儀式に至る
儀式は特急で行われるらしい。場所は城の裏門から街の外に出た場所にある古い井戸で、それは聖なる井戸という物らしい。
「聖なる井戸は枯れない井戸と言われてきたけれども、もうすっかり干上がった井戸さ。でもそこが、水の神様と地上をつなぐ場所なのは間違いない」
「水の神様は井戸とつながっているの?」
「井戸というのは不思議だろう? 穴を掘っても水が出る場所と出ない場所がある。この乾いた砂漠なのに、水が湧き出るなんてとても、聖なる力を感じずには居られなかった大昔の人々が、あの井戸を聖なる井戸として、水の神様を祀ったのさ」
おばあさんがそう教えてくれた。おばあさんも少し緊張している風だ。手がかすかに震えているのが、目の前に見えていた。
「……」
おばあさんの教えてくれた事は、私がこれまでは考えた事もない話で、でも、確かに、このからっからの場所なのに、穴を掘って水が出てくるって、普通じゃない事だよな、とちょっと納得した。
そこで私は、神官が言った言葉を繰り返した後に、水のフィブラを振って、音が鳴ったら、雨が降ってほしいと言ってほしいと頼まれたのだ。
「神官の言葉が難しいかもしれないが、何も考えないで繰り返してくれていい。ただ、雨が降ってほしいという思いだけは、心を込めてほしいんだ」
おばあさんの説明がそういう、私でもわかる簡単なものだったから安心した。
儀式は超速で準備を進めても、夕方になるという事で、私は儀式だから儀式用の服というものを着せられた。
「これ、前にも誰かが着てたお古?」
新品には見えなかった。とても大事にされているけれども、長い長い年月を感じさせる服で、なんだかたまに街で見た、大昔の事を伝える劇の中の衣装だった。
幼馴染のあの子が見たら、どれくらいの昔のものを再現したのか、教えてくれただろうな、と思う。
あの子は今どうしているだろう。おかみさんも、旦那さんも、元気だろうか。
私がこんな事になっちゃったって知らないだろうけど、少しでも気にしてくれているだろうか。
おかあさんすら見捨てた私を、少しでも考えてくれるだろうか。
それとも、自分達の生活で手一杯で、余裕なんて持っていないだろうか。
それでも、あの三人が元気で平和であってほしい。
「それは聖衣というものです。長い間水のフィブラを鳴らす人が着る事になっているもので、お古という言い方ではなくて、伝えられてきたというものなんですよ」
落ち着いた声で神官の女性が教えてくれる。聖なる衣というのはなんだかとても仰々しい言い方で、古ければ古いほどそういう仰々しさでもあるのだろうか。
「物はいいようだよなあ」
バロが茶化すように言う。それを彼女が思い切り睨んで叱った。
「銀の目! お前はいくつになっても失礼な口ばかりきく。銀の目でなければ叩き出して締め出しているところだぞ!」
「おっかねえなあ」
衣装合わせで部屋を借りて、そこで着替えて丈を合わせている時の会話だ。バロは自分の目が届かなくなった時に、何かが私に起きるんじゃと心配しているみたいで、着替えの時は衝立を使ったけれども、同じ部屋に居たがった。
バロはそもそも儀式に対して両手を上げての賛成派じゃないから、それくらい用心深いのかもしれない。
「もしもがあったら怖いのさ」
バロはあっけらかんとした声でそう言うけれど、言葉の裏側の警戒心をあまり隠していない気がした。
衣装を合わせて、それにまつわる装身具をいくつもつけられて、それはとても重たかった。えっちらおっちら歩く私には、どれもこれも六歳の子供につける量の宝石じゃない気がした。
「見るからに大丈夫じゃねえな」
「重たくて歩きにくい」
「それ、成人した奴につける正式な装身具の本式の着用だしなあ」
ふうふう言いながら神官の後を体を引きずるように歩く私の隣で、バロが言う。
ふと、どうしてバロはそういうものに詳しいんだろうと気になった。神官に出入りしているからって、なんでも詳しいわけじゃないだろう。
この大男は妙に、口や態度が神官の人と大違いで罰当たりな感じがするのに、あれこれに詳しいように思えた。
「本式は確か……昔の鎧ひとそろいくらい重たいって前のやつが言ってたな。そりゃもうよたよたと歩くしかねえな」
バロはそう言って私を見下ろして、そして。
出し抜けに手を伸ばして、でも、その前に私は後ろから誰かに軽々と抱き上げられたのだ。
「きゃあ!」
「おい!」
びっくりして叫んだ私。抱き上げた誰かに対して咎めた声を出すバロ。
一体誰がこんな事をするんだろう、と思って、私は振り返った。
そして。
高温で揺れる、黄金の一揃いの瞳を真正面から見た。




