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この場所で

 

          ◯



 やがて辿り着いた先には、確かに公園があった。

 坂道の途中、住宅街の中にひっそりと佇む子どもたちの遊び場。入口に立つ銘板(めいばん)には『山本通東公園』とある。


 元は洋画家のアトリエがあったというこの敷地は、今は外国人向けの社交場や教会などに囲まれていた。


 虹の光はその広場の端、花壇の茂みへと降り注いでいる。


「ルナ。そこにいるのか?」


 オーナーが声をかけ、私たちはそこへ近づいていく。

 早朝の公園内には他に人の気配はなく、私たちの足音だけが響いていた。


 花壇には低木が植わっており、ぱっと見た程度ではそこに何かがいるとは思えない。

 しかし、耳を澄ませて神経を集中させてみれば、何者かの息遣いが確かに感じられた。


「ルナ?」


 オーナーは土の上に膝をつき、茂みをかき分けていく。

 すると、乱雑に生えた雑草に紛れて灰色の毛玉がそこに転がっていた。


 ロシアンブルーの猫。

 本来の姿に戻ったルナさんが、眠るようにしてそこに横たわっていた。


「ルナ!」


 オーナーは血相を変えてその体に手を伸ばす。そうして抱き上げた彼女の全身は、泥水に塗れて一回り小さくなっていた。


「体が冷たい……。ルナ、しっかりしろ!」


「ルナさん!」


「リーダー」


 昨夜の雨にずっと濡れていたのだろうか。

 その場の誰もが固唾を飲んで見守る中、何度目かの呼びかけで、彼女の瞳がわずかに開く。


「あっ。リーダー、気がついた!」


 クロが安堵の声を漏らしたものの、ルナさんの容態についてはまだ安心できなかった。意識があるとはいえ、体が弱っているのは火を見るより明らかだ。


「なぁーん……」


 ルナさんはオーナーの腕に四肢を預けたまま、頼りなく首を持ち上げて空を仰いだ。

 消え入りそうなその声は、何かを訴えているようにも思える。


「どうしたルナ? 誰か、彼女の言葉を通訳してくれ!」


 猫の言葉は人間にはわからない。

 オーナーが助けを求めると、すぐさまその役目を引き受けたのはおじいさんだった。


「……『この虹は、あなたの魔法ですか?』」


 ルナさんの言葉を、おじいさんが代弁する。

 彼女のブルーの瞳は、自らに注がれる七色の光を見上げていた。


「いいや。僕が魔法を使おうとしたわけじゃない。みんなの祈りが、この虹を出現させたんだ。君のことを思って……」


 そんなオーナーの言葉を受けて、ルナさんは再び小さく鳴き、おじいさんが通訳する。


「『ずっと昔にも、似たようなことがありました。あの時は、あなたのおばあ様が、この虹を目印にして私を迎えにきてくださったのです』」


 その告白は、かつてオーナーのおばあ様が語っていた虹の麓のお話を彷彿させた。


「『私がまだ仔猫だった頃、私はこの公園で息絶えようとしていました。母猫の居場所がわからず、お腹も空いて動けなくて、もはやこれまでと諦めかけていたのです。そんな時に、この虹の光が空から降ってきて、おばあ様はここへやってきたのです』」


 二十年前。ルナさんをたまたま拾ったと笑っていたおばあ様。

 その話がここに繋がっているのだとしたら、彼女もまたこの虹に導かれてルナさんを見つけたのだ。

 

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