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エンゼ・エンゼ・エンゼ‼  作者: 角野&カンナキ
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第四話 最強!エンゼ・クラッシュズ!

大阪

笑いが飛び交うこの街中で人を押しのけ駆け抜ける男がいた。「おいどけぇ!」男の懐には似つかわしくない高級なバッグがあり、とても持ち主とは思えないような持ち方だった。男が大通りに抜けようとしたその時、後ろと前にいきなり現れた人影。それらをしっかりと認識する間もなく後ろからの蹴りと前からの拳で倒されてしまった。「ぐ…なんだ…」男が落としたバッグを拾い上げると遅れて走ってきた婦人に返す。「ほんまにありがとねぇ~!」「気いつけてな!ここら辺最近治安悪いからな!」「こいつ警察突き出すのが先だよ!」「わかってるわ!またなおばちゃん!」「がんばりやぁ!」婦人を見送ると倒れたひったくり犯を警察に突き出し一先ず一件落着といったところだろうか。「今日もやったな!」「ほんまに疲れんでぇ…」2人は抜群のコンビネーションでこの大阪の地を守っている「クラッシュズ」というエンゼコンビだ。エンゼの中にはチームやコンビ、トリオを組む者が多く存在する。ノリや友達間で組む者もいれば、厳正な審査で選ばれた者で組織を形成する者もいる。今現在大規模組織で知られているのはエンゼ・ロード率いる「微睡みの森」、エンゼ・リング率いる「エンゼオブリング」、そしてエンゼ協会が公式に設立している「晴天」だ。話を戻してこの「クラッシュズ」はエンゼ・ビートとエンゼ・フローの2人で形成されており大阪では最近有名になり始めた名物コンビだ。今の大阪の街には彼女達の写真や彼女達の宣伝ポスター、彼女達のコラボ商品などが多く並んでおり経済の影響も非常に大きい。「クラッシュズ」は大阪にとって元気の象徴になっている。今日もひったくり犯を捕まえ上機嫌で街を歩いていると多くの人から声をかけられる。「おーい!ビートちゃん!応援してんで!」「うちもやでー!フローちゃんと仲良くしーや!」「ありがとねー!」「今度うちの店寄ってってー!」「フローちゃーん!髪さらっさらなるシャンプーあるよー!」このように至る所から色々な言葉を投げかけられるため全てに答えることはできないが、答えられる声には出来るだけ答えている。そして貰い物も多くするため自宅に着くまでには手に大量の荷物を抱えていることが毎日だ。ほとんどが食品なので食費には困らない。「今日もめっちゃもらったな!」「そうだねぇ~今日はお鍋でも食べようか」「そろそろ冬やしええか」現在二人は同居している。チームを組む者は同居している者が多い。同居をしているエンゼは協会に申請を出すと家賃を半額になり生活必需品などの手厚いサービスがもらえる。クラッシュズの二人のプロフィールを紹介しよう。「エンゼ・ビート」本名「広山 響」17歳。エンゼ歴1年半の新人。15歳の時にエンゼ・ビートを獲得すると一年間ソロで活動していた。成績は良くもなく悪くもない普通の成績だったのだがコンビ結成後、急成長を遂げ週間ランキングでは20位をキープしている。「エンゼ・フロー」本名「坂巻 静」17歳。エンゼ歴1年の新人。16歳の頃に高校からの推薦で大阪にあるエンゼ養成学校へ入学し、わずか2ヶ月でエンゼ・フローを獲得。半年間のソロ活動の後にビートである響と出会いコンビを結成し今に至る。クラッシュズとしての経歴は約半年。ビートの激しい連撃とフローの流れるような一撃の相性の良さが評判のコンビである。現在のデモネ総撃破数は1543体。これは大阪のチームランキングでは現在3位の成績であり全国では31位という活動歴半年にしてはなかなかの好成績である。プロフィールはここまでにして2人の生活について書こう。2人の一日のスケジュールはエンゼ活動と地域のプロジェクト、テレビ番組の収録がほとんどだ。エンゼには活動を収益にする者、収益に繋げる者とボランティア化する者がいる。2人の場合は収益に繋げたほうだ。エンゼ活動は言うまでもないので細かくは紹介しない。地域のプロジェクトとは新店舗の宣伝がメインだ。13年前の「近畿大災害」で大阪は深刻なダメージを負い現在でも避難施設で暮らしている人達も少なくない。そんな大阪の街を再び盛り上げようと繫華街エリアでは被災地で採れる作物を商品に使い、売上の一部を被災地支援に充てている店が増えている。ほとんどの店がクラッシュズを宣伝に起用しているため大忙しである。クラッシュズの2人は年に2回被災地で炊き出しや瓦礫除去のボランティア、サイン会を行っている。次にテレビ番組だが2人は毎週月~金の朝7時から放送している「おはスタ」に木曜レギュラーとして出演している。前日の水曜日には東京へ行かなければならないので水曜日はエンゼ活動以外は休みにしている。今日2人は東京から戻ってきたばかりだったので本当はひったくり犯を警察に捕まえさせたかったが皆の目もあり捕まえざるを得なかった。「はぁ~疲れたぁ~メシまだぁ~?」「もう少し待って」「ほんまにあかん…もう腹減って死にそう」「あんたは死んでも死なないでしょ」「おもろいこというやん~?何か知ってるわそのセリフ~なんやっけ?」「好きなゲームのセリフです」「あ~思い出したよーな忘れたよーな」「もう少しで出来るから待ってて」響は部屋中をウロチョロしながら料理中の静にちょっかいをかけつつ不満をダラダラと吐き出す。普通ならウザすぎてキレる人がほとんどだろうが静は作業用BGMのように流しながら聞いているのでさほど気にはならない。今日は牛肉鍋の予定だったが変更し牛肉炒めになった。このことに響は最初ブーブー文句を言っていたがいざ食べ始めると物凄い量を食べほとんど食べてしまった。「やっぱ美味いなぁ~」「そう?ありがと」仲睦まじいクラッシュズだが今とある問題を抱えていた。それは他大規模組織からの合併案である。案を出してきたのは大阪で一番の規模を持つ「ワンハンドレッド」だった。ワンハンドレッドは名の通り100名以上のエンゼで構成されている組織でありチーム成績も非常に優秀だ。しかし大阪にいる一部のエンゼ達はワンハンドレッドの規模の拡大方法に不快感を示している。理由としてはここまでの大規模組織になったのは弱小のエンゼやそのチームを半ば強引にに合併させて、それを断ったら受け入れるまで嫌がらせを行うという卑劣な行為も行っていたのだ。クラッシュズもそのことを知っており提案をしばらく持ち帰って一週間ほど考えていたが先日決断の有無の連絡が届いたのだ。「入ればこの大阪でのびのびやってける…けど私たちの自由はほとんどなくなる」「せやけど断ったらどれくらいのエンゼ敵に回すんや…百人じゃきかんやろ」「…響はどう思ってるの」「ん~別にどっちでもええよ…」「はっきりして!」「急に大声出すなて…まぁうちもこいつらのこといけ好かん奴らだとは思ってる…でもうちら2人じゃどうしようもないやろ…長いもんには巻かれとけばええねん」「それは私たちの理念に反するよ…私たちはみんなのクラッシュズでしょ」「そんな綺麗事…通用せんことくらいわかっとるやろ」「わかってる…けどそれを捨てたくない!」「うちだってそうや!けどな!だったらあいつら全員ぶっ飛ばせるか!ええか!相手は一般人100人やない!エンゼ100人や!うちらが歯向かっても勝てっこないんや!」「じゃあ響!あなただけ入ってなさいよ!」「それ本気でゆってるんか…どういう意味かわかってるんだろうな…」「えぇ…あなたが入るっていうなら…解散よ!」先程まで和やかだった雰囲気をぶち壊すように思ってもない勢いで出てきた言葉をでたらめにぶつけると静はそのまま外へ飛び出してしまった。「待てや!…あのバカ…」追いかけようとしたが追いついた時に投げかけるべき言葉を用意する程の冷静さがない事は痛いほど自覚していたのでただ冷めていく牛肉炒めを背に立ち尽くすことしかできなかった。それから3日間一切連絡が取れなくなり独りの時間が増えた。SNSにも情報がなく街の人も誰も見ていないという。他のエンゼ達に情報を聞こうとすると無視をされるのに違和感を感じ一人でいたエンゼをぶちのめして情報を吐かせた。「…ワンハンドレッド…に無視しろって…」「じゃあそいつらんとこ案内せぇや」「知らないわよ…!私だって入って3か月経つけど未だにアジトすら知らないのよ…」「そうか…じゃあ死ね」顔面に一発叩き込み気絶させると捜索に戻った。夕方15時程まで休憩なしで捜索をしていると非通知の着信が入っていた。留守番電話になっておりメッセージを聞き終えるとどこかへと走っていった。「…ざけんな」メッセージ内容は『フローは預かっている。返してほしければ一人で旧大新月化学工場へ来い。協会や他のエンゼ、チームを呼んだ場合フローを殺す』街はずれにある工場地帯へと急ぐと複数人のエンゼ達が取り囲んだ。「なんや…!」「簡単に行かせないわよ」「そうそう!ここで倒れろ!」今の響に迷いは無い為全員一撃で倒すと旧大新月化学工場へと辿り着いた。「…ここか」全体的に錆付いてもう二度と動く予定もない忘れ去られた機器や車、何かに使うのであろう部品がそこら中に散らばっており異質な存在感を放っていた。開きっぱなしの門から入り開けた場所にたどり着くと大勢のエンゼがそこら中にうじゃうじゃとおりエンゼの貴重さを損なう光景だった。取り囲む中央には椅子に縛られた静が項垂れながら座らされていた。「静ぁ!」静の元に向かおうとすると立ちふさがる人物が目の前に現れた。「お前は…!」その人物は金属製のバットを突きつけるとニヤリと笑い同時に睨み付ける「お前がエンゼ・ビートか…連絡取れねぇから死んだと思ってたぜぇ…」「お前だれや…」「俺はエンゼ・ブレイク…このワンハンドレッドのボスだよ!知っとけ馬鹿野郎!」ブレイクはバットを響の腹部にスイングし吹き飛ばす。「ってぇ…そんで…静さらった理由はなんや…」「入るか入らんか連絡しなかったから決断を聞きにね」「だったら電話の一本でも入れろや」「こっちの方が手っ取り早いでしょ~?」未だに静は反応を見せず生きているのどうかもわからない。とにかくこの場をやり過ごす必要がある。「手っ取り早い…?人攫っといてよう言うわ…!」響は腹を押さえながら立ち上がる。周囲を囲むエンゼ達はニヤニヤと笑いまるで見世物でも見ているかのようだった。「安心しろってフローちゃんはまだ生きてるぜ?」ブレイクが指を鳴らすと背後のエンゼが静の髪を掴み顔を上げさせた。「……っ」静の頬には殴られた痕があり口元には乾いた血が付着しているが呼吸はある。響は小さく息を吐いた。「響…来ちゃったの…」「当たり前やろアホ」その一言だけで静の張り詰めていた表情が少しだけ緩む。「感動の再会中悪いんだけどよぉ」ブレイクはバットを肩に担ぎながら笑う。「俺達は優しいから最後のチャンスをやるって言ってんの。ワンハンドレッドに入れ。そしたら全部丸く収まる」「断ったら?」響が睨み返す。「クラッシュズ解体。あとお前らに関わる店、テレビ、スポンサー…全部潰す」周囲のエンゼ達は再び笑い出した。それは脅しではなく本当に実行できる者達の目だった。「お前らみたいな人気者はなぁ空気で殺せるんだよ」ブレイクは続ける。「街で無視される。仕事も消える。応援してた奴らも離れる。正義の味方ごっこは終わりってことだ」響は黙ったまま俯く。「……響」静が小さく呼ぶ「私は…」「黙っとれ」静が目を見開く。響は俯いたままゆっくり拳を握り締めていた。「……さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって」バキッ。床にヒビが入る。響の足元から衝撃が走り近くにいたエンゼ達が思わず後ずさった。「うちらはなぁ……」響は顔を上げる。その目には普段の陽気さなど一切なかった。「誰かに生かしてもらう為にエンゼやっとるんちゃうんや」次の瞬間。——ドゴォッ!!響の姿が消えた。「は?」ブレイクが反応するより早く目の前のエンゼが吹き飛ぶ。さらに二人三人と連続で宙を舞い鉄骨や廃車に叩きつけられる。「なっ——速っ!?」「囲め!!」ワンハンドレッドのエンゼ達が一斉に能力を展開する。炎、雷、水流、衝撃波。様々な攻撃が響へ襲い掛かる。「遅いわぁ!!」響は笑いながら突っ込んだ。拳が一人の顔面を砕き蹴りが別のエンゼを壁まで吹き飛ばす。攻撃を避ける動きに一切無駄がない。エンゼ・ビートは連撃特化型の戦闘スタイルを好む。これは勢いが乗るほど加速し止まらなくなる破壊のリズムを相手の身体を譜面にして打ち込むのである。「バケモンかこいつ…!」「ったり前やろ!!」響の頭突きがエンゼの鼻を潰す。だが数が多すぎる。死角からの一撃が背中へ入り鉄パイプが肩へ叩き込まれる。「ぐっ…!」さらに数人が同時に押さえ込みにかかった。「今や!!ブレイクさん!」ブレイクがニヤリと笑う。巨大な金属バットを振り上げ響の頭へ狙いを定めた。「終わりだぁッ!!」意気揚々と勝利を確信したその瞬間ブレイクの頬を何かが掠めた。「……?」一筋の水による斬撃だった。背後で拘束されていたはずの静が立っている。縄は既に切れていた。「悪いけど」静は長い髪をかき上げながら静かに言う。「私達、二人でクラッシュズなんだよね」静の身体が滑るように前へ出ると水流のような流れるような掌底がブレイクの腹部が直撃し、その巨体が十数メートル吹き飛ぶ。「がはっ——!?」地面を転がるブレイクを見て周囲が静まり返る。「遅いねん静ぅ!」「一人で突っ込みすぎ」背中合わせになる二人。その姿を見たワンハンドレッドのエンゼ達は本能的な恐怖を感じていた。「行くで…お前ら全員地獄に送ったるわ!!」「無傷では帰れないわよ…覚悟しなさい!!!」2時間後クラッシュズは床に伸びているエンゼ達を椅子のようにして座った。「口ほどにもないやんか…ほんま疲れるわ…」「…ホント…私たち能力使ってないのに」「…そのさ…なんかすまんな」「私こそごめん…もう一回2人でクラッシュズできるかな?」「あったりまえやろぉ!これからもこの街でブイブイ言わしたるで!」「はぁ…でもほどほどにお願いしますよ」「手加減なんかせんわ…常に全力でやろうや…それがクラッシュズ!なんやし」「…それもそうだね…!」2人は工場を後にしその日は帰宅後溶けるように眠りについた。翌日、クラッシュズの公式アカウントに大量のメールが寄せられた。その数なんと200件以上。恐る恐る開いてみるとそれは今までワンハンドレッドに虐げられてきたエンゼ達からの感謝の言葉だった。それら一件一件に目を通し返信をした。その中には「チームに入れてほしい」や「大規模組織を作るべき」という内容のものもあったが今の自分たちにはまだそれは早いのでやんわり返した。

それから一週間後

大阪の街は以前よりさらに騒がしくなっていた。「クラッシュズがワンハンドレッド潰したらしいで!」「いや一人残らず病院送りやって!」「ブレイク土下座したってマジ!?」「それは盛りすぎやろ!」尾ひれのついた噂は街中を飛び回りSNSでは「#クラッシュズ最強」がトレンド入り。二人の知名度はさらに跳ね上がっていた。しかし当の本人達は「……ねむ」「響、ソファで寝ない。首痛めるよ」「無理やぁ~…もう身体動かへん…」完全に燃え尽きていた。ワンハンドレッドとの戦闘後、協会の事情聴取、スポンサーへの説明、テレビ局への謝罪、警察との連携確認など想像以上に面倒事が押し寄せたのだ。しかもワンハンドレッドが抱えていた問題は根深かった。脅迫、恐喝、非合法契約、スポンサー圧力、未成年売春斡旋、表に出ていなかっただけで被害者は大量にいた。協会側も無視できなくなりついに正式調査へ動き出したのである。「ほんまめんどいなぁ…」「でもこれで助かるエンゼもいるから」静はノートパソコンを見つめながら返事をする。そこにはクラッシュズ宛てに届いたメッセージ一覧が表示されていた。『助けてくれてありがとう』『やっと辞められます』『ずっと怖かったです』『クラッシュズ見て勇気出ました』静は小さく笑う。「……やっぱりさ」「ん?」「私達、間違ってなかったね」響はしばらく黙ると頭を掻きながら立ち上がった。「まぁ…そらそうやろ」「珍しく素直」「うっさい」そう言いながら冷蔵庫を開ける。だが中には飲み物しか入っていない。「……終わった」「昨日ほとんど食べたでしょ」「成長期やもん」「17歳で?」「エンゼは腹減るんですぅ~」静が呆れたように溜息をつく。するとその時。ピ~ンポ~ン。二人のスマホが同時に鳴った。「ん?」「協会から?」メールを開いた瞬間、二人の表情が固まる。『エンゼ協会より通達』『クラッシュズを大阪特別指定チームへ任命します』「……は?」「え?」特別指定チーム。それは協会直轄の超重要チームに与えられる肩書きだ。大阪では現在二組しか存在していない。さらにメールは続いていた。『また今後の大阪治安維持活動においてクラッシュズを中心とした新部隊設立案を検討しています』「……うわ」静が顔を引きつらせる。「ブイブイ言わせるどころの話ちゃうやん」思わず笑った。その直後再びインターホンが鳴る。「はーい」扉を開けた瞬間大量の人影がなだれ込んできた。「ビートさん!!弟子にしてください!!」「フローさんサインください!!」「クラッシュズに入りたいです!!」「これ差し入れです!!」大量の若手エンゼ達だった。玄関は一瞬で戦場になる。「うわぁぁぁ!?押すなや!!」「ちょっ…靴脱いでから入って!?」大混乱だがその騒がしさの中で響と静は目を合わせる。「……なんか」「うん」「面白くなってきたな」大阪の街を背負うにはまだ二人は若すぎる。けれど誰よりもこの街に愛されているのは間違いなく彼女達だった。

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