梅雨入り
◯
その後も二人と三匹で、異人館街の中を捜索した。
クロたちがあえて人間の姿にならなかったのは、変身する瞬間を人に見られないようにするためと、それから猫の優れた聴覚と嗅覚とを活用しようとしたためだろう。
しかし彼らの能力をもってしても、ルナさんの居場所を特定するには至らなかった。
まだ彼女の匂いが残っている場所はあったものの、あちらも常に移動しているのか、本人と接触することは結局叶わなかった。
「わしらから逃げているのかもしれないな。ルナも、こちらの匂いには気づいているはずだから」
収穫がないまま館に帰り着くなり、人間の姿に戻ったおじいさんは誰よりも歩き疲れた様子で椅子に腰を下ろした。
「じいじ、大丈夫? こんなに歩いたのは久しぶりだもんね」
同じく人間に戻ったクロがおじいさんの膝をよしよしと撫でる。
おじいさんもルナさん程ではないものの、猫の中ではかなりの高齢らしい。クロやコハクに比べれば足腰が弱っているので、今日の捜索は体に堪えたようだ。
一日外を歩いただけでもこれなのに、ルナさんはもう二日も外へ出たままだ。
さらに明日からはまた雨が降り出すらしく、ただでさえ弱っている体に追い打ちをかけることになる。
(ルナさん、大丈夫かな……)
何気なく窓の方へ目をやると、ほぼ同時に、オーナーもまた不安げに眉根を寄せて窓の外を眺めていた。
「ルナ……」
小さく呟いた彼の両手は、何かに耐えるようにぐっと拳を握りしめている。
そうしてルナさんが不在のまま夜は更けていき、やがてまた日が昇る頃には、予報通り雨が降り始めた。
その日から、季節は本格的に梅雨に入った。
雨は三日三晩降り続け、街全体を黒い雲で覆い隠していた。
仕事は、ギリギリだけれどなんとか回っている。館に残された一人一人が自分にできることを精一杯やっているおかげだろう。
そして、今までルナさんが私に仕事を教えてくれたから。
彼女が私を厳しく育ててくれたおかげで、多少のイレギュラーがあっても落ち着いて対処することができるようになっていた。
仕事は回っている。
傍目から見ればきっと何も問題はない。
まどろみの館は今日も平常運転で営業を続けている。
でも、足りない。
私たちにとっては、絶対的に欠けているものがあった。
本来ならここにいるはずの人がいない——その空虚感は、どれだけ時間が経っても私たちの中で薄れることはなかった。
◯
ルナさんがここを去ってから、ちょうど一週間になる日。
まだ夜明けを迎えていない薄明の中で、私はふと目を覚ました。
午前四時。
いつもならまだ眠っている時間だ。
けれど、なぜか二度寝をする気にはなれなかった。
胸の奥に違和感のような、妙にざわざわとしたものが感じられたのだ。




