一緒に
オーナーは言葉を失った様子で、声を発する代わりにルナさんの体をぎゅっと抱きしめていた。
彼らを見守る私たちも、誰一人として口を挟まなかった。
「一緒に帰ろう、ルナ。僕らの家へ」
やがてぽつりとオーナーが呟いた。
彼に抱かれたまま、ルナさんはまた小さな鳴き声で返事をする。
「……『私は帰れません。私は、あの館での役目を終えましたから』」
「仕事なんかできなくたっていい! ただ、君にそばにいてほしいんだ。僕が一緒にいたいんだよ」
彼女を支えるオーナーの腕は、小刻みに震えていた。
「もちろん、君が嫌だというなら無理強いはしない。これ以上僕らと一緒にいたくないのなら、無理やりあの館へ連れて帰ろうとは思わない。君が幸せになってくれることが、僕にとっての幸せなんだ。だから選んでほしい。君の望むことを。君が本当はどうしたいのか、その気持ちが知りたい」
ルナさんは無言のまま、虚ろな目で私たち一人一人の顔を窺う。
何かを確かめている、というよりは、まるで赦しを乞うような弱々しい眼差しだった。
「教えてくれ、ルナ。君は僕たちと一緒にいても、幸せになれないのか?」
ルナさんは再びオーナーの顔を見上げると、人間の耳では聞こえないほどのか細い声で鳴く。
「……『そんなわけ、ないじゃないですか』」
その答えとともに、彼女はオーナーの胸にスリッと頭を擦り付けた。
グルル、と喉を鳴らしたのを、私は初めて彼女から聞いた。
「『私は帰りたい。本当はあなたたちと一緒に、最後まであの館にいたいです』」
ついに打ち明けられた、彼女の本音。
本当は彼女も、オーナーたちと離れたくなかったのだ。
誰よりも厳格で責任感のある彼女は、その厳しさゆえに自分自身を甘やかすことができなかったのだろう。
オーナーたちからすれば、たとえ仕事ができなくなっても、彼女が大事な家族であることは変わらないのに。
「わーい! 良かった! あたしもリーダーとずーっと一緒にいたいな。怒られるのは嫌だけど!」
クロがいつもの調子で笑うと、その場の空気は一気に解れたようだった。
おじいさんが微笑み、コハクも満更ではなさそうな顔でフンと鼻を鳴らす。
オーナーはルナさんを抱いたまま、公園の出口へと体を向けた。
「病院にも連れて行きたいけど、とりあえずは一旦帰ろうか」
彼の声に、私たちは頷く。
そうしてぞろぞろと足を揃えて、北野の坂を上っていく。
帰りましょう、みんなで。
まどろみの館へ。
オーナーのおばあ様が残してくれた、あたたかい我が家へ。




