EP3 サキュバスとエロ漫画野郎と熟練魔導師 自慢の妹
「はぁ。リリィたちにはアンタから言いなさいよ?」
「わかってるって」
リリィちゃんは大人びてたし、妖精ちゃん&魔物たちも来るもの拒まず去る者追わずな子たちが多いし、涙のお別れ、二はならないかな?
逆に、私の方が泣くかも。
そんな風に考えている知、晴樹さんが唐突に収納魔法を開いた。それから、口調もかなり変わった。
「ところで、こんなんあんねんけど、食べる?」
「これって……」
取り出したのは、ビニール袋に入った菓子パンだった。
「メロンパン……」
「サンライズの方やけど、ええか?」
「はい」
震える手でそれを受け取る。
用意された木皿の上で袋を開けると、ふわりとしたバターの香りがして、気が付いたらかぶりついていた。
ザクッとした歯触りと、ふわりとした食感に、甘さを感じた途端に、嗚咽が漏れた。
あはっ、嘘……本当に涙出て来るんだ……いつも食べてたのに……何でこんなに泣けてくるんだろ。
泣きながら食べて、晴樹さんがカップに入れたお茶を飲んで、ゆっくりと私はメロンパンを味わって食べた。
食べ終えた頃には泣きやんでいて、口と鼻に残るバターの甘い匂いと、舌の上に残る甘さに余韻を感じながら、ぼーっとしていた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「よかった。あ、これメイプルには内緒な?」
「もしかして、これって、メイプルちゃんのメロンパンでした?」
「いや、俺がこっちに来る前に買うた奴やけど……アイツ、時間ある時に食べるぅ言うてて……全然食わんし、もう一つの方が本命みたいやったから、こっちあげたんやけど、ほら、まぁ、うん」
晴樹さん、何で目を逸らすんですか?
「とりあえず、これは俺のパンで、どうするかは俺が決める権利がある! と言う訳で、気にすんなってことで!」
「何なんですかもう」
晴樹さんに空になった袋を返し、お茶を飲んで、一息入れる。
はぁ……生きてるって、幸せ。
「ねぇハルキ、今の何? とても良い匂いがしたんだけど!」
「俺たちの世界のパンだな」
「まだあるの?」
「ないが、似たようなものなら多分、メイプルが作れる」
「よし、後で頼んでみるわ」
ミレニアがチャレンジャーな事を言っていた。
晴樹さんは、口調が元に戻っちゃったな。出会った時から、ちょくちょくイントネーションに親近感があったから、もしかしてとは思ってたけど、生まれも近いのかな。
メイプルちゃんも、もしかしたら……。
「今回は、君とミレニアにはメッチャ助けられたわ。ホンマ、ありがとうな」
「いえ、そんな。……あ」
そう言えば、あの時、最後に、背中を押してくれた銀髪の女の子が……でも、あれって幻影……幻聴……にしてはメッチャリアルやったしなぁ……。
「どーしたん?」
「えと……最後、私たちがダンジョン・ゴーレムに魔法を撃ちんだ時とその後に、幻影と幻覚を見て」
「ん……?」
「えぇと……この世の者とは思えんくらいメッチャ美人な、銀髪の女の子がいて、その子が最後、私の背中を押してくれたんです。それで、ゴーレムを倒した後に、サエさんに、エルが来たと、よろしくお願いします……だったような。そんな風な事を言われたんです」
おかしいですよねーと言おうとしたけど、言葉が出てこなかった。
晴樹さんが、茫然として、左手で頭を抑えていたから。
「あの」
大丈夫ですか? と声をかけると、晴樹さんは「……俺も疲れとんのかな」と苦笑していた。
「いや、教えてくれてありがとな」
「いえ……晴樹さん、知ってるんですか? もしかしてあの子、幽霊やったんですか?」
「多分違うかな……でも、そっか、サエか」
「そうそう、サエさんって言う人に伝えてって言われても、誰かわからんっちゅーねんって」
「……それなら心当たりがある」
「ホンマですか?」
「あぁ。しっかり預かった。でも、その子、銀髪じゃなくて、白髪じゃなかったか?」
「えと、私には銀髪に見えたんですけど……」
もしかして、違ったんかな。
でも銀髪に見えたしなぁ。
「他に、何か伝えておくことは?」
「晩ご飯、和食食べたいです」
「OK、それも伝えとく」
「本当にアンタって子は……」
晴樹さんとミレニアが苦笑しながら部屋の外へと出て行った。
私はコップを近くの机の上に置いて、ベッドへと寝転んだ。
次に起きたら、メイプルちゃんたちと改めて話をしよう。
ついでに、和食があればいいなぁ。できれば、味噌汁……アーゼちゃん、キノコ提供してくれるといいなぁ。
それから……旅に出よう。
邪神と戦うとしても、私は守りたいものがある。
そして、その先で、もしも地球に戻ることがあったとしたら……。
彩月ちゃんたちと、また会えたら……。
会いたいな、皆……お母さん、お父さん……。
そう言えば……彩月ちゃん……お兄ちゃん……どんな人だったんだろうな……。
名前……確か……冴島……………………晴…………あれ……サエって……――――。
そのまま意識が暗転し、寸前まで考えていたことは、起きた時にはすっかり忘れていた。
☆
数日後、私はメイプルちゃんたちと一緒に、冒険者ギルドの客室で、ミレニアたちと出発前の挨拶を終えた。
「ミレー、リリィちゃん、アーゼちゃんたちも元気でね」
「アンタも、無茶はしないように。あ、そうだ」
ミレニアが私の手を取った。
握手? と思ったら、ミレニアの魔力とパスが出来ていた。
「もしも無茶しないといけない時は、使いなさい」
「でも……」
もしも私がこっちの魔力を使い過ぎたら、ミレニアに大きな負担がかかってしまう。
そんな風に心配したら、おでこを人差し指で圧された。
「どうしてもという時に使いなさいって言ってるでしょ。折角鍛えてもらって強くなったんだから、普段は自分の魔力だけでなんとかしなさい」
「そうだね」
「それに」
ミレニアが指を離して、おでこをくっつけてきた。
「アンタは私の自慢の妹、みたいなもんなんだから、しゃんとしていなさい」
「……うん!」
涙は我慢して、笑顔で返事ができた。
リリィちゃんや妖精ちゃん&魔物たちにも手を振り、私は待ってくれていたメイプルちゃんたちと一緒に、客室を出た。
廊下に出たら、壁に背を預けていた破壊神ヴァーヴァリアスこと、リアさんが体を起こした。
この人にも、この数日、かなりお世話になって、頭が上がらなくなった。でも、出会った時のような怖さはもうない。
「終わったか?」
「えぇ、お待たせ」
一度だけ、客室のドアへと振り返った。
この後、ミレニアたちは、迎えに来たギルドマスターさんに連れられて、ロールさんのいる施設へ行く。
次に会えるのは、いつになるのかわからないけど、その時に土産話ができるように、胸を張れるように、精一杯生きて行こう。
そんな思いを抱えて、冒険者ギルドの外へ出て、オルバインの街の外へ出る。
人通りの街道を少し歩いて、街から私たちが見えなくなったところで、メイプルちゃんが柏手を打った。
「それじゃ、皆、準備はいい?」
全員の準備が出来ている事を確認すると、メイプルちゃんから、色々な魔法が付与される。
説明を軽く受けていたけど、本当にやるんだ。
「すぐ慣れる」
セイジュさんがそう言ってくれた。うん、普通に考えておかしいもんね、ノンストップで何十キロも全速力で走れるって。
「それから、晴樹とエルフィは出来るだけ自分で自分を回復しなさい。魔力量も一緒に上げてくわよ!」
「了解」
「お、おー」
そして、私たちは街道を駆け抜ける、一陣の不可視の風となった。
「それじゃ次の目的地まで、レッツらゴー!」
『おー!』
さぁ、冒険へ出かけよう。
私の大切な人たちを守り、地球へ帰るための旅へ、私は足を踏み出した。
☆
エルフィは、なんて言うか、そそっかしい子なのよ。
それにお人好しで、記憶がないって言うくせに、勝手に住み着いた妖精や行き場のない魔族やら受け入れて、ダンジョンに住み込みで働かせていたの。
戦闘能力はからっきしで、あるのは馬鹿デカい魔力とそれをコントロールする力。後は、土壇場の度胸くらいね。
なのに、ちょっとした出会いで、半日もせずに駆け出し以上の実力を持った魔導士になっちゃったんだもの。
でもおかげで、私とリリィが助かったわ。
ところで、アンタ、この記事書いたら、エルフに消されない?
え、大丈夫なの? どーなってもしらないわよ?
エルフィ?
あの子なら、今は旅に出てるわ。
そうそう、今頃はもーっと強くなってるに違いないの。
ほら、この手紙見てごらんないさよ、上級魔法をちゃんと使えるようになったって、律儀に報告してくるんだから。弟子を取って、教えてもいいくらい。
えぇ、あの子も私の自慢の妹ですもの!
何せ、私が知る限り、最強クラスの魔導師になっているんだから!
お読みいただき、ありがとうございます。
これにて、第六章終了です。
少しでもお楽しみいただけたのであれば幸いです。
あれ? 誰か忘れて……?
というわけで、エルナ大好きな彼女は次回登場です。
お楽しみに!




