表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しい世界じゃなくたって  作者: 家具付


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/19

意味のある名前

港町から砂漠の都に向かう隊商の一つに、バロがあの手この手で同行させてもらえるように頼んだから、私もバロと一緒にその大きな隊商の、幌馬車の隅っこに揺られて移動する事になった。

バロは単純に、普通に旅をする時はもしもの時のために、大勢で移動するのが正しいと知っていたらしい。

それが私には不思議だった。


「一人での旅が危ないのに、森でどうして一人で倒れていたの」


「森に入る前はそこそこの人数で居たんだけどな、そいつらがいきなり目的地を変えるだとか抜かしやがったから、しぶしぶ一人ぼっちでの森抜けになっちまったんだよ。おれはちゃんと依頼を果たすために、普通の人間らしい旅をしてきたんだぜ。なのによお、いきなり、砂漠への関所じゃなくて隣の緑の国に行くだとか言われちまったもんだから」


「それでも一人で大丈夫じゃなかったんじゃん」


呆れた私の指摘に、バロがうんうんと頷いて同意した。


「途中で飯の配分を間違えちまってよ。森の深さの計算を間違えた。いつもだったら森の獣を捕まえて食っちまうんだが、狩りに失敗続きでな。何しろ獣という獣に出会えなかったもんで」


「いつもっていう時だったら、森の動物を捕まえて食べてたから、倒れなかったの?」


森の動物をそんな簡単に食べられるものにできる才能が、この男にあるのだろうか。

生き物を捕まえて捌いたりする人は、それなりの技術職だ。街では肉屋の人がそういった事を請け負っているし、下町の人達はそもそも狩りというものが許可されていないから、そういった事も出来ない。

狩りが許可されているのは、王侯貴族ばかりだ。普通の村の人や街の人は、森のなんちゃらかんちゃらを守るという事で、それが許されていない。

母は前に、その事を破った人間が磔にされた事もあったと言っていた。

それくらい、狩りができる人間は街の人間にとって普通、じゃない。

私の常識とは違って、そこでバロは胸を張った。


「おう。森の中でぶっ倒れるなんておれ様一生の不覚だぜ」


そんなもんだから特に、お前のパンはありがたかったぜ、とバロが笑う。私はバロに出会えてよかったと思うから、それに対して偉そうな態度は取らない事にした。


「でも、バロ、どうして自分の事を軽業師って言ったの? バロのギルド登録がそうなの?」


「そうさ。おれは平和主義なんだよ。いつもは軽業で生計を立ててんのさ」


「そのごつごつの体で軽業って変なの。戦士とか言われたほうがわかるのに」


「おれは雇い主のために戦うってのが性に合わねえの。軽業師なら戦うために頭下げなくていいだろ」


話を聞いていてもよくわからない基準だった。でもバロの基準はバロのもので、バロが正しいと思う事が、バロの基準と言うやつなのだろう。

意味のわからない部分がたくさんある男だった。

バロは安全な日陰の幌馬車の中で、その砂漠の陽の光の下だと一層強い光を放つ、銀色の目を外に向けている。今は休憩だ。砂漠の都に向かうためのオアシスに立ち寄っているのだ。

そのオアシスも、ぎりぎり涸れていないという位に水位が低いらしい。


「ここももうじき駄目になるのか」


「そうなったら、新しいオアシスを探すべきだろうか」


「この経路が最も砂漠の都に早く到着できる道だったんだが……背に腹は代えられない。水がなければ全滅だ」


隊商の人があれこれと意見を交わしているから、そうだとわかったのだ。その意見を交わす調子は困り果てた感じがして、ふと、ここで水のフィブラがあったら雨をここに呼べたのだろうか、と疑問が頭に湧いた。


「ねえ、バロ。フィブラでここでも雨を呼べたと思う?」


「はあ、わかんねえだろそんなの。神々ってのはとっても気まぐれ極まりねえって相場が決まってんだ。一度出来たから二度目も、なんてのは甘い考えさ」


「そっか。……でも、皆困ってるのに」


「神様は人間が困ってるなんて、大した問題じゃねえのさ。いつだってそうだ。神様の都合で人間はいつでも振り回されんだ。そうじゃなきゃ神様って言わねえのさ」


「バロは神様が大嫌いなの?」


「あっはっは! おれは神様に命を救われた側だからな、大嫌いじゃねえよ。ただすごーく都合に振り回された昔があるから、言いたい放題してんのさ」


「罰が当たったりしないの? 神様に対して失礼な言葉を言うと、罰が当たるって神官の人はいつも言う」


「当たらねえよ、なんというかな、完全に面白がられてんだおれ」


その言い方は、神様に対して個人的に何かつながりがあるような言い方だった。


「ああ、軽業師。水の補給を手伝ってくれ。そっちの子は他の子達もそうだが、日陰で休んでいなさい」


「ほいきた」


バロが隊商の商人に呼ばれて立ち上がる。この体格だから、重たいものを持たされる手伝いは必然らしい。乗せてもらっているから、何かしら手伝わなくちゃいけないのに、私は小さすぎて役に立たないとみなされて、休んでいろと言われてしまう。


「アイーダ、いい子で待ってろ。夕方になったら出発だ」


「うん」


バロが外に出ていく。気の所為だったのだろうか、バロの周りで、しけった何かが揺れ動いたような気がした。

バロは水の神様と深い関わりがあるわけじゃなさそうなのに。

水のフィブラもないのに、どうして水の気配がしたんだろう。私の勘違いなのだろうか。

幌馬車の中で座って待っていると、他の幌馬車の中に居た同じような歳の子達が乗り込んできた。


「はじめまして、新入り」


「はじめまして。私はアイーダ」


「アイーダ? ふうん、ダサい名前」


「人の名前にケチつけないでよ」


「だって祝福のなさそうな名前だから」


意味が伝わらなかった。この子達には意味のある調子だから、砂漠の常識なのかもしれないと思って、聞く事にした。


「私、大河の向こうの国から兄貴と来たの。だから砂漠の事なんにもわからないの。ねえ、教えてほしいな。祝福のなさそうな名前って何?」


私の自己紹介に、彼らは納得したみたいだった。特に、大河の向こうって言葉が大きかったみたいだ。


「大河の向こうじゃ色々違うね。あっちはいつでも草が生えてる緑の世界って本当?」


「こっちみたいに砂の世界じゃないのは確かだけど」


「そっかあ。じゃあ悪かったよ。言い方尖ってて。あ、砂漠だとさ、生まれた子供には、祝福が与えられるような、縁起のいい名前を子供に贈り物として上げるのが普通なの。俺は美男子って意味があるハッサン。こっちは幸運な人って意味のサイード。皆言葉に意味があるんだ」


「バロは私の名前にも意味があるって言ってたけど」


「アイーダの名前の意味は知ってる。助ける人って意味だろ、だからダサいって思ったんだ。子供の幸せが、誰かを助ける事なんて、おかしいじゃん」


「そっか、そういう意味だったんだ」


彼らなりの考えがしっかりあっての言葉だったのか、と意外に思いながら私は頷いた。


「たしかに、誰かを助けるって、儲けにならないもんね」


「儲けだけで世の中測るなって大人は言うけど、この世は金が回るから人間が生きていられるんだから、儲けの事が大事になって何がおかしいんだろうな?」


私より年上みたいなハッサンの言葉に、なるほど、商人の子供だからそういうしっかりした根っこの部分があるんだなと思ったのだった。

それから、私は彼ら彼女らが教えてくれる、砂漠の都である、紅玉の都の話を聞かせてもらった。

紅玉の都と言われるゆえんは、いたるところに、赤い宝石のついた飾り柱が立っているからだという。飾り柱が夕方になると、夕日を反射してすごく綺麗な世界ができあがるのだという。世界が赤い宝石の中に浸っているみたいな、世界だとか。

神秘的ってやつなのだとか。


「見てみたいな、そういう世界」


「都に行けば見られるだろ。でも、都も今苦労してるって話だ」


「どうして?」


「公共の水場が干上がりそうだから。水路の調整をどれだけしても、そもそもの水源が大変な事になってるから、あんまり役に立たない」


枯れない聖なる井戸も渇れかけているって兵士達がコソコソ話してた、と誰かが言う。


「新しい王様が頑張って雨を呼んでるから、砂漠はぎりぎり持ちこたえているけど、もう何年も水不足だから、砂漠だけじゃなくて他の国も大変って母ちゃん話してた」


「緑の多い地域でも、作物が育ちきれないって聞いた」


「新しい王様が、なんとかして雨の量を増やそうとしてるけど、水の神様のご機嫌が悪いから、なかなかうまくいかないって」


「でも、王様がすべてをかけて水の神様の怒りを弱めているから、まだ雨がたまに降る」


「王様が雨を呼べるの?」


聞いた事のない考えだから聞き返すと、彼らが頷いた。


「砂漠の王様は、そうなんだってさ。大人達の言う事は難しいけど」


雨を呼べるような、魔法の力のこもった何か特別な道具を使っているのだろうか。

もしかしたらその道具こそ、水のフィブラみたいなものだったんじゃないだろうか。

そう考えると、バロに対して、神官が探し回らせていた事も納得できる。それだけの大事な儀式のための道具だから、盗まれたか勝手に持ち出されたかして、行方知れずになっちゃって、四方八方に手を尽くして探していたのかもしれない。

神官があれだけ安堵した顔をしていたのも、それだけの品物だったなら当然だろう。

それにしても。


「なにか特別な道具を使っているのかな」


皆に聞いてみても、知らない、わからないとしか答えが返ってこないから、わからないものだらけだな、という感想を抱いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ