大神官のお願い
「あなたが現れてから虹色の雨が降って、世界の渇きは満たされた。本当に奇跡的な事だけれど、あなたからは特別な力を感じないの。不思議ね」
くすくす笑うおばさまの方が、誰がどう見ても大神官に見えるだろう。威厳も美貌も段違いである。この人の跡継ぎがこんな地味な私だというのがなんとも言えない気分だ。
それでも。
「王様の奥さんを譲りたくないから、それなりに頑張ってるんですよ」
「そうね。あの方は素晴らしい奥方をもらえるわ。神の怒りを受けた直後は、どうしたって神の力が漂っていて、あの方に誰も近付けなかったのに。あなたはあんなに小さな子供だったのにまっすぐに近付けたのだから」
「心配だったんですってば」
「それだけの気持ちで可能な事じゃなかったの、あれは」
王様の瞳に見られただけで、得体の知れない恐怖が体を襲って近付けなくなる。
おばさまがそう言うけれど、私はあの瞳をとても綺麗な物にしか見えない。
それも不思議なのだとおばさまが言う。
「王の両の眼は神に選ばれて耐えきった人間の印。普通の人間は、神を直視できないことと同じように、王の目を直視できないのに。あなただけはまっすぐに王を見る」
「見えちゃうんだから」
「そうね。きっと不思議な何かがあるのよね。あ、そうだ」
おばさまはそう言って手紙を懐から取り出した。
「アイーダ。あなたにちょうど良いお仕事があるの、受けてくれない?」
「私にちょうどいいって、どんな物でしょう。公的行事もそこそこ名代として代わり出しましたけど」
「私の古い知り合いの息子さんの結婚式があるの。それに私の代わりに出席してちょうだい」
「それはおばさまの代わりとして? 大神官の名代として?」
「知り合いの方は大神官にも祝福された結婚式にしたいらしいの。だから大神官に来て欲しいそうなのだけれど、私もまた、砂漠から離れられない身の上になってしまったから」
「おばさま……」
さみしげな声のおばさまには何か言えない。おばさまは、王位継承権を持った小さな子供達を守るために、水の神様に、砂漠から永遠に離れないと誓った人なのだ。御子の二の舞にはなりません、だからどうか罪のない子供をお守りくださいと。
この誓いにより、おばさまはもう、砂漠の地域から出ていけなくなった。
小さな子供を守るために迷いもしなかったけれど、知り合いの息子の結婚式くらいは出てみたかったわ、と微笑むおばさまは、割り切った人なのだろう。
「わかりました。きちんと正装して名代をやりましょう! おばさまのお知り合いの方だって、おばさまのお知り合いなのだから、おばさまがどれだけ優しい人か知っているでしょう。おばさまの選んだ道を非難したりしませんよ」
「ありがとう。兄のように慕っていた人だったから、きっと分かってくれるだろうけれど、その息子は馬鹿息子だから、何か言われたらどうしましょうね」
「馬鹿なんですか」
「愚痴の手紙が時々来るわ」
「うわあ」
「ああ、それと、この知り合いは砂漠の王家とご縁があるの。きっと招待状はあなたの王様のところにも届いているわ。婚約者同士で行って来たらどうかしらね。王は未成年のあなたに何かするわけもないし」
「兄貴が地団駄踏んでごちそう食いたいって言いそう」
「バロはだめよ。行儀が悪いわ」
「私の目から見ても悪いですからね」




