第二話 キラキラの星!エンゼ・スター!
菌も埃もない清潔な病室で心電図が無機質に鳴る。微かに呼吸をする音も聞こえるがあまりにも弱弱しかった。住宅街で血を流し倒れている暗音をロケットが発見しすぐさま緊急搬送された。幸い命に別条は無かったものの現在も意識不明の重体。一切の予断を許さない状況だった。ロケットはエンゼ協会にこのことを報告しエンゼ・キューブに治療をお願いするがキューブには暗音を助ける理由とメリットがないと言われ断られてしまった。なので生命力を促進させる能力のあるエンゼ・クローバーと栄養を補給させる能力をもつエンゼ・ショックが治療を依頼し2人は快く承諾。病室にて暗音の家族が見守る中懸命の治療が行われそのおかげかそれから3日後意識が戻った。暗音は全てを理解し涙をボロボロ流しながら発狂した。恋人をくだらない理由で亡くしたというその揺るぎない事実にあまりにも無力感を感じ自分を殺したくなった。ベッドで暴れる暗音をロケットが必死に押さえ制止させる。ロケットは何も言わない。ただ暗音を抱きしめ絶望と無力感を全て受け止める。15分ほど暴れると次第に落ち着きロケットを抱きしめる。「ごめんなさぁい…ごめんなさい…ごめんなさい…」「大丈夫…大丈夫…」ロケットは後輩の暗音を心底気に入っていた。何せこうも暗く現実主義な人間は見たことがなく関わっていて楽しいからだ。「暗音ちゃん…暗音ちゃんはよく頑張った」「でもぉ…神楽を守れなかった…」「そうだね…でも仇をしっかりとれたのは偉いよ」「うぅ…」「とりあえずさ!今は!治すこと頑張ろ!」「はいぃ…」ロケットにはとある能力がある。それは人の負の感情を正の感情と交換するというものである。今の暗音のマインドの変わりようもロケットの能力の影響である。では負の感情はどこにいくのか、それはロケットの中だ。「はぁ…落ち着いた?」「はい…ありがとうございます」「じゃ!また来るね~あ!何か欲しいものある?」「じゃあ…お菓子欲しいです」「りょーかーい!じゃあ待ったねぇ~!!」ロケットはニコニコしながら手を振り病室から出る。そして病室の外にいた暗音の家族にお辞儀をし帰っていった。スノーのエンゼル・リングは一旦ロケットが預かることとなった。今の神楽家にはこのエンゼル・リングは娘の死を現実的にハッキリと実感させすぎてしまうので頃合いを見て渡すか、永遠に保管するか、もしくはというところだ。ロケットもかつて多くの仲間や大切な人を失いその絶望に打ちひしがれる毎日を送っていた。その辛さを知っているからこそもう誰も失いたくないし失わせない。「失ってしまった誰かの希望になりたい」そう思いながら必死に明るい自分を演じ続けている。現在彼女には相棒がいる。それがエンゼ・スターである。彼女達は高校生の頃に知り合い当時はお互い若かったというのもあり物凄く仲が悪かったが、ある出来事をきっかけに一気に仲良くなり今では一緒に暮らしている。玄関を開けるといつも彼女が出迎えてくれる。「おかえり~!」「ただいま~」エンゼ・スター、本名「星宮 アタル」。お互い下の名前で呼び合っている仲だ。「今日はどうしてたの?バイトないでしょ?」「うん…後輩のお見舞いでね」「面倒見いいねぇ~」家に上がりリビングのソファに荷物を投げると横になる。毎回これで怒られる。「ほら!先に洗濯!さっさと~しなさいノエル!」私の本名は「黒崎 ノエル」。アタルからはノエルやノーちゃんと呼ばれている。個人的にはノエル呼び捨ての方が好きだ。アタルに言われ洗濯物を出し風呂に入って部屋着に着替える。次第にリビングに漂い始めた夕飯の匂いをたどる。今日は多分エビチリだ。「そろそろ出来るよ~」「はーい」盛り付けや食器を出す手伝いをする。自分の予想通り今日の夕飯はエビチリだ。アタルの料理は本当に絶品で何度食べても飽きることはなく、常に最高記録を突破し続けるモンスターチャンピオン級である。今日のエビチリも非常に美味い。とにかくソースの量が絶妙でよく海老に絡んでおり白米とも合う。美味い。本当に美味い。食べ終わると片付けをしリビングでテレビを見る。今日も日本各地では事件が起きている。昔は日本から事件を無くすなんて意気込んでたけど今ではそれは不可能だと理解している。いくら悪を根絶してもまた新たな場所から悪が生まれる。悪とは風呂カビのような存在なのだ。あの時も敵の戦闘員が命惜しさにアタルに助けを求め左足を掴んでいなければ失うこともなかった。ほんと悪というのは身勝手で無様で足手纏いだ。考えるだけでイライラしてくるのでベランダに出て煙草を吸う。星の輝きも何もない都会の濁った夜空を見上げ煙を吐く。この時くらいは考え事を辞めたい。人から貰った負の感情は自分では消化しきれない。そこは普通の人間と同じで溜め込むものは一生溜め込んでしまう時もある。本当に死にたくなるときがある。煙草を吸い終え灰皿に押し付けると自室へ向かう。途中鏡を見て自分の青緑色の髪を見る。少し薄くなってきたのでそろそろ染め直そう。部屋に入るとアタルがいた。アタルは椅子に座り何かを記録しておりどこか寂しそうな顔をしていた。アタルは勤勉でエンゼとして満足に活動出来なくなった今もエンゼとして出来る事を模索し行動している。そんなアタルを私は尊敬しているし嫉妬している。そういうところが好きだ。1ヶ月後、私は中学校に行かなくなった。別に義務教育なので行かずとも卒業は出来る。だから今は部屋に籠って暗い部屋の中でずっと死んだように暮らしていた。すると携帯に一本の通知が来る。それはロケットさんからだった。『元気~?今日暇?暇だったらさ~渋谷でクレープ食べよ~』正直外には出たくなかったが先輩からのせっかくの誘いなので『ありがとうございます。是非ご一緒させてください。今から出れば11時くらいに着きます』送信すると10秒くらいで返信が来た。『そんじゃベタにハチ公前ね~!』すぐに着替えようとしたが外に着ていくような服が無いので制服で出かけることにした。髪を整え眼帯を付け直すと家をで出て電車に乗り込み渋谷へと向かう。平日の昼間なので人がいない。学生もいないしサラリーマンもいない。私は非常に浮いてた。居心地の悪さを感じながらも電車に揺られて15分。渋谷に到着すると待ち合わせ場所に急ぐ。渋谷ハチ公前は平日でもかなり人がいる。みんな頭が悪そうだ。みんな学校をサボっているのだろうか。ハチ公前で連絡すると10分ほどしてスクランブル交差点の方からロケットさんとスターさんが手を振りながら来た。ロケットさんは相変わらず都会っ子のような可愛くもカッコ良さのある服を着ている。スターさんとはあまり面識がないので少し緊張していたのだけれど気さくな方だったのでよかった。ロケットさんに手を引かれて3人でイチゴクレープを食べた。クレープなんてのは久しぶりに食べたので温かい食べ物だということを忘れていた。「そういえばゴーストちゃんはさ、うちのノエルと何処で知り合ったの?」「えーっと…私がロードさんのチームに居た時にお世話になった先輩なんです」「そーそー一番弱っちそうだったから心配でさぁ~」「ははは…」「ごめんねゴーストちゃんノエルこういうところあるし大変でしょ?」スターさんはロケットさんをじろりと見つめるとロケットさんはその視線にスマイルで返す。2人の関係性は友達でもなければ恋人でもないそれ以上の関係のように見えた。その後もプリクラを撮ったり服を買ったりして1日をあっという間に過ごしてしまった。「今日は楽しかったね~」「はい…本当にありがとうございました」「いいってことよぉ!」「また遊ぼうねゴーストちゃん」「はい…スターさん」正直外出は体力と精神的に滅茶苦茶キツイことなのだが、ロケットさんと遊ぶといつも楽しかったという感情で終わる。本当にロケットさんは凄い人だ。今度こちらから誘ってみようかなと思い帰宅した。翌日、アタルはエンゼ協会から呼び出しを受ける。要件はスター譲渡についてだ。実は以前からアタルは協会からスターを譲渡し、次のスターの育成をするポジションについてみないかと提案を受けていた。確かに今の自分はスターを満足に使えないし戦闘もまともに行えない。だとしたらスターの権利を他人に譲渡しその人物の成長に勤しんだ方が有意義ではあるのは間違いなかった。今の自分はスターを持っていても宝の持ち腐れ状態であり、だったら他の子に譲り渡すのがいい。それが一番スターのためになる。この提案を承諾したが協会には条件を出していた。一つ目は譲渡する人物の準備が出来次第譲渡する。二つ目は育成プログラムは完全にこちら主導で行う。そして最後に育成にはノエルも携わることを条件とした。この条件を協会は受け入れ準備を始めた。この提案を受けた時にノエルにこのことを伝えると、当然反対されたのだが私の意思は変わらなかった。「私は…もう戦えないからさ!他の子に譲ってその子の育成に努めたいの」「でも…あんただってこのスターで頑張ってきたんじゃん!そんな簡単に譲っていいわけない!」「簡単じゃないよ。私だって悩みに悩んでスターのこれからを考えたときにさ…このスターが輝く未来が見えなかったの」そうやって話すアタルの顔はもう全てを決めて覚悟していた。「…本気なの」「うん」「わかったよ…」アタルの顔は眩しく確実に未来を見据えている覚悟の目をしており、ノエルはこれ以上止めても無駄だと思い譲渡を受け入れた。ノエルから零れる涙をアタルは今までの感謝で受け止め全て吐き出す。たとえ譲渡しても記憶は消えない。想いは永遠に不滅だと誓い2人は熱く抱きしめ合った。そして現在に至る。協会は次のスター候補が用意できたという連絡を入れ、アタルはエンゼル・リング「スター」を協会に返還した。そして協会長は別室にいたスター候補の少女を紹介する。「この子が君のスターを受け継ぐ諸星華蓮くんだ。ほら挨拶しなさい」「諸星華蓮です!よろしくお願いします!」諸星の初々しいフレッシュさを見て物凄く安心した。早速その日からスターの戦闘情報や今までのデータを渡すと戦闘訓練を始めた。諸星の戦闘スタイルは蹴りで重みのある素早い蹴りはスターにピッタリだった。というよりそうさせるように訓練させたのだろうけどあまりにもマッチしている。懸命に訓練をこなす様子を途中から来たノエルは横で目付きで観察していた。一通りの訓練を終えるとノエルのダメ出しが入る。「蹴りのスピードはいいんだけどさ蹴るまでの判断と蹴りきった後の戻しが遅いよ。現場に行ったら迷ってる暇なんてないからね」「はい…!」「あと蹴り技のバリエーション増やしな。さっきからずっと回し蹴りしかしてないじゃん」「すみません…!」「まぁ最後にさ君は選ばれたんだからちゃんとやってね。他の子の足引っ張っちゃだめだよ」言い終えるとノエルはどこかへと行ってしまった。「ごめんね諸星ちゃん。ホントは優しいんだけど気が立ってるの」「いえ大丈夫です!もっと頑張ります!」諸星の成長スピードは早く先程のノエルの指摘をもう取り入れて形にしている。14歳という若さ故なのかもしれないが諸星の中にある「圧倒的センス」が成長を促進させているのだろう。その頃ノエルは諸星を受け入れられていなかった。諸星が成長するたびにアタルが遠くなっていくような気がしてならない。成長をして十分な戦力になるのは嬉しいことではあるが私のスターは「星宮アタル」であり「諸星華蓮」ではない。このギャップは自分の全てを苦しめていく。煙草を吸いその苛立ちを必死に誤魔化す。「っち…くそっ」認めたくない実力。その日ノエルが訓練場に戻ってくることはなかった。翌日も戦闘訓練をしていると警報が鳴り響く。どうやら池袋でディーアが暴れまわっているらしい。ディーアとはデモネという化け物を率いている女幹部である。協会に設置されている特別な鉄道に乗り込むと池袋へと急ぐ。この鉄道は通常では絶対に乗ることのできない地下鉄だ。この地下鉄の特徴は行きたい駅を設定するとその駅めがけノンストップで突き進んでいく。移動には便利な乗り物なのである。電車内ではアタルが緊張する諸星を励ます。諸星は俯きながらも励ましを聞いており小さく頷いていた。その様子にノエルは大きく溜息をつく。「そんなんじゃすぐ死ぬよ。とりあえず今日は私を見てて。危ないって感じたなら自分で自分の身を守ってねわかった?」「…はい」「自信持て…あんたしかスターはいないんだから」「…ロケットさん」「あんたはもうスターなんだよ。エンゼ・スターなの。自信持って前向かなきゃいつまで経っても弱いままだよ」「ノエル…」ノエルはアタルを一瞬だけ見ると目をそらしドアのほうを向く。「ほら着くよ…準備は良い?」「…はい!」電車の扉が開くと右耳に付けたエンゼル・リングを押す。するとノエルと諸星の身体が光りだしエンゼルウェアを纏う。ノエルは明るい水色と白を基調にしたサイバー調の服。露出は控えめで上半身はコルセット風のボディスーツにふんわり広がる長めの袖が付いている。胸元には発光するハート型のコアパーツがあり衣装の中心的な装飾になっている。スカートはフリルが何層にも重なったボリュームのあるデザインで布面積は多い。軽やかさを保ちつつもしっかりとした存在感がある。腰には大きなリボンとデジタル模様が入った装飾パネルが垂れている。腕は手袋と一体化した装飾付きスリーブ、脚は太ももまで覆うストッキング系の装備でどちらにもハートモチーフや発光ラインが組み込まれている。諸星は星をテーマにした黄色を基調としたデザイン。ツインテールのサイドには大きな星型のヘアアクセサリーがついている。衣装は上半身がコンパクトにまとまったドレスアーマー型で胸元には大きな星型の装飾が配置されている。色は鮮やかなゴールドイエローを中心に白と金の装飾が重なり合い光を反射するような輝きを持つ。肩には鋭角的でクリスタルのような装甲があり星のモチーフが随所に埋め込まれている。腕には白と金のガントレットを装備し手袋は黒で引き締められている。腰から下はスカート状の装飾が広がり、内側には柔らかい布、外側には硬質な装甲パーツが重なる構造。特に脚部は特徴的で膝から下にかけて非常に重厚な装甲が施されている。白と金をベースにしたプレートアーマーに星型のクリスタルや発光パーツが埋め込まれ、機械的かつ神秘的な印象を与える。ブーツ部分も大型で地面にしっかりと踏み込めるような重量感がある。背中には半透明の結晶状の翼が広がり黄色い光を帯びて輝いている。全体として華やかさと重装甲の力強さが同時に表現された攻守を兼ね備えた蹴り技を主にしている諸星に合わせたデザインになっている。「翼ついてんの?」「うん。諸星ちゃんは私と違って蹴りに重みがあるからその重みに翼ユニットによる軽やかさを追加したんだよねぇ~」「ふーん」「じゃあ二人ともいってらしゃい!」電車から出ると秘密の通路を走っていき路地裏にあるドアから出ると現場へ急ぐ。「最初は私が行くから!あんたは付近にいる人達を逃がして!いいね!」「はい!通りに出た瞬間、視界に飛び込んできたのは異形の群れである「デモネ」だった。そしてその中心で優雅に佇む女。「やっと来たわねエンゼ達!」長い黒髪を風に揺らしながらディーアは微笑む。その笑みには一切の温度がない。「……相変わらず趣味悪いね」ノエルは舌打ちしながら前に出る。「諸星!一般人!」「はい!!」諸星はすぐに反応し踵を返す。背中の結晶翼が淡く光り身体がふわりと軽くなる。「こっちです!!早く!!」震える声を押し殺しながら必死に人々を誘導する。怖い、でもやるしかない。その背中を一瞬だけ見たノエルは小さく息を吐いた。「……まぁ、最低限はやれるか」その直後。ドンッ!!!地面が砕けるほどの踏み込みと同時にノエルの姿が消える。次の瞬間にはデモネの群れの中にいた。「邪魔」一撃で数体が吹き飛び壁に叩きつけられる。「相変わらず乱暴ねぇ」ディーアがくすくすと笑う。「今日機嫌悪いからさ…さっさと終わらせるね」ノエルは腕を振り付着した黒い残骸を払う。その目は感情を押し殺した戦う者の目だった。だが一気に駆け抜けすぎたせいか視界が揺れた。胸の奥がざわつき溜め込んだ負の感情がじわりと滲み出す。(……うざ)それを振り払うようにさらに前へ踏み込む。その時だった。「ロケットさん!!右!!」反射的に身体を捻る。巨大な爪がさっきまでいた場所を切り裂いた。「……ナイスぅ!」視線だけで後方を見る。そこには呼吸を荒げながらも立っている諸星の姿があった。すでに避難誘導は終わっていた。「終わりました……!」「早いじゃん」「当たり前です……スターなので!」その言葉にノエルは一瞬だけ目を細めた。だがすぐに口元がわずかに歪む「……生意気言うじゃん」諸星は足で地面を蹴ると重装甲の脚部が音を轟かせ一直線にデモネへ突っ込む。「はあああああああ!!」高速でコマのような回し蹴りだが昨日とは違う。踏み込みや判断、そして戻し。どれも全てが格段に速くなっていた。デモネの一体が真横に吹き飛びそのまま動かなくなる。「……」ノエルはそれを見て無言で息を吐いた。(ちゃんとやってんじゃん)ディーアはその様子を興味深そうに眺めていた。「へぇ……新しいスター、悪くないわね」「でしょ?」ノエルは軽く肩を回す。「でもさ」一歩前へ歩み寄る。そして空気が張り詰める。「『悪くない』程度じゃ困るんだよねぇ」その瞬間ノエルの身体から淡い光が溢れる。拳にパワーを溜めディーアに向かって飛び上がる。「諸星!!来い!合わせろ!!」「はい!!」二人の視線が交差する。まだ未完成のコンビだが確かに今この瞬間繋がった。「行くよ…スター!!!」諸星も跳ぶと諸星の足に煌びやかなパワーが溜り光と重撃が交差する。ディーアにノエルの拳と諸星の蹴りが炸裂するとディーアは遠くへ吹き飛び黒い霧に包まれるとどこかへと消えていった。「……チッ、逃げたか」ノエルは舌打ちしながら着地する。コンクリートにヒビが走るがもうそれを気にする余裕はなかった。「はぁ…はぁ……」諸星も遅れて着地し膝に手をついて息を整える。重装甲の脚がわずかに軋む音を立てていた。「仕留めきれなかった……」悔しさが滲む声。「まぁ初陣で幹部相手にあそこまでやれりゃ上出来っしょ」ノエルは淡々と言うがその視線はディーアが消えた空間を睨んだままだ。「でも…!」「でもじゃない」ぴしゃりと言い切る。「あんたが避難させた一般人は生きてる。それが一番でしょ」「……はい」諸星は小さく頷く。その様子を見てノエルはふっと息を吐いた。「……あとさ」「はい…」「さっきの判断、良かったよ」「え…?」予想外の言葉に諸星は目を丸くする。「右のやつ。あれ言わなかったら普通に食らってた」「……っ!」一瞬、言葉が詰まる。「だからまぁ……ありがと」ぶっきらぼうに言ってノエルは視線を逸らした。諸星の顔がぱっと明るくなる。「はい!!」その声はさっきまでよりもずっと強かった。「ノエル!!諸星ちゃん!!」背後から聞き慣れた声。振り返ると少し遅れて現場に到着したアタルが駆け寄ってきた。「無事!?怪我は!?」「大丈夫大丈夫。かすり傷」「私も問題ありません!」二人の返答にアタルはほっと胸を撫で下ろす。「よかったぁ……」その顔を見た瞬間ノエルの胸の奥がまた少しだけざわつく。(……なんだよ)諸星の隣に立つアタル。自然に並ぶその距離。それがほんの少しだけ気に入らないけど、居心地が良い。「……帰るよ」「え?もう?」「デモネも散ったし幹部も撤退。これ以上やることないでしょ」「ちょ、ちょっとノエル!」アタルが呼び止めるがノエルは振り返らない。「先戻ってる」それだけ言い残して歩き出す。その背中はどこかいつもより遠かった。帰りの地下鉄では車内は静かだった。諸星はさっきの戦闘を思い返しながら手をぎゅっと握る。(もっと…強くならなきゃ)隣ではアタルがそんな諸星を見て優しく微笑む。だがその向かいにいるノエルは窓に映る自分の顔をぼんやりと見つめていた。(……イラつく)理由は分かっている。認めたくないだけだ。諸星華蓮は強い。確実に「スター」にふさわしい。そしてそれは同時に「星宮アタルじゃなくてもいい」という現実を突きつけてくる。「……はぁ」小さく息を吐く。胸の奥に溜まったものはまだ消えない。ロケットの能力で人の感情を背負い続けてきた代償。それは自分自身の感情すら上手く処理できなくなること。(ほんと、めんどくさ)「ノエル」静かな声に顔を上げるとアタルが真っ直ぐこちらを見ていた。「さっき、ありがとね」「……何が」「諸星ちゃん、すごい安心してたよ」「……別にめんどい感情で戦いにいかれたらめんどいだけだし」そっけなく返す。だがアタルは気にしない。「ノエルがちゃんと見てくれてるって伝わってると思う」「……」何も言わずただ視線を逸らす。すると今度は諸星が少しだけ遠慮がちに口を開く。「あの……」「なに」「これからも……ご指導よろしくお願いします!」頭を下げる。その姿はまっすぐで真剣で眩しい。ノエルは一瞬だけ目を細めた。「……」数秒の沈黙。そして「……まぁいいけど」ぶっきらぼうにそう答えた。「ただし」「はい!」「死なない程度についてきな」その言葉に諸星は力強く頷く。「はい!!」アタルはそのやり取りを見てふっと笑った。電車は静かに次の駅へと滑り込んでいく。まだ未完成の三人だがこれからどんどん強くなっていくのだろう。この三人がいればいつまでも無敵だ。希望溢れる3人の姿はまさに輝く未来そのものだった。
翌日、星宮アタルは自室にて首を吊っている状態で発見された。




