雨が降る
「本当に降った! 門構えでお願いして、神様は叶えてくれるんだ!」
私がすごいすごいと素直に言っていると、バロが私をしげしげと眺めてこういった。
「そんなに簡単に解決しちまうのかよ、お前……」
「雨はちゃんと降ってちゃんと止めばいいんだって、違う?」
「違わねえな。で、神官様。この事はどう判断いたすんでしょうかねえ。おれの妹だ。下手な連れ去りは出来ないだろうがな」
バロの言葉を聞いて、神官は硬い顔で頷いてその言葉を肯定した。肯定しなくてはならないもののようだった。
それは、バロがなんだか特別な扱いみたいだったけれども、バロはどこをどう見ても、体格のいい若い男であるばかりで、特別性のあるものは感じ取れない。
いいや、その異様なまでに光を放つ銀の目は、普通ではないけれども。
頷いて肯定した神官が、険しい顔で口を開く。
「……何もかもが前例にない。大神殿に事の報告をしなければならない。水のフィブラを鳴らす事も、雨を呼ぶ事も、何もかも」
「おれにとっても都合の良い結果にしてくれると助かるぜ、妹を置き去りにするのはしねえんだ、これでもな。兄貴じゃねえからよ」
「ああ」
外からは、嬉し泣きの声が響いている。興奮しきってまともじゃない発音をしている人も多い。ギルドの中に居た人の中にも、外に飛び出して空を見上げて手を伸ばして、感極まって泣きじゃくる人がいた。
何か、とても大きくて考えつかなかった物事が、動きだしてる、そんな不思議な気分で、でも確かだったのは。
「バロ、港町からどこに行くの? 砂漠の都?」
私の行く先は、バロが決めている、という現実だった。
***
水のフィブラは神殿の人がなんとしてでも見つけ出そうと必死に探していたものだから、私の手に渡る事はなくて、あんなきれいなものをうっかりなくしたら大変だから、もらえなくてよかったと心底思った私は、多分結構ずれている。
「すごいお宝だって聞いたせいだろうな」
「バロはお宝は皆欲しいの?」
「おれの夢はこの世に百あるという大秘宝を皆この手で掴むって事さ。大盗賊カシミーアは五十で寿命だったって聞いてるからな、おれは全部がいいのさ」
「今まででいくつ見つけたの?」
手を繋いで水の滴る世界を歩く。街の人達は皆うかれ騒いで泣いて笑って、こんな風に降る雨粒を焦がれ焦がれて死にそうなくらいだったと伝わってくる熱量だ。
その中を歩く私達は、空気が少しだけ違うだろう。
「あー……痛いとこ突くよなぁ。実は三つしか見つけてねえんだ」
「そんなので死ぬまでに夢が叶うの?」
「叶わなくとも夢のために生きるのさ。それが”約束”だからな」
「誰かと約束をしたの?」
「おう。とびっきりのいい奴で面倒くさいのとの破っちゃいけないお約束さ」
バロのいう奴というのは、なんだかとびきりに変わった人みたいな気がした。
「”この命は果てるその時まで夢を貫く”ってのがおれの譲らねえところさ。格好いいだろう?」
「早死しそう」
「お前は女の子って感じだよなあ、そこらへんに夢ってもんがねえ」
けっけっけと笑うバロは、繋いだ手を確認して、さあてと、呟いた。
「これだけ皆喜んでるんだったら格安で砂漠の都までの荷車のお供ができるぜ、大体こういう祝い事の時は格安になるって決まってんだ」
「雨が降ったらお祝いなの?」
「六年、この場所では雨が降らなかった。船でも言われてただろ、これ以上雨が降らなくなったら船を動かせねえって」
「うん」
「そんなギリギリの世界で、誰が祈っても誰が望んでもろくに降る気配を見せなかった雨だ、皆気分はお祝いさ」
そこまで言われて、私はどうやらかなりありえない事を、平然と行ったらしいと知ったのだった。




