落下。落下。
話はそんなに簡単なものじゃなかった。どう簡単じゃなかったのかと言うと、その鳥の中に私達が入ってから飛び立ってすぐに、稲光が立て続けに鳥に襲いかかってきたのだ。
稲妻に襲いかかるとか変な言い方だと思うだろう。でもそれは間違いなく、襲いかかってきたというものだったのだ。
執拗なくらいに、鳥めがけて、空から稲妻が走ってくるのだ。
私達が中にいる鳥は、それらを紙一重で回避していた。でも。
「いけない、重すぎる」
鳥の中は闇で、そこに皆で水の中に浮くように居たけれど、楽師の人が不吉な言葉を呟いた。
「重すぎるとはどういう意味だ」
「この鳥はもっと身軽に空を舞うのです。でも……いけない。力が重すぎる」
楽師の人の言う言葉の意味が半分もわからない。でも、何かが鳥にとってとても重たい状態になったって事位は私でも理解できた。
「どうして。こんなに力があるなんて気配では」
楽師の人が切羽詰まった声で言う。稲妻が、立て続けに鳥を狙って走っている。鳥はそれでもそれらを宙を舞い、なんとか避けている。でも。
その中にいる私達は、あっちに行ったりこっちにいったり、船が嵐で揺れているのよりもすごい揺れ方に支配されていた。
「アイーダ! おれの手を離すな!」
「うん!」
私は怒鳴ったバロの手を掴んだ。バロの手は強い力で私を握る。離すまじという意識が感じられるくらいに。
「どうすれば。こんな事は初めてだ。……なんの力が、これほどに?」
楽師が何かを調べるように呟いている。そして、ハッとしたように顔を上げた。
「曰く付きの剣がある」
「は?」
「どなたかが、稲妻を呼び寄せる剣をお持ちだ。それを手放してくれさえすれば、追跡を逃れられる。それが、稲妻にとっての目印だ」
「そんな訳あり品持つわけ無いだろうが! 何をとち狂った事言い出すんだ!」
弟分が叫んだ。確かに誰も身に覚えがない物だ。稲妻を呼び寄せる魔法の剣なんて、バロも私も持ってない。
それでも、楽師は言う。
「他に考えようがない! おかしいんだ、この鳥をここまで稲光は付け狙わない。この鳥はそんな意識を向けるものではない」
「でも追い回されてんだろうが!」
「その追い回されている理由が、剣なんだ。他にない」
「ないものを有るって言われても困るんだぜ!」
バロが怒鳴ったその時だ。
ひときわ、大きな雷の音が打ち鳴らされて、私とバロの間に、白い白い光が突き刺さった。
目が眩む。轟音が耳元で思い切り鳴らされたように、頭の中が揺れてしまって。
「あ!」
「アイーダ!!」
私はびっくりしたせいで手を離してしまった。そして、大きすぎるほど大きなバロの手から、私の子供の手がすり抜けた。
バロが切羽詰まった顔で腕を伸ばしてくる。でも、さっきの雷の一撃で鳥は引き裂かれて穴が空いて、私は裂けた大穴から地面に落ちていく。
「バロ!! 兄貴、死にたくない!!」
叫んだその時に見えたバロの顔は、思い切り歪んで、必死に私を掴みなおそうと腕が死に物狂いみたいに伸ばされていて、でもその腕は、ほんのちょっとだけ、ちょっとだけ届かなくて、私は砂漠の地面に落ちていった。
「アイーダ!!」
絶叫だった。気が狂いそうな声が、私を助けたいと訴えていて、でもそれは叶わなかった。
「死ぬのは嫌!! 誰か、誰か助けて!!」
落ちていく中で、私はただそれを叫んでいた。死にたくなかった。死にたくないから頑張っていたのに、こんな理不尽に死ぬなんて嫌だった。
「誰か!」
叫んだ私は、それでも意識を失えなくて、落下して落下して落下して。
……音を聞いた。高く高く澄み渡る音を。
水のフィブラが、鳴らした音と……同じような音を聞いた。
そして一瞬世界が真っ黒に染まって、それからばしゃん、と砂漠にあるまじき音を響かせて私はどこかに落ちて、息が苦しくて、それでもなんとか浮き上がって、濡れる服が重くて、それでも腕と足をデタラメにでも動かして、やっと手が届いた場所に這い上がると、あたりはざわついていた




