
ジャンヌさんが少しだけ楽しそうに答えた。
「こちらは、数十年前、エリスの近くに出現したダンジョンを踏破した後、おじい様と両親が持ち込んだものとなります」
「えっ?!」
「私が生まれる前ですね」
驚くエルフィ、そしてブロードの様子に、ジャンヌさんは大変満足しているらしかった。
何だか、こういうところは見た目の年相応って言う感じだな。
言っている中身はぶっ飛んでいるが。
「凄い……セバスティアンさんたちは冒険者やったんですか?」
「父は上級冒険者でしたが、おじい様と母は違います」
「えと、じゃあダンジョンはどうやって踏破したんです?」
「実は……あ、着きましたね」
執事さんが部屋の鍵を懐から取り出すのを見ながら、ジャンヌさんはエルフィに「この話はまた後で」とほほ笑んだ。
開いた扉の向こうには、長い通路と、左右に扉が等間隔に並んでいる光景が続いている。扉が十数メートル毎に存在していることから、一つ一つの部屋がそれなりの広さとなっていることは、見ているだけでも想像がつく。
まるで、これは。
「秘密基地みたいや」
エルフィがぼんやりとつぶやくと、ジャンヌさんが「さぁ、こちらへ」と手で示した。
この通路の天井にも明かりは灯っているが、先ほどまでのものよりも照度は少し高い。
壁の素材は……やはりダンジョンの深い場所で使われているものだ。これだけの素材、ここへ運び込むためにどれだけの労力を要したのか、想像もつかない。
扉の素材は、見た所、鉄……いや、これ、メタルゴーレムの装甲じゃねーか! セバスティアンさんたち、なんてものを使用してんだ。
驚きは表に出さずジャンヌさんたちの後を着いていくが、エルフィはさっきから口をあんぐりと開けっぱなしだった。ブロードだって物珍しそうに見ているが、そこまで面白い顔しとらんぞ。
「晴樹さん、ここ、マジで秘密基地なんとちゃうんですか?」
「うん、そーだね」
下手したらこの地下施設にクトゥルフ・スレイヤーの巨大ロボットが眠っているかもしれんって思うくらいには俺も同意見だわ。
やがて、俺たちが辿り着いたのは、通路最奥、進行方向から見て右側の扉だった。
ジャンヌさんは立ち止まると、扉をノックした。
しかし、中から返事はない。
メタルゴーレムの素材だし、ノックが聞こえてないのでは、と思ったが、ヴォーバンが作った施設だ、何か仕掛けがあるんだろう。
「シャール、開けますわよ」
ジャンヌさんが断ってから執事さんがドアを内側へ押した。
途端に、中から熱気と共に微かな汗の臭いが出てきた。
ジャンヌさんたちの後に続いて入ると、研究施設らしき部屋の中央で、こちらに背を向けた小柄な女性が座り込んで一心不乱に何かしていた。
ジャンヌさんが近づいて行っても、女性は気づいた様子もなく、自分の作業を続けている。手に抱えているのは……マスケット?
「……。シャール、シャール」
ジャンヌさんが女性の手元をのぞき込んで、少し間をおいてから声をかけた。どうやら、声をかけてもよいタイミングかどうか見計らったらしい。
しかし、女性はまだ気づかずに手を動かして、マスケットらしき物品をいじっている。
「あれ、シャールお姉さん?」
突然、ブロードがそうつぶやいたのが聞こえた。
知り合いなのか、と思って振り返ったら、驚いた顔のブロードと、チベットスナギツネみたいな顔になったメイプルが、シャールらしい女性を見ていた。いやメイプル、お前どんな感情なんだ。
「シャール・トワイライト! 聞こえていますの?!」
ジャンヌさんの強い声に驚いて振り向き直ると、女性が飛び上がったところだった。
「わわっ?! な、ななな何っ?!」
振り返った女性は、十代半ばに見える、愛らしい顔立ちを玉のような汗で濡らしていた。
手に持っていたマスケットを抱きしめ、ジャンヌさんを見上げて、首を傾げた。
「あれ? ジャンヌちゃん?」
「はい、ジャンヌです。ようやく気が付きましたわね」
ジャンヌさんはやれやれと言いながらも、そこまで怒っている様子ではなかった。なんというか、慣れている感じがした。
執事さんは静かに二人の事を見守っているし、っていうかいつの間にタオルと、水筒どこから取り出したんです?
「あ、ルネさん、ありがとう」
シャールさんが執事さんにお礼を言いながら水筒とタオルを受け取る。
執事さんは胸の前に手を当てて軽く頭を下げ、無言で一歩下がった。
執事さん、名前、ルネさんって言うのか。すらっとしていてクールビューティーだし、何だかすごく似合ってる。
「全く、またそれを改造していたのですね」
「色々と試したくなっちゃって……えへへ」
笑いながら水を飲み、汗をタオルで拭いたところで、シャールさんがこちらに気づいた。
そして、視線が俺とエルフィの間を通り過ぎてその後ろ……つまり、メイプルとブロードへと向いたのがわかった。
静寂が部屋を包んだ。
シャールさんはきょとんとした表情だが……よく見たら目が滅茶苦茶挙動不審に揺れていた。
多分、心の中では「んんんん~?!」と絶叫してる。
「シャール、紹介いたしますわ。こちらは」
「メイプルちゃん、ブロード君!」
手でこちらを示すジャンヌさんの言葉の途中で、シャールさんがいきなり立ち上がったかと思うと、転がるようにメイプルたちの前に駆けて来た。
止めようかと考えたが、シャールさんは二人の一歩手前あたりで停止すると、両手を大きく広げて抱きしめた。
しかし、メイプルは華麗にそれを躱して、ブロード一人だけが抱きしめられていた。
「久しぶり~! ってアレ?」
「お姉ちゃん、ちょ、と……苦しい……」
「メイプルちゃん?」
ベアハッグ状態のブロードが恥ずかしさ半分と痛み半分みたいな顔色と声音で訴えるが、シャールさんはそれを無視して、一人逃れたメイプルへ顔だけ向けた。
メイプルはチベットスナギツネめいた顔から、すでに無邪気(笑)なカエデちゃんモードに戻っており、にっこりと笑って首を傾げた。
「カエデだよ?」
「え?」
「カエデだよ? メイプルってだぁれ?」
「うん? メイプルちゃ……ア、ハイ」
シャールさんが何か片言になって頷くと、メイプルは満足したように頷き返して、シャールさんに自分から抱き着いた。
『久しぶり、シャール』
耳元で小さくつぶやかれた日本語に、シャールさんは口元を綻ばせて、抱きしめ返した。
ようやく解放されたブロードも、背中をさすりながらも、それを嬉しそうに見ていた。
「え、何これ?」
エルフィが頭にクエスチョンマークを乱舞させていたが、仕方のないことだろう。
この中で、このシャールという少女の正体にあたりが付いているのは、俺、それからエルナだけだろう。
「お知り合いなの?」
ジャンヌさんが豹変したシャールさんの様子に目を丸くしながら問いかけてきた。あ、ルネさんもちょっと驚いていた。
問いかけられたシャールさんは立ち上がり、メイプルとブロードの手をそれぞれ握る。
「うんっ! 私の大事なお友達だよ!」
その笑顔は、まるで夕暮れに笑う、子どものように無垢で、優しかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
シャール・トワイライト、遂に登場。
シャール「ほわぁっ?! あ、ごめんね、ちょっと集中していたから。えへへ、私、シャール・トワイライト。さあ、今日は何を造ろっか?」




