初めての共闘
王都アルカディアを襲った魔物の咆哮は、夜の静寂を完全に壊した。
城内に響き渡る警鐘。
慌ただしく走り回る兵士たち。
王族を守るために集められた騎士たちが、次々と武器を手に取っていく。
しかし、状況は最悪だった。
「魔物の数は?」
レオンが駆けつけた兵士に問いかける。
「確認できるだけでも五十体以上! 城壁を越えた個体もいます!」
「五十……」
レオンは唇を噛む。
王都アルカディアは大陸最大の防衛都市。
普通の魔物なら、侵入することすら不可能な場所だった。
それなのに。
たった一晩で突破された。
「王の聖印が壊れた影響だね」
カイルが冷静に呟く。
「結界が弱まったことで、封印されていた魔物が動き出した」
「そんな分析してる場合?」
ルークが槍を肩に担ぎながら言う。
「今ここにいる全員、食べられるかもしれないんだけど?」
「だから状況を理解しているんだよ」
カイルはため息をつく。
「理解していない方が問題だ」
「相変わらず嫌な言い方するねぇ」
「事実だから」
二人の言い合いを聞きながら、レオンは剣を握り直した。
この七人。
性格も考え方も全く違う。
協力なんてできるのか。
そんな疑問が頭をよぎる。
しかし。
城の外から聞こえた叫び声が、その迷いを吹き飛ばした。
「助けて!」
子供の声だった。
レオンは反射的に走り出していた。
「おい!」
カイルが呼び止める。
「一人で行くつもり?」
「目の前で誰かが助けを求めている」
レオンは振り返らない。
「王子だからじゃない」
剣を抜く。
「人間だから助ける」
その言葉に、一瞬だけ空気が止まった。
最初に動いたのはノアだった。
「……やっぱり、優しい人なんだね」
森王国の王子は小さく笑う。
そして杖を構える。
「僕も行く」
「ノア?」
「森の生き物たちも、この世界で生きているから」
彼の周囲に風が集まる。
次に動いたのはユリウスだった。
「俺も行く」
「君は……」
レオンが見る。
ユリウスは少し困ったように笑った。
「俺、王子とか言われてもまだ実感ないんだよね」
雷の光が手の中に集まる。
「でも、困ってる人を放っておけないのは普通だろ?」
その言葉に、レオンは少しだけ目を細めた。
「……そうだな」
そして。
「仕方ない」
カイルが歩き出す。
「僕がいないと全滅する可能性が高い」
「素直じゃないねぇ」
ルークが笑う。
「助けたいならそう言えばいいのに」
「君は黙って」
「はいはい」
最後に残ったのはシオンだった。
誰もが彼を見る。
闇王国の王子。
呪われた王子。
関われば不幸になると言われる存在。
シオンは静かに目を伏せた。
「……俺は行かない方がいい」
「え?」
アベルが首を傾げる。
「近づけば、傷つける」
その言葉には、諦めがあった。
しかし。
レオンは迷わず言った。
「来い」
シオンの瞳がわずかに揺れる。
「……何?」
「七人の王子が集まったんだろ」
レオンは真っ直ぐ見る。
「なら、一人だけ置いていく理由はない」
シオンは何も言わなかった。
長い沈黙。
そして。
「……変な奴だな」
小さく呟きながら、歩き出す。
こうして。
七人の王子は初めて同じ場所へ向かった。
魔物が暴れる王都へ。
最初の戦場へ。
城外へ出た瞬間。
巨大な影が現れた。
二階建ての家ほどある黒い獣。
鋭い爪。
赤く光る目。
兵士たちが震える。
「まさか……」
カイルが息を呑む。
「上級魔物……」
レオンが剣を構える。
「倒すぞ」
「作戦は?」
カイルが聞く。
レオンは少し考える。
「俺が前に出る」
「単純すぎ」
「じゃあ君が考えろ」
「……」
カイルは一瞬黙り、ため息をついた。
「本当に脳筋だね」
だが。
その口元には、ほんの少し笑みが浮かんでいた。
「僕が弱点を探す」
「僕が動きを止めるよ」
ノアが続く。
「援護は任せて」
ユリウスの雷が弾ける。
「派手に行こうか」
ルークが槍を回す。
アベルは震えながらも魔力を集めた。
そして。
シオンは静かに手を伸ばす。
黒い影が魔物の足元へ広がる。
「……止まれ」
一瞬。
魔物の動きが止まった。
全員が驚く。
「今だ!」
レオンが駆ける。
炎をまとった剣が夜空を赤く染めた。
七人の力が初めて重なる。
炎。
氷。
森。
砂。
雷。
闇。
天空。
七つの力が一つになった瞬間。
魔物は大きな音を立てて倒れた。
静寂。
誰も言葉を発せない。
敵だったはずの七人。
それが今。
初めて同じ戦場に立った。
ルークが笑う。
「ねえ」
「ん?」
「案外、悪くないんじゃない?」
カイルは魔物を見ながら呟く。
「……まだ認めてない」
「はいはい」
レオンは剣を収める。
しかし、その表情は少しだけ変わっていた。
この七人なら。
もしかしたら――。
世界を救えるかもしれない。
だが、その夜。
誰も気づいていなかった。
遠く離れた闇の中で。
七人を見つめる者がいたことを。
「ようやく集まったか……」
低い声が響く。
「七人の王子」
「これで、計画を始められる」
王都の闇が。
静かに動き始めていた。




