黄金の双眸
息を呑むほど普通じゃない瞳だった。私は純金なんて見た記憶は一度もない。
でも、分かった。
これは、この目は、純金よりもなお輝いてまばゆいのだ。
私は間近にその目を見て、言葉が出なくなって、じっとその目を見てから、その目が据え付けられている顔の全体を見た。
迫力があるなあ、と思ったのが第一印象という奴だった。とにかく迫力がある。目つきは厳しい。顔立ちははっきりしている。そう言えば砂漠の人達は総じて顔立ちが大河の向こうよりもくっきりしている印象だ。
だからその人もそう思った。くっきりとした顔の中で、はっきりと瞳がある。
唇は無愛想な感じで、性格が厳しそうと思った。厳しくてはっきりしていて、眉間には深いしわがあって、なんだか怒っているみたい。
怒っているみたいなのに、怖くないのは、なんとない気配が、怒っている風じゃないからだ。
この人、この顔が普通の顔なんだ、と思う表情だった。
髪の毛は砂漠にいる人達が共通してやや長いから、その人も長い。砂漠の人に多い黒髪で、肌色も濃い。
いろんなものが、ありふれた砂漠の人のそれなのに、瞳がそれを全部違うものにして見せている人だ。
そして体つきは、バロよりもがっちりしている。この人はバロよりも、戦う事を経験していそうな感じがする。
抱えられた状態でも感じられる筋肉の手触りがそうだった。バロはもっとくにゃくにゃしている。軽業師だから、柔軟性のほうが大事って言いそう。
背丈も、バロよりちょっとある。バロも周りの人と比べると、かなり大きいのに、それより大きく感じられるのだ。
何より普通に見えないのは、瞳もそうだが着ている衣装が、周りの誰よりも精緻なものだから。
神官の正装よりも豪華に見えるそれは、普通の人が日常的に着ていい衣装じゃないと思う。幼馴染が目の色を変えて観察しそうなくらいだ。
あの子だったら、服の産地まで言い当てそう。
……そんな特徴だらけのこの人は一体誰で、どうして私を抱えてるんだろう。
「……だれ?」
そこまでぐるぐる考えてから、私がもうこれは聞くしかないと思って口に出すと、その人は少しだけ目を見開いた。
あんまり感情の起伏が見えない、よく言う表情筋の硬い人って奴かもしれない。
それくらい動きが微妙だった。
「あなたは、だれ? なんで私を抱っこしたの?」
私は不思議すぎて問いかけているのに、バロすら答えてくれないで周りが固まっているのだけがわかる。どうして皆時が止まったように固まっているんだろう。
その中でも一番不思議なのは、抱えている本人が一言も口に出さない事だった。
あなたがやっている事じゃないか。あなたがどうして説明しないのだ。
「それ一式は」
しばらく黙ってからその人が口を開く。あ、この人の声は若い。声変わりしてそんなに年数が経ってない感じの声だ。
この人も、もしかしたらそんなに年上じゃないのかもしれない。
そんな事を思っていると、彼が続ける。
「とても重いだろう。お前のように、小さな子供に、一式身に纏わせるものではないというのに」
「それだけ神殿が本気なんだろうよ、万全を尽くしたいのさ」
バロがよく分かっていない私の代わりに言う。彼はバロに目を向けてから言う。
「お前の身内か、銀の目」
「おうとも親父のわからねえ妹さ」
「……そうか」
え、バロの知り合いだったの。じゃあこの人が誰なのか教えてくれないだろうか、と思った矢先だ。
「王。時間が押しております。井戸へ向かいましょう」
やっとの思いで、というように口を開いた神官の一人が言って、そこで、彼が頷いた。
「ああ」
……王様? こんなに若くて王様? 王様って、髭の生えたおじさんとか、おばさんとかじゃないの?
若い王様ってそれだけで甘く見られがちっておかあさんが言ってたのに、この人こんなに若いのに王様?
砂漠じゃそれが普通なの?
聞きたい事は色々出てきたのに、儀式に向かう真剣な空気の前ではどんな事もバロじゃないから言えなくて、私は王様に抱き上げられたまま、井戸へ向かったのだった。




