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優しい世界じゃなくたって  作者: 家具付
アイーダ?? 十八歳
51/56

審判

「はあっ、はあっ、はあ……」


ようやく口から出す事の出来た拒絶の意思。

そして、それを口から出した後に、身体を襲ったのはひどい目眩だった。

目が回る。足元が揺れる。

息が切れて、呼吸もままならなくなりそうな、そんな疲弊感と脱力感が、体中を支配し、今にも意識を刈り取ろうとせんばかりだ。

その理由は見当がついている。先程まで自分の体を思うままに操り、そして心すら支配下に置こうとしていた術のせいだ。

あの手の術は本来、かけられた人間が反抗しないようにするために、その術を使われいる間、その術が解けないでほしいと思うほどの至福を与えるとされている。

本来ならば、ここまで術に対して反発される事はない。

術をかけられた人間が、更に、更にと欲しがり求める術であるがゆえに、詠唱者が術を重ねてかける事はあまりないのだ。

しかし自分はそれに長時間抗い続けた。並大抵の人間が抗えないような術に抗うというのは、とてつもなく心身が消耗する行為なのだ。

それを行ったゆえに、自分はここまで疲弊し、身体も精神ももう疲労が著しいのだろう。

だが。


「……はっ」


荒い呼吸で、目の前の皇帝を睨みつけ続ける。ここで、意識など落としてしまったならば。この婚礼の儀式のやり直しが行われるであろう。

果たしてその時、今と同じだけ術に抗えるかは予測がつかない。

術を誰の差し金がかけてきたのかは不明だ。だが術者同士が協力をしたならば、この身の上がどんな傾向の幻覚や幻聴を見せれば、心が揺らぐかが共有されるであろう。

そうなって、更に精度の高い支配を受けてしまった時、自分はそれに抗い切る事が出来るだろうか。

今ですら、あの幻覚に心が揺れ、その幻聴に意思が思い切り揺らいだのだ。

おそらく、二度目に立ち向かえる事はない。

誰も自分の声など聞かない。この聖なる場所たる大神殿の大神官ですら、拒絶の意思を汲み上げる事をしなかった。

そうだ。術に抵抗する間は、緊張のあまり声の出ない花嫁もいるであろうと思ったが、黙りこくった花嫁に、一言も大神官は言葉を投げかけなかったではないか。

つまりそういう事なのだ。

何者も自分の言葉を聞く気がない。

一欠片でも慮るつもりがない。

誰も、何も、何人も、自分に意識を砂粒ほども向けていない。

ふざけるな。

そこまである程度の冷静さで、物事を判断しようと試みていた頭が、燃えるように感じたのは、怒りだった。

憤怒と称してもいいほどのそれが腸も心臓も何もかもを焦がしていく。

ふざけるな。

予想もしなかった事なのか、青褪め数歩の距離を置く皇帝を睨み据えながら、頭に浮かぶのはそういった感情ばかりだ。

ふざけるな。



皇帝も、大神官も、祖父も、周りの人間達も、そして……リアスが喪われた痛みに、一番寄り添えたはずの、母を称する女も。


誰一人として、こちらの感情を、思いを、願いを、祈りを、まともに取り合わないというのならば。

……自分が、あれらのそれらに、寄り添う理由など欠片もない。

ここには、”リアス”もいないのだ。

何もない。何もない。何もない。

あの中に、失いたくないものなど、もう、何もない。

この心の中の、奪われたくないものを、誰しもが奪おうとしてくるのならば、奪われる前に。

呼吸を行う。頼りなく揺れて、今にもくずおれそうな足を踏みしめて、赤く塗られた忌々しい唇を開く。



「”のろいあれ”」



唱えたのは、この世でももっとも呪わしい言葉だ。

唱えてはならないから、と砂漠で教えられた、神が発した音を真似た言葉。

滅多な人間では唱えられない。事実これを教えた神官は、一言唱えたために倒れ、一週間生死の境を彷徨った。

何故それだけの言葉をと問うと、知らないがゆえに、何者かにそそのかされて唱えてしまったら大変だから、教えるのだと言われたのだ。

その呪いの言葉には、唱え方という物がある。


「神官を呼べ!」


「いいや術師だ!」


「聖水じゃないか!」


「おお、神よ!!」


呪いの言葉が、回りだす。その重さに、おぞましさに、悲鳴も上げられずに膝をつく招待客その他。そしてかろうじて動ける、抵抗力のある人間にそういった悲鳴を上げさせている。まだ動ける余裕があるらしい。

”僕”の邪魔などさせない。


「”のろいあれ”」


唇は二度目を連ねる。重さはもはや比較にもならないであろう。抗おうとする、そう言った精神力の高い人間達も膝をつく。もはや誰もが膝をつき、自分に近寄る事も出来ない。

皇帝は青褪めたまま腰の剣を掴みながらも、膝をつき、かたかたと抑えきれない震え方で体を揺らしている。

邪魔などさせない。誰にも何にも、誰もこちらの心の小さな思いすら理解しようとしなかったのだから。

必死の訴えに耳をふさぎ、聞かなかった事にしたのだから。

自分が、周りのそれらを無下にして何が悪い。


「”のろいあれ”」


さあ、呪いの言葉も後少しだ。

これで全てを呪う事ができる。奪おうとした世界を。いいや、奪い取って嘲笑った世界を。そして神の発音を真似たこの呪いは強大で、そして、唱え終えられる者はこの言葉を伝えられた後の歴史の中でほとんど居ない。

いいや、誰一人としていない。

一度目で、皆、言葉を唱える禁忌を感じ、口が動かなくなるのだから。

そしてそうでない場合は、その死を持って阻止されたと聞く。

だが自分はそんなもの、もう、どうだっていいのだ。


「”この、”っ、あ……?」


あとは己の名前を唱えて、名において、と唱えて呪いを結び終えれば、良かったはずなのだ。

だと言うのに、そこで、声が、喉が、思考が、止まった。


「……あ?」


自分は、僕は、私は、……誰なのだ?

この呪いで偽りの名前を唱えても呪いは結び終えられない。己の名前を唱えなければならないというのに、なんと名前を唱えればいいのかが、わからなくなった。

自分の、ただしい、名前は、なんだ。どれだ。どの名前だ。どちらだ。

どれを、唱えるべきなのだ。

イッサか

アイーダか

ここで名前を間違えれば、呪いは完成をしない。

思考が乱れる。口が動かない。己の名前が出てこない。選べない。どうしてだ。

周りを巡る呪いの動きが止まる。意図せず中断された呪いの力が、滞る。

頭が、痛い。痛みでこめかみを抑え込む。どうしてここで、自分の名前という物が邪魔をしてくるのだ。

頭の痛みなど、と思う。それだけならば言葉を続けられるというのに、肝心要の己の名前が、わからない。

立っていた足が、とうとうくずおれて、膝をつく。ついには、床に倒れ込みそうな身体を阻止するために、手をついた。

そして周りが、呪いの停滞により、動きを取り戻し始める。


「皇帝陛下、お下がりを!」


「術を使える神官を全て連れてこい!」


「今いる者達! 花嫁を抑えろ!」


「大神官様!!」


そんな声が飛び交い始めた、だが誰もすぐには動きたくとも動けない、そんな時。


「おいくそじじい!!! 時間と場所を指定しやがったくせに、モウシオクリってやつはねえのかよ!!」


耳をつんざかんばかりの、粗野で粗暴な怒鳴り声が、神殿の儀式の間のその、正面の扉が破られる音と共に、響き渡った。

周りが異様な侵入者の登場に、悲鳴すら失う。

乱雑な大柄な人間が、近付いてくる足音がする。


「ったくよお!! あんな急にやれこっちこいだの、この時間までに来いだの、この場所に来いだの言うんだったらなあ!! なんとかあの手この手で駆けつけたやつがどんなやつか、ってのを、入口だので睨んでる連中に言っておけよ! 不審者だなんだってうるせえんだよあいつら! 無駄な手間だぜ!」


その足音は、それなりに重い体重の二足歩行の生き物の足音で、声は人間の物であろう。

聞いている耳が、その声がどんなものなのかを受け止めきれないのか、言葉はわかるのに、意味もかろうじて分かるはずなのに、何かが拒んでいるような感覚に襲われる。

この声は、誰の、声、だ?

そして足音が、ついに、間近な所まで来ているのに、顔があがらない。息を整える事で精一杯だ。


「くたびれたぜ。まったく。……あ? おい、お前」


下を向く自分の視界に、その何者かのつま先が映る。ありふれた靴だ。よくある。長旅に備えられた機能しかない、ありふれた靴。


「ずいぶん、ちょっかいかけられて混ざってんだなぁ、つらいだろ」


その、誰か、が膝をつく。長旅でくたびれた旅装のズボンが、視界に入り込む。


「大丈夫かぁ?」


その呼びかけで、顔が跳ね上がった。私はちゃんと知ってる。ずっと知ってる。その言い方が、誰の言い方だかってのを、ちゃんと覚えてる。


「……あ」


呼びたかった名前のどれもが、違ってた。髪の色が、目の色が、知っていたそれと全然違ってたから。

日焼けした肌色、大きな豪快な口元、すぐなんでも顔に出る太い眉毛に、喧嘩でできた勲章だとか無駄な自慢をしてた目元の傷跡。

どこを向いているのか、すごくわかりやすくて、よく分かりやすさで笑いあった三白眼の形。いらないんじゃないって言いたくなる長いまつげ。

全部全部、知ってる。ずっと見てきた。なのに。


「よお。顔色わるくね? あ、白粉か!」


笑いかけたその男の髪の毛と、目の色が、知ってるそれじゃなかったんだ。


「色、ちがう……」


声が思ってたよりがったがたになってる。普段だったら笑っちゃいたくなるくらい。

だらしないって言いたくなっちゃう位に声がおかしくひっくり返ってる。

でも勘弁してほしい。それくらい、色が、違うんだ。


「んー?」


顔が面白がった風に左に動いた。手入れさぼるからって、あんまり伸ばさなかった髪の毛は、赤かったはずなのに。


「だって」


繭が終わってからは、同じ地味な茶色の瞳だったはずなのに。


「全部、あおい」


なんだかよくわからないまま言ったのに、そいつはにやにや自慢そうに笑ったのだ。


「おう、きれーな色、だろ?」


髪の毛と、目の色が。

一番澄んだ水が、空や海の色を固めたみたいな、そんな、人間っぽさのない色だったんだ。


「神様がよお、身体作り直した時に、面白がって染めたんだ。探す手間が省けるとかなんとか。全てをあまねく見通す御方なんだから、そんな手間ないんじゃねえのって思ったけどな。いい色だろ、気に入ってんだ。お前も青色好きだろ?」


こんな言い回しを知っている。

こいつは何回周りを固まらせたらいいんだ? 年がら年中ぶっ飛んだ発言を繰り返す、って、呆れられてたのに、直らないんだ。

その前に、なんで、なんで、どうして、どういう方法が。

聞きたい事も言いたい事も溢れて止まらなくなりそうだった。それくらい色々ぐちゃぐちゃになった。

なのに。


「しかしえれー豪奢な衣装着てんだな。ん? それ花嫁衣装か! おーおー金かかってんだなぁ。でもお前」


しげしげとまじまじとこっちのドレスを見て、ちょっと笑ってから、不思議そうに顔が近付く。


「白粉で見えなくさせてあるけどよぉ、死にそうな面だぜ。……」


目が、長いまつげが、ちょっとだけ、感情が丸裸の三白眼を隠して、それから開いてこっちをまっすぐ見て、自分が尊敬したい人以外には、どれだけ怒られても敬語を使えない口が、迷わないで動く。


「結婚、してえの? おれにちゃんと、お前の言いたい事、聞かせてくれよ」


金の帝国の皇帝との結婚が決まったという事を教えられてから、ずーっと、誰も言ってくれなかった事だった。

ちゃんと、ちゃんと、やっとちゃんと、聞いてくれる人が、もう、人じゃなくてもいいけど、来てくれた!!

それが嬉しくて、嬉しくて、なんだかすごく泣きたくなって、顔が思いっきり歪んだ。


「やだって、言った……!! やだ、いや、結婚しない、やだ、って、ずっと、ずっと言った! お願いもした! 出来ないって!! なのに、なのに、誰も聞いてくれない、聞いてくれない、くれなっ……」


「お、おい、そんなべしょべしょに泣き出すくらいいやだったのかよ」


「うう、うえええええええん!!! やだって言ったあああああああ!!」


喋っている間に、ちゃんと聞いてくれるから、なんだか小さい子みたいな泣き方と言い方になってきた。

わんわん泣き出した私を見て、何を考えたんだろう。

少し息を止めたような気配を出した後、めったに無い慎重な感じで、聞かれた。


「お前の母ちゃんは?」


「きかない!! あんなひと、だいっきらい!! かえりたい、かえる、かえる、ってずっと言ったのに!! いい御縁だとか、夢見る結婚だとか、そんなのばっか! お家にかえるって、言ったのに!」


「そっか」


次に起きた事で、やっと多少は自由が効くようになった周りが、思いっきりどよめいた。


「ごめんなぁ、出遅れた」


「ううう、ううっ、ううっ」


そらそうだ。結婚式の真っ只中で、新郎じゃない男に花嫁が抱きしめられたらそりゃどよめく。

抱きしめて、乱雑でも優しくて大きくてあったかい手のひらが、頭を撫でている。


「そんなに嫌なら、結婚なんてするなよ」


「そういう、あたりまえのことっ、言ってくれる人、いなかった!!」


「おいおい周りやべーって、なんだそれ。お前の中身ぐちゃぐちゃだし、なんか妙な術の臭いだの濃い薬だのでくせえし、お前に何起きてんだ。おれぁおれの神様じゃねえから全部は見れねえんだぞ」


心底理解できないという調子で、私の言いたい事、伝えたい事に頷いてくれる普通さに、ぎゅうっとしがみつく。周りがまたどよどよとざわざわと空気を揺らした。


「お前、どうしたい」


「連れてって! ここじゃないところ! 話聞かないで結婚しろって言わないところ!」


感情がダダ漏れになっている。でももう、止めたいと思わなかった。我慢したいとも。

抱え込んでくれる腕の力が、少し、強くなったのに安心してしまう。


「そんなのはかまいやしねえよ。……で? そこで腹の中で大爆笑してるじじい、これどうにか収められんだろ。おれをこんな面倒な場所に呼び出してんだ、少しはまとめる事してくれ」


そこで私は、声が投げられた方、大神官が立っている祭壇のさらに奥の、一層神聖な廟の方ががたりと動いたから、そこに誰かが居た事に気がついた。


「え」


「まったく。お前はこそこそ、だの、ひそひそ、だの、穏やか、だのがどうして出来んのだ。そんなに両手を血まみれにして、死人でも出したか」


「はあ? 神殿で死人出すなんざ、誰がやるかよ。おれの事なんだと思ってんだじじい」


「向こう見ずで猪突猛進で出たところ勝負の博打打ちで脳筋」


「ハズレがねえのが癪だな」


「怒らんお前もいつも通りだ。さて、ここでこの荒野のじじいがここを丸く収めてやろう。お前を呼びつけたのも、このためだしな」


「おい」


「仕方ないだろう。全ての人間の婚姻にいちいちああだこうだと言うのは、あの御方の性分ではないわ」


そこで現れた、前に会った事が一回だけあるあの、盲目のおじいさんが、皮肉そうに唇を歪めた。


「……普通は、な」


そこで、そのおじいさんが、なんだか、目をつけられたらいけない、ものすごく頭の良い狼みたいな空気になった。

おじいさんが、大神官と、皇帝の方を向いた。なんだか、ものすごく、おじいさんの身体が膨らんだ様に見えてくる。本当に小柄な人なのにだ。


「大神官。皇帝の坊主。この婚儀はこの大神殿で祀る神の名において、撤回とする」


おじいさんが、誰も止められないとでも言うかのように、そう、宣言した。

悲鳴に似たものが響いた気がした。誰かが倒れたような物音もする。

目の端に映った、祖父と母を名乗っていた人達が、もう死んだ顔よりなお悪い顔色でこっちを見ている。

おじいさんの声は大神官に投げられていて、大神官はかたかたと震えている。

おじいさんはそんなに、怖いという風な言葉を喋ってないのに。


「け、賢者さま……何故」


大神官が、恐怖で引きつった声で言う。否定してくれと言いたそうな声だ。


「はっ、あの御方を奉る神聖な大神殿で執り行う、あの御方がもっとも祝福と祝いを授ける儀式たる婚儀の契約において、お前、何を黙認していた? 知らんかったは通じんぞ。あの御方はその回数を存じていらっしゃられる」


「ひっ」


「警告は繰り返されていたはずだ。悔い改める時は何度も与えられていた。それを無視したのはお前達だ」


おじいさんが言い放った。


「お前、何度、婚儀を行う人間の意思を奪い、婚儀を執り行った? あの御方は双方の納得のない婚儀を、愛のない婚儀よりも嫌う雌狼だ」


気配、っていうのだろうか。なにかが変わったと思った時だ。


「おい、おれの肩に顔を埋めろ、見るな」


私を抱きしめている手が、強制的に、顔を肩に埋めさせた。


「人間が見ていいもんじゃねえ」


その気配が、大神殿の中を通り抜けて出ていった、と思った時に、やっと手が離れた。


「じじい、随分派手だな」


「もうここを捨てるのだからな、最後は派手にでもやっていいだろう」


「じじい、ここを捨てるのか」


「もうここまで馬鹿にされて、いるわけもないだろう。あの御方をこれだけ侮辱する馬鹿揃いの神殿ではなかったのだがな、前は」


「時代ってのは難しいなあ」


「ちがいない。……お嬢さん、助けずに見捨てるようで申し訳なかったな」


おじいさんとの呑気なふうな会話だけど、周りは呑気なもんじゃない。


「……全員死んでる?」


「ここで死なせるか。伝えられる人間を皆殺しなんぞにしたら、誰にも最終告知が伝わらんわ」


儀式の間は不気味なくらいに静まり返っていて、私と、おじいさんと、彼だけが意識を残していた。

後は全員気絶しているんだろう。殺してないなら気絶だ、たぶん。


「お嬢さんの意思を、大神官が汲み取るかどうかを、見届けんと、動けん事になっていてな。あとあの皇帝の坊主が汲み取るかどうかもな。判定というものが厳しいんだ」


「……」


「一応、これもお嬢さんへのお詫びだ。大神殿の全ての人間の意識を刈り取ってくださった。逃げるなら今が一番だ」


「はい!」


確かに全員なら邪魔も入らない。私は立ち上がろうとして、でも、立ち上がれない。


「わっ」


「ちょっかいのせいだな。あんな臭いのに長い間支配されないようにがんばったんだ、身体もくたくたって事だろ」


そういって抱き上げられて、にやりとした笑顔が、おじいさんに向かう。


「じじい、呼び出した後はちょいと文句があったわけだが。……呼んでくれてありがとうよ、おかげで助かった」


「だから呼び出したんだろうが。まったく。申し送りだなんだと。だが」


おじいさんが抱えられた私を見上げて、笑いかけてくれた。笑い方は人懐こい何かがある人だ。


「優しくて不器用なお嬢さんに、今後幸がある事を、この、荒野の賢者はあの御方に祈らせてもらうぞ」


「あ、はい。……最後はありがとうございました」


こうして私達は、大神殿の中で誰も邪魔をされずに、逃げ出す事に成功したのだった。

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