ユウ王子とミキ王子
「今月の終わりに、長く冷戦状態の続いていた隣国と和平を結ぶために、ユウ王子が隣国の王女と結婚いたします」
「それは・・・おめでとうございます」
いきなり結婚の話が来ますか!?
そしておめでとうといってから後悔した。
内藤の隣で小さくなっているユウ王子に気が付いたから。
おそらく政略結婚なのだろう。
それは資産家と呼ばれる桐谷家の長女である埜乃にとって、他人事ではない。
パパとママはお互い良家のご子息ご息女の一目惚れという、極めて異例な幸せパターンに過ぎない。
「それで?その結婚式に生き別れの兄弟だからって、俺のことも呼んでくれたわけ?」
全員が有安を首の筋を違える勢いで振り向いた。
「有安くんって、生き別れなの?てか王子様なの???」
「ミキ様!いつから!ご存じだったのですか!!?」
「・・・・・」
ユウ王子、驚くも無言。
高貴な方は叫び声など上げたりしないのだろうか?
内藤もすぐ我に返り『し~』と皆を見渡すが、自分の落ち着きはまだ取り戻せていないようで。
「まさかミキ様記憶がおありに?いや、まさかそれはあり得ない、だがあの曲も、いやそんな、極秘中の極秘の筈なのに一体どこから。情報漏えいだ!」
ブツブツとつぶやき、今までの余裕ある態度を一変させて青ざめている。
「強引に連れてこられて、これだけ似てたら考えるだろう、普通」
あっけらかんと話す有安。
「秘密の王子様って言ったら、お尻に星形のアザがあるとか、子供の頃の記憶が無いとか、有安くんて何かそういうエピソードはあるの?」
漫画みたいなシチュエーションに興奮してしまう。
「そういえば・・・一歳より前の記憶はないかな」
アザはあったかな?とパンツを下しかけるのを、慌てて止められる。
「今見なくていいから。一歳より前はみんな無いから記憶って」
真剣に考えてる風でそれだから余計に腹が立つ。
「でもなんで今更?後継者争いで消されるならわかるけど、呼び寄せるなんてさ」
スルドイ!たしかに平和になって呼び寄せるなら、わざわざ成長した王子の片割れを攫ったりしなくても良いのでは。
「影武者でもやらせようっての?」
まさに戦国時代の発想だけど、まだ冷戦が終結したとは言ってないもんね。
王子が病で床に伏してるとか何か理由が有るなら解るけれど、ユウ王子はぴんぴんしている。
「そこまでお分かりでしたら話は早い。ミキ様にはユウ王子の替え玉になっていただきたいのです」
「替え玉!!??」
埜乃の声だけが響き渡った。
替え玉って影武者より、より前面に出て期間限定ではなくそれこそずっとなイメージなのですが。
帰れるの?本当に。
「し~っっっ」
内藤が再度唇に指を当てて、懐から一枚の写真を取り出した。
「ユウ王子の婚約者、マカリキ国のメティス様です」
お見合い写真に埜乃も有安も食いつく。
そこには、髪を高く結い上げて櫛をたくさん刺した、袖の広い日本の花魁のような豪華な衣装を身に着けた美しい女性が映っていた。
「なんだよ美人じゃ~ん。替え玉って言うからもっとカエルのつぶれたようなお嫁さんなのかと思った」
・・・正直私も思った。
でもそれならなぜ?と疑問もよぎる。
「気に入っていただけて幸いです。メティス様は、マカリキ国の6人の王女様達の中でも、一番の美姫と歌われていらっしゃいます」
「マカリキ・・まか、りき、カマ、キリ・・・?」
繰り返す言葉になにかが引っかかる。
「どうした?埜乃」
確信を持てずになんでもないと首を振るが。
「ミキ様には、ユウ王子とメティス様の初夜を変わっていただきたいのです」
畳みかけるように話を進める内藤。
「いいの?初夜なんて退屈な結婚式の後、一番のお楽しみじゃない?」
嬉しそうな有安。
ちょっとちょっとそんな簡単に!
「ええ。ミキ様にはお楽しみ頂けるでしょうが、両国にとって初夜は結婚式と同じく大切な儀式の一つです。ですが、ユウ王子はつい先日まで病にふせっておられて、まだ万全の調子ではないのです。隣国に初夜が滞りなく終わったことが証明できれば、ミキ様と埜乃様を人間界にお返しいたします」
「そんなことならわざわざ手の込んだことしなくても、一言言ってくれれば即変わったのに。むしろ悪いな、美人な奥さんなのに」
有安は、ユウ王子の肩を気安くぽんぽんたたいて、内藤に睨まれている。
あなたのそんなところも嫌いじゃないけど、なんだか嫌な予感がする。
ユウ王子は確かにそんなに健康筋肉自慢なタイプには見えないけれど、最近まで病で臥せってたっていうほどにも見えない。
「ミキ・・」
何か言おうとして、内藤に阻まれるユウ王子。
薄化粧のユウ王子とミッキーの時の有安はそっくりだし、今も替え玉が不可能ではないと思えるくらいには似ている。
「では、式典は三日後ですので、それまでゆっくりお寛ぎください」
内藤に肩を抱かれるように歩き出したユウ王子。
心残りそうに有安を振り返るが、促され無言のまま部屋を出ていく。
怪しい。心から怪しい。
埜乃のハートが危険信号で点滅を始めた。




