ひとりあるき
本当にこっそりと、廊下を歩くうちに、どこをどう歩いているのかわからなくなるくらいに歩いてしまっていた。
そこで聞こえてきた二人の女性の声に、私は物陰に小さくなって彼女たちが通り過ぎるのをやり過ごした。
できるのかそんな事、と思うかもしれないが、灯の乏しい世界では、燭台の明かりとかしか灯がないから、足元まで見えるほうが滅多にない事なのだ。まして外は星が見えない程度には、雲が空を覆っているものだから、闇は普段より深いだろう。
そんな状態だから、暗い廊下の影に隠れた小さな子供なんて、よっぽど気にしなければ見つけられない。
パーっと明るい世界なんて、どれだけ灯を贅沢に使った空間になるだろう。ってくらい、夜に灯があるのは下町でも贅沢だった。お城もそうなのだろう。お金持ちの邸宅でも、お城でも。
私は周りを見回した。どうしようもなく見覚えのない通路である。どうも……迷子に違いない。まともに迷子。故郷では街で迷子になったら、どこの変態に襲われるかわからないから、小さな子供は遠くにいかないのが普通だった。
でも、お城の建物の中だからまだましかもしれない。変態がどれだけ砂漠にもいるかは知らないけど。
「ここどこになるんだろう」
物陰に隠れて、見回りの兵士達をやり過ごしながら歩き続けて、いつの間にか、お城の奥深くに潜り込んでしまったのか、静かな場所に来ていてしまっていた。物置とかがあるのだろうか。お宝があるような場所だったら、見張りっていうのがいるだろうから違う。
いっそ見つかって怒られたほうがバロのところには戻れるのかもしれない。
でもそうしたら、目的を果たせない。
「……王様、どこにいるんだろう」
儀式が終わった王様のところに行きたかったのだ。よくわからない衝動に襲われながら、私は王様の居場所を探していた。
王様に会わなくちゃいけない、それだけがはっきりしている目的みたいな、そんな感情で歩いていたのだ。
暗くて本当は怖い気がするのに、何も怖くない気分になっていて、そんな気分でやみくもに歩き続けていた時だ。
「……」
私はどこかの高い塔の入口まで来てしまっていた。もうどこをどう歩いたせいなのか全くわからない。わからなさ過ぎて自分でも笑えない。
戻るには、誰かに見つけてもらわなくちゃけない。怒られるの覚悟でと腹をくくろうとした矢先だ。
「王は」
「だめだ、お部屋のそばに近づく事すらお許しになられないだろう」
「そのような気配なのか」
「そうだ。あれだけの圧を前に、ただの人間は近寄れるわけがない。やはり儀式は王ほどの魔術師でなければ無理なのだ」
「連れてこられた子供は哀れな試しか」
「似ているからという理由であろう。そもそも水のフィブラを鳴らしたという話が嘘くさい」
「偶然に偶然が重なった結果かもしれないな」
「そうだ。雨が降ったのは大河の向こうに近い港町。この砂漠の奥地よりも雨が降る可能性の高い、大河という水の神の愛がある場所だ」
「ならば偶然だな」
そんな兵士たちのやり取りが聞こえてきたのだ。
王様が、この塔の何処かにいる。そんな事が流石に分かった私は、慎重に一層ひっそりと、物陰に隠れに隠れて、兵士達が交代なのかやり取りしている出入り口ではなくて、そこから見えない場所にある窓によじ登って中に潜り込んだのだ。
その時ばかりは、小さい体に感謝した。大人の体だったら窓から入るなんて出来なかっただろう。
「……暗くて寒い」
塔の中は凍えそうなくらいに冷え切った空気が流れていて、あまり部屋数もない塔らしい。つまり王様の部屋を見つけるのがまだ楽という事にもなる。
そして塔の中には見張りの兵士が一人も居ない。
空気は冷たくて乾いていて、暗くて見えないけれど息を吐いたら白くなりそう。
ぶるりと体を震わせてから、私は階段を上がっていった。




