いとけない心
「なんでそんなに王様が心配なんだ? 初めて会ったあんなおっかない男のどこが気になるんだ」
「わかんない」
「六歳児にそんな事聞いたほうが阿呆だったぜ」
部屋で窓の外をじっと見ている私に、バロが聞いてきたから素直に答えると、バロが聞くんじゃなかったって声でそう言った。それは単なる事実でしかないんだな、と流石に分かっていたから、怒ったりも出来ない。
私本人がわからない感覚に動かされているんだから、それを他所から見るバロはもっとわからないはずなのだ。
「わかんない。でも、心配になる。大丈夫かなって思う。ひどい事されてほしくないって思う」
「女の子ってのはませてんなあ。初恋かよそれ」
「知らないそんなの」
「ああそうかいそうかい」
バロが若干すねた調子みたいな声で言う。自分がわからないのが気に食わないんだろう、きっと。そんな事を思った。
そんな相手を振り向く事もしないで、私は外を見ていた。
王様が何をしたのか知らないけれども、儀式っていうのをしたんだろう。
空が不意に厚い雲に覆われて、雨が降り出したのだ。しとしとと小雨が。小雨でも、この砂漠では皆が待ち焦がれる雨なのだろう。
城の外の街から、歓声が上がるのが響いて聞こえてきていた。
皆あんなに喜ぶのに、王様万歳とかそんな声は聞こえてこない。
王様がそういう事をしているって知らないみたいな態度だった。
それとも、当然の義務とかいうのだと思っているのか。どれなのか全く私にはわからない。
「……くやしい」
「悔しいって何がだ」
「小さいのが悔しい。小さいから皆教えてくれない。おかあさんも私を捨ててった」
「子供はゆっくり大きくなって、そのうち母ちゃんや父ちゃんを追い抜かすもんだぜ、ちびすけ」
「それがやだ! 王様の儀式を見られるくらいに大人だったら良かったのに」
「安心しろ、儀式の中身はおれも見た事ねえから。大体の城の住人も、街の人間も、あの儀式の手順も何が起きているのかも知らねえのが普通だ、つまりお前も普通だ」
「でも、でも」
「まったくよお、なんでそんなに優しい育ち方をしてるんだよ。母ちゃんに捨てられて、それなのにひねくれもしないでよお、そんな素直で善良でどうすんだよこの先さあ」
バロが呆れたように困ったように言う。私は背後のバロの方を振り返りもしないで、外を、雨の中王様の姿が何処かに見えないか、じっと目を凝らして見つめていた。
その日の日暮れまで、王様の姿は見つけられなかったし、小雨は降り続いて、でも日暮れとともに止んでしまった。
「もっと雨が降ってほしいねえ」
「本当だよ。もっと定期的にたくさん降ってくれないと、もう砂漠中のオアシスが涸れてしまうよ」
「王様も頑張ってくださってるんだろうけれども、力不足だよねえ、ああ、水の御子様が砂漠にいらっしゃってくれてさえいれば」
「しいっ! おばば様やおじじ様にそんな事聞かれてみなさいよ。あの金属の先がついた硬い杖でしこたま叩かれるに決まってる」
「でも事実じゃないの。水の御子様さえ砂漠にいらっしゃてくだされば、皆解決するんじゃないの」
「御子様はもう砂漠に戻られないに決まってる。だから神様がお怒りになるんだから」
私はバロが夜に寝入ってしまったのを確認して、こそこそとバロの腰にぶら下がっていた鍵っぽいものをいじくって、廊下に続く扉の鍵を開けて、フードを深く被って外に出た。




