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優しい世界じゃなくたって  作者: 家具付


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15/19

普通ではないこと

「バロ、大怪我してる」


「そりゃあそうだろうよ、あの稲光のせいであんなあほみたいに高い場所から落っこちたんだからな」


面と向かってその状態を見た後に、どうしてこの男は生きているんだろう、と思った私は間違いじゃないと思う。

バロが寝泊まりしているという神殿に連絡を入れてもらった後に、おばあさんの客間にちょっと時間がたったら飛び込んできたバロは、包帯だらけだし唇の端は切れているし、痣が多くてびっくりするくらいだった。

でも、両足でちゃんと立っているし、骨折もしていない。

……自己申告が正しいのなら、私と同じであんな高さから落ちたのに。バロは死んでいないのだ。

そしてその事をあっさりとした調子で言うものだから、私は頭の中が混乱しそうだった。

人間があれだけの高さから、落ちたら。いくらなんでも普通は死ぬものなんじゃなかろうか。

私も……生きてるけれども、あの時聞いた音が何かしらの魔法の力を発揮したからだと思う。

単純に考えてみても、あの高さは落ちたら人は死ぬ高さだったはずだ。


「生きてる」


「おうとも。今のところおれはあいにく幽霊じゃねえな」


そんなのは実体があるように見えるから明らかだ。それでも聞きたいのはそこじゃないと言っても、ちゃんと答えなんて返ってこないだろう。

私はもう、そういう男だって十分に理解していた。


「お前のほうがなんで生きてるんだって話だけどな。あの高さだぜ。人間が落ちて生きてる高さじゃねえよ」


それをお前が言うのか、と言いたくなりそうな事をいうバロは、知っているいつものバロと何も変わらない。

大した事なんてなんにもしてませんって感じの、気楽そうな態度の。自信たっぷりの。つまり通常運転の。


「バロはどうやって生き延びたの。私はきらきらした音がして、なんだか泉の中に落ちてたの。それでなんとか這い上がったら、落ちた泉が砂漠の都の泉だったんだけど」


「……そうか。おれの神様もたまにはいい事するな」


「え?」


「ん、おれがそう思いたいだけさ。おれの神様が、優しい女の子に手を差し伸べるくらいには、怒りを和らげてくれてるって思いたいだけ」


「なんだか何にもわからない」


「お前に誰も何も説明してないんだから当たり前だろうが。そしておれはお前の歳で理解できる話じゃねえって知ってる」


そうやって隠されるのは不愉快だ。でも、実際に六歳の私がちゃんとわかる事の方が世の中少ないってくらいは知っていたから、それ以上聞く事は出来なかった。そうやって、神様が優しくしてくれたって思って、優しい目をしたバロを、悲しい気持ちにさせたくなかったから。

バロはとびきり理由のわからない男だと思う。

それでも、小さなパンの半分のためだけに、私を妹にしてくれて、守ったり育てたりしようとしてくれるような、割に合わない人生を平気な顔でやろうとするお人好しだから、悲しい顔をあまりさせたくなかった。

あの鳥から落ちていく時に聞こえた私の名前を呼ぶ声は、苦しそうだったし。


「さーて、おれ様がどうして生き延びたかって話だっけな。鳥のどろどろは大穴が空きやがって、そっから落っこちたけどな、運よく、ほんっとうに運が良くて、どろどろが先に砂に落ちてそれが緩衝材になったんだ。どろどろが受け止めたからこの程度の怪我で済んだんだぜ。弟分は骨折してたけどな、あれは受け身が下手だった。楽師の方は落ちなかった半分のどろどろがなんとか滑空して、砂に着地したから無傷だぜ。どろどろも大事なものに関しては必死になるらしいな」


「じゃあ、あの時乗っていた皆、生きてるんだ、良かった」


「あれで生きてるか死んでるかわからなかったのはお前くらいだ」


「……でも、じゃあ、どうやって私の居場所がわかったの?」


「そりゃー、神殿の魔法使いを拝み倒して目の前で駄々こねて床をのたうち回って喚いて、探してもらったんだよ。砂漠の神殿にいる魔法使いってのは、家族だったら探せるんだ。家族じゃなかったら探しようがない時も多いけどな」


「ふうん」


この人には羞恥心ってものがないだろうか。こんな大きな人なのに、そんな……駄々をこねるって私より年下の小さな子じゃなければ許されない、そんな態度じゃなかろうか。

それをやったのか。人がいっぱいいそうな場所で。

バロはそれをやれるだけの面の皮の暑さなのか。

それとも。


「それだけ私が心配だったの」


「何を当然の事を、疑わしいと言いたい顔で言うんだクソチビ。お前は妹だからな、なんとか見つからない妹を探してくれって泣き喚いて、あんまりにもうるさいから探してもらえたのさ」


「泣いたんだ」


「あたり前だろうがぼけ。大事な時に泣けない男なんて必殺技の使えない剣士くらい使えないだろうが」


「ごめん、たとえがなんにもわからない」


「そうか。確かにお前は、冒険者ギルドとも縁が無い生活してたみたいだもんな」


「うん。針仕事の組合はお母さんがいたからちょっとだけ知ってるけど」


そこまでのやり取りを黙って聞いていたおばあさんが、咳払いをした。


「さて、銀の目。お前の願い通りに、お前の妹ときちんと対面させたぞ、今度は私達の頼み事を聞く側だろう?」


「おう。おれ様の大事な大事な妹を見つけてくれたんだ、おれがちょいとばかり無茶な中身の頼み事でも、聞かない道理はねえな」


「その頼み事は、お前にするものではないのだけれども、かまわないかい」


「おれの弟分に、おばば様の考える事の手伝いができる優秀なやつは……いっぱいいるけど誰が適任だ?」


「お前の弟分に頼む中身ではない。そちらの、お前の妹分のお嬢さんに頼みたい事だ」

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