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優しい世界じゃなくたって  作者: 家具付
アイーダ 十六歳?
35/56

怒涛の展開

がたがたと何かが揺れる。兵士達が耳をふさぐ。まだだ。まだ声量が足りない。私は二段声量を上げた。

もはや衝撃波といったのはこれを教えたおばさまだ。おばさまは神官の儀式の際に、声量が届かないなんてみっともないからととんでもない声量で祝詞を唱える方法を教えてくれた。

でも、その際に絶対に狭い場所でこれをやっちゃいけないって言った。


「人を気絶させる音だわ、あなた」


そう言って微笑んだおばさまの身に付けさせてくれた特技で、兵士達がばたばたと倒れていく。


「おじいちゃん行くよ!」


「なんて声だ……」


老爺がふらつきながらも私の手を掴んでくれる。


「逃げて生きるんでしょ、おじいちゃんのお礼に老後の面倒見てあげるから大目に見て!」


「あっはっは! この爺さんの介護をするというのは大した胆力だ!」


老爺が大笑いをして私達は牢獄から外に続くはしごを大急ぎで登りようやく外に出られたのだった。




「明るい」


「明るさだけはなんとなく見える気がするな」


「おじいちゃんそれは感じるんだ」


「陽の光の温かさがよくわかる、ああ、お日様はなんて暖かいんだろう」


「おじいちゃん、泣くのは後にして。ここの後の経路わからないから出たとこ勝負なんだから」


「おう」


私達は牢獄の見張りを軒並み気絶させていたみたいで、誰にも邪魔されないでどこかの回廊に出た。


「おじいちゃん、なんだかあっちが騒がしい」


私は回廊から続く経路の一つにそういった。


「ああ、たしか今日は結婚式だと聞いているなあ、なんだかとても美しい女性と、その女性に長い間恋をしていた男の結婚式だとか」


「へえ、……って事はあっちが正規の大きな出入り口ってことか」


「おじょうちゃんは建物の作りがわかるのか?」


「わかると言うよりも、物乞いが道を間違えて入ってきちゃったってふりをすると、外に簡単につまみ出してくれる現実を知ってる」


「なるほど、つまみ出されるという方法で脱走を完了させようというのか」


「うん。おじいちゃん殴られても死なないでね、おじいちゃん殴るのは止めさせたいけど」


「おじょうちゃんと一緒だと退屈しないなあ、いつかあった神の御子のようだ」


「神の御子っていっぱいいるの?」


「さてな、わしが大昔に出会ったのは、綺羅星のように命の輝く御子だった」


「へえ」


「生きる事に執着して、ぎらつく瞳が何よりもきれいだった。茶色の瞳があんなにも凡庸に見えなくなるとは思わなかったな」


「強そう」


「実際にあの御子はきっと強かっただろうなあ、知らないが」


「そっか、じゃあ……物乞いのフリ、行くよ」


「おう」


というわけで、私達はいかにも行儀の悪い足取りをしながら、回廊を歩き、結婚式が行われているのであろう大聖堂の一番立派な空間に入ったのだった。


「おい、お前たちどこから入った!」


「ぱ、ぱんをちょうだい、おなかがすいたの、なにかちょうだい、いい匂いがするの」


「わしらに神様のおめぐみをくだされ、はらがへってはらがへって」


兵士が剣呑な声で言った後、私達の見た目が明るいところだとボロボロで、汚くて臭ってきそうで、いかにもそういった事で生き延びている人だと思ったらしい。

別の兵士がその兵士を小突いて言う。


「迷い込んだ物乞いだ。パンを二切れでも与えれば出ていくな?」


「はい、はい……」


よし、これで出られる。そう思って私はふと、前方……結婚する人達がいる場所が何やら騒ぎを起こしているので、首を伸ばしたのだ。

そして。


「この女詐欺師が!!!」


という男性の罵声が響いて、ぎらりと何かが光ったから更に良く見ようとして。


「……シャル?」


座り込んで呆然と、その長剣を見上げて震えている女の子に、過去大事だった女の子が重なってしまって。


「シャル、シャル!!!!!」


「お前、おい、どこに行く!!」


「おじょうちゃん!?」


兵士達の間を走って、人混みを押しのけて押しのけてふっとばして。


「だめ、シャル!!!」


剣が振り下ろされるギリギリに、その子を抱きしめて庇った。



「ぐ、あっ!!」


確実に背中を切られた。女性の悲鳴が響き渡る。震えている女の子がつぶやく。


「どうして……あなたはだれ?」


「シャル! あたしの、あたしのシャルロット! 幼馴染の顔も忘れちゃった? 会いたかった! どうしてこんなところにいるの!」


私は痛みと会えた嬉しさで止まらない涙を拭く事もしないで、彼女を見た。

彼女は怯えきった顔をしていたけれども……私の顔を、思い出したようにハッとして言う。


「アイーダちゃん? アイーダちゃんなの!? どうしてそんなボロボロで!! 孤児院が解体されちゃった時に、迎えに行ったのに、アイーダちゃんはもう居ないって言われて、探しても探しても誰も行方を知らなくて!! 会いたかった!! 生きててくれた、アイーダちゃん!!」


彼女のあの頃の美少女が一層可憐な美人さんになった顔が、グシャグシャの泣き顔になって私に抱きつく。

そして私達はそのままワンワンと泣いて、その時だ。


「お前何者だ!」


「この子の幼馴染よ! この子が詐欺師なんてどういう話よ!」


男が私達に怒鳴った。それに振り返って怒鳴り返すと、背中のほうでシャルロットが焦った声で言う。


「アイーダちゃん、血がすごい! 手当!!!」


「おい空手の女の子に剣を振り下ろす害悪男! 何がどうして私のシャルが詐欺師なんだ!! 撤回しろ!」


「その女が皇女様の娘を自称したのだ!」


「そんな頭の悪い話を私の幼馴染がするわけ無いだろうが! ねえシャル!」


「違うってずっと言ってたの! 誰も話を聞いてくれなかったの! それよりアイーダちゃんそれ以上動かないで! 背中の怪我抑えられないから!」


「シャル、きれいな服が汚れるからしなくていいって! どうせすぐに塞がるし」


「え?」


「うっかり兄貴のぽかの巻き添え食らって体の傷はすぐに塞がるんだなこれが」


「アイーダちゃんにお兄ちゃん居なかったよね……?」


「この話は後でゆっくり。……で? ド阿呆勘違い男はシャルを皇女様とやらの娘だって勘違いしてなんてこんな結婚式につれてきたわけ」


「皇女様がね、娘に会えたら結婚するって言ったみたいなの」


「娘と大喧嘩でもして家出でもされたわけ?」


シャルが首をブンブンと振って否定した。


「娘さん、行方不明だったんだって」


「なにそれ。皇女様ともあろう人の娘がなんでそんな簡単に行方不明になるの」


呆れ果てて言ったその時だった。


「……アイーダ? 本当にアイーダなの?」


勘違い男とは逆の方向から、自分の目を信じられないと言わんばかりの声がして、そして。


「アイーダ!!!! ああ、私の大事なアイーダ、アイーダ!」


私はいい匂いのする女性に抱きしめられていた。

なんだか嗅いだ事のある暖かい匂いのような気がする。

抱きしめて震えて泣いている女性が、言う。



「結婚式は中止! あなたの手当が先! ……私の娘に刃を向けたあなたと結婚は絶対にしませんから!」


「あの!! それなら私のお父さんとお母さんを助けてください!! 私が違うって言ったら、どこかに連れて行かれたんです!!」


シャルロットが叫ぶ。その声に一人の青年が現れて言う。


「安心してくれ、君のご両親だろうかた達は、今手当を受けてもらっているから」


「本当ですか!」


「ああ。特殊な地下牢に申請のない夫婦が入れられたと報告があって見に行ったら、何も罪を犯していない夫婦だと判明してな。すぐに手当を受けてもらって事情を聞いていたところだ」


「お父さんとお母さんは無事ですか!!」


「数日何も与えられずに放置されていたせいで、消耗が激しかったが回復に向かっている。二人ともとても一人娘のシャルロットという少女を案じていたよ」


「よかったああ」


これにシャルロットが泣き出す。

誰だかわからない人に抱きしめられている私は、そこでやっと彼女が私を離してくれたのでその顔を見た。


「えれー美人がなんの用事なんじゃラホイ」


その顔を見てそんな反応になった私を許してほしい。本当にバロ流に言うならえれー美人で私に用事などあるわけもなさそうな人だったのだ。

その人が、懐かしさや愛しさやらをごった煮にした顔で涙を流して私の頬を撫でている。


「お医者様をすぐに! この子の治療を!」


「あ、なら恩人のおじいちゃんがそこにいるんだ! おばさん、そのおじいちゃんの治療もついでにお願い!」


「え?」


「ぶわっはっはっっはっは!!」


私が混乱の中でも牢獄から出るのに協力してくれた老爺の事をいうと、人々の間から老爺が現れた。


「わしの治療はいらんわい、しかし面白いものを見させてもらったぞ」


「……あなたの手当もさせていただけますか?」


「わしに手当はいらんと言うに。そうさなあ、温かな食事と寝床を提供してもらいたいとは思うぞ」


背中の丸まった老爺はその美人に言う。それに美人が頷いた。


「はい、娘の恩人に遠慮などさせませんわ」


「……待ってくれ、そなたは荒野の賢者どのではありませんか」


そこで

口を挟んできたのは、冠をかぶった偉そうな服の人、王様っぽい人だった。

彼はまじまじと老爺を見て言う。


「その額の印は荒野の神にお使えするものの印ではありませんか」


「いかにも荒野の神にお使えはしておるなあ、賢者ではないが」


「なんと! 名高き御方がこちらになど、なぜ」


「お前たち青の国の者共が馬鹿な真似をしておるからだ」


「ば、馬鹿な真似とは」


「神を作ろうなどというのが馬鹿のまねでなくてどうする」


「……」


「あれはもう神の神聖などないぞ。ただ人を食らうだけの怪物だ。事実青の国は何も恩恵を受けられずにいるだろう」


「しかし、あれを消滅させる方法はどこにも」


「はあ、だからあの綺羅星が青の国に行くなどと言い放ったわけか」


「……?」


王様がわけがわからないという顔をした時だ。

いきなり、大聖堂が凄まじい音とともに揺れたのだ。


「な」


「何が!?」


「綺羅星め、派手にやったな。そもそも八つ当たりだろうが……」


どん、どん、どん!! 三回大聖堂が揺れて静になる。そして。


「おい荒野のじじい、とりあえず叩いて潰してのして塵にしたけどこれでいいのかよ」


という非常に呑気そうな声が響いて、私達が入ってきた入口の方から現れたのは。


「兄貴!?」


埃っぽくなった兄貴だった。

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