運命の日、七人が集う
大陸には、七つの王国があった。
炎を司る国。
氷を司る国。
森を司る国。
砂を司る国。
雷を司る国。
闇を司る国。
天空を司る国。
それぞれの国は長い歴史と誇りを持ち、互いに干渉することなく存在していた。
争いがなかったわけではない。
小さな領土争い。
資源を巡る交渉。
王族同士の小さな衝突。
けれど、大陸全体を巻き込むような戦争だけは誰も望んでいなかった。
なぜなら、この世界には絶対に破ってはいけない約束があったからだ。
『王の聖印には決して手を出してはならない』
それは、遥か昔から受け継がれてきた言葉。
王の聖印。
大陸を覆う魔力の結界を維持する、七つの王家の力を集めた神聖な証。
それがある限り、大陸に眠る災厄が目覚めることはない。
……そう、誰もが信じていた。
その夜までは。
「……嘘だろ」
炎王国の王城。
真紅の絨毯が敷かれた謁見の間で、一人の青年が呆然と立ち尽くしていた。
レオン・アルヴァレス。
炎王国第一王子。
燃えるような赤髪と鋭い瞳を持ち、幼い頃から「次期国王」として育てられた男。
彼の視線の先には、粉々に砕け散った赤い宝石があった。
王の聖印。
炎王国が守ってきた聖なる欠片。
「誰が……こんなことを」
レオンの拳が強く握られる。
怒り。
恐怖。
そして、王子としての責任。
すべてが胸の中で渦巻いていた。
「レオン様」
後ろから老いた大臣が震える声で言う。
「聖印が砕かれた瞬間、大陸各地で魔物の出現が確認されました」
「……被害は?」
「まだ確認中です。しかし……」
大臣は言葉を詰まらせた。
「しかし?」
「古代の予言が、再び発見されました」
レオンは顔を上げる。
「予言?」
大臣は震える手で古びた巻物を差し出した。
そこには、古代文字でこう記されていた。
『七人の王子が集いし時、世界の未来は決まる』
レオンは眉をひそめる。
「七人の王子……」
嫌な予感がした。
そして、その予感は数日後、現実になる。
世界の中心にある王都アルカディア。
七つの国の王族だけが集まる巨大な城。
そこへ、七人の王子が集められた。
最初に到着したのはレオンだった。
「ここが王都か」
周囲を見渡す。
普段なら敵国の王子が集まる場所など存在しない。
それだけ、今回の事態が異常だということだった。
「ずいぶん偉そうな顔をしているね」
突然、冷たい声が響いた。
振り返ると、白銀の髪を持つ青年が立っていた。
カイル・ノース。
氷王国第二王子。
天才的な頭脳を持つと言われる男。
「炎王国の王子か」
「……氷王国か」
二人の間に、冷たい空気が流れる。
「まさか本当に来るとは思わなかったよ」
「それはこちらの台詞だ」
「へえ。脳筋でも少しは考えるんだね」
レオンの眉が動く。
「今、なんと言った?」
「聞こえなかったなら、耳まで鍛えた方がいいんじゃない?」
その瞬間。
「はいはい、初対面から喧嘩は禁止ねー」
明るい声が割り込む。
砂色の髪を揺らした青年。
ルーク・サンドラ。
砂王国の王子だった。
「せっかく七人揃うんだから、仲良くしようよ」
「軽いな」
カイルが呟く。
「人生楽しまなきゃ損でしょ?」
ルークは笑う。
しかし、その笑顔の奥にある影に気づく者はいなかった。
その後も次々と王子たちが現れる。
森王国のノア。
穏やかで優しく、動物と心を通わせる不思議な王子。
雷王国のユリウス。
王子とは思えないほど普通の服装をした少年。
そして――
最後の二人。
天空王国のアベル。
まだ幼さの残る少年。
そして。
闇王国のシオン。
黒い髪。
冷たい瞳。
彼が姿を現した瞬間、周囲の空気が変わった。
「……闇王国か」
誰かが小さく呟く。
闇王国。
昔から恐れられてきた国。
そして、その王子。
「呪われた王子」
シオンは聞こえているはずなのに、何も反応しなかった。
ただ静かに七人の前に立つ。
「これで全員か」
レオンが言う。
七人の王子。
まだ互いを知らない。
まだ信じてもいない。
ただ、それぞれ違う国の代表として集まっただけ。
しかし、その瞬間だった。
王都全体を揺らすほどの轟音が響いた。
ドォォォン……!
城の外から悲鳴が上がる。
「魔物襲撃!?」
兵士が駆け込んでくる。
「城壁が破られました!」
七人の王子は顔を見合わせる。
誰も予想していなかった。
まさか、集まったその日に。
世界を救うはずの七人が。
最初の戦いを迎えることになるなんて。
レオンは剣を抜く。
「……行くぞ」
「命令?」
カイルが笑う。
「違う」
レオンは前を見る。
「これは、俺たちが選ばれた理由を確かめるためだ」
七人の王子。
まだ仲間ではない。
まだ友ではない。
それでも――
世界の運命は、今この瞬間から動き始めた。




