王子たちの距離
魔物襲撃から一夜が明けた王都アルカディア。
街にはまだ混乱の跡が残っていた。
壊れた建物。
傷ついた城壁。
慌ただしく動き回る兵士たち。
しかし、民たちの顔には希望もあった。
七人の王子が魔物を倒した。
その噂は、すでに王都中へ広がっていた。
「七人の王子様が……」
「本当に予言の子たちなのか?」
「世界を救ってくれるのかもしれない」
そんな声があちこちから聞こえる。
だが。
当の本人たちは、そんな期待を素直に受け止められる状況ではなかった。
「……最悪だ」
王都の会議室。
レオンは机の上に置かれた報告書を見つめていた。
「魔物の出現数は増加傾向。各国でも被害が出ている」
「つまり」
カイルが椅子にもたれながら言う。
「昨日の襲撃は始まりにすぎない」
部屋の空気が重くなる。
「王の聖印が砕かれたことで、大陸中の封印が弱まっている」
カイルは淡々と続けた。
「このままなら、数ヶ月以内に各国の防衛線は崩れる」
「数ヶ月……」
アベルが小さく呟く。
まだ十六歳の少年。
世界の危機なんて、あまりにも大きすぎる話だった。
「そんな顔するなよ」
ユリウスが声をかける。
「俺たちだって昨日まで普通に生きてたんだ」
「ユリウスは王子なのに普通って言うんだね」
ノアが微笑む。
「いや、だってさ」
ユリウスは頭をかく。
「俺、つい最近まで自分が王子だって知らなかったんだぞ?」
その場にいた全員がユリウスを見る。
雷王国の王子。
しかし、彼は王宮で育っていない。
普通の村で、普通の少年として暮らしていた。
「突然迎えが来て」
ユリウスは苦笑する。
「『あなたは王子です』って言われても、そりゃ信じられないだろ」
「……羨ましい」
シオンが小さく呟いた。
全員が彼を見る。
「え?」
アベルが聞き返す。
シオンは少し驚いたような顔をして、目を逸らした。
「……何でもない」
闇王国の王子。
彼については、誰も深く聞こうとはしなかった。
呪われた王子。
そう呼ばれている理由を。
けれど。
レオンだけは違った。
「シオン」
「何だ」
「昨日、魔物を止めたのは君の力だ」
「……」
「助かった」
短い言葉。
けれど、シオンには予想外だった。
感謝されること。
必要とされること。
そんなものは、ずっと遠いものだと思っていた。
「……礼なんていらない」
「でも言う」
レオンは真っ直ぐ言った。
「仲間なら」
その言葉に。
シオンの表情がほんの少しだけ揺れた。
しかし。
その空気を壊すように。
「はいはい、感動の時間は終わり」
カイルが資料をめくる。
「問題はこれからだ」
「相変わらず空気読まないね」
ルークが笑う。
「重要な話をしているだけ」
「照れ隠し?」
「違う」
「絶対そうだ」
「……」
カイルは無言でルークを見る。
その瞬間。
部屋の扉が勢いよく開いた。
「緊急報告!」
兵士が駆け込んでくる。
「どうした」
レオンが立ち上がる。
兵士は息を整えながら告げた。
「各国の王城に、同時に襲撃予告が届きました」
「襲撃予告?」
「差出人は不明」
兵士が震える声で続ける。
「ただ、一つだけ書かれていた言葉があります」
紙を差し出す。
そこには。
黒い文字でこう書かれていた。
『七人の王子が揃った』
『ならば次は、七人を壊す』
空気が凍る。
「……狙われている」
ノアが呟いた。
カイルの表情が険しくなる。
「僕たちを集めたのは、救うためだけじゃない」
「どういう意味だ?」
レオンが聞く。
カイルは紙を見る。
「敵は、七人の王子が集まることを知っていた」
「つまり」
ルークの笑顔が消える。
「最初から俺たちを狙ってたってこと?」
沈黙。
誰も答えられない。
七人が集まった理由。
世界を救うためなのか。
それとも。
誰かの計画のためなのか。
その夜。
七人は初めて同じ部屋に集まった。
敵ではなく。
仲間として。
しかし、まだ互いを完全には信じていない。
レオンは窓の外を見る。
「俺たちは、何のために選ばれたんだろうな」
誰も答えない。
すると。
シオンが静かに言った。
「……運命なんて」
全員が振り返る。
「信じない方がいい」
「なぜ?」
アベルが聞く。
シオンは夜空を見る。
「運命はいつだって」
「人から大切なものを奪うから」
その言葉には。
誰にも知られていない過去が滲んでいた。
七人の王子。
彼らの物語は始まったばかり。
友情も。
信頼も。
まだ生まれていない。
けれど。
確かに少しずつ。
七人の心には変化が起き始めていた。




