本当の気持ち
その見立て通り、チワワはオーナーの手元をしきりに気にしていた。やがて幾分か興奮が冷めたのか、小走りでこちらに近づいてくる。
「よしよし。良い子だ」
オーナーはチワワの頭を撫でると、その小さな体をそっと両手で抱き上げた。
無事に捕獲成功。
私が控えめな拍手をしていると、飼い主の男の子はやや気まずそうに歩み寄ってくる。
「あ、ありがとう」
上目遣いで会釈をする彼に、オーナーはチワワを胸に抱いたまま微笑みかける。
「ちゃんと見ててあげなきゃだめだよ。この子は、君の家族なんだから」
「……ごめんなさい」
大事な家族を危険に晒した自覚があるのか、男の子は素直に頭を下げた。
これを教訓にして、今後は同じことを繰り返さないようになってくれたらいいなと思う。
チワワと男の子の背中を見送って、私たちはようやく息を吐いた。
その足元へ、黒猫がスリッと体を擦り付けてくる。
「やあ、クロ。それにシロとコハクも。みんなお手柄だったね」
オーナーがそう笑いかけると、黒猫と白猫は「にゃーん」と声を合わせ、茶トラだけはぷいっとそっぽを向いた。
やはり、この三匹の猫はうちの子たちのようだ。
「それに絵馬も。僕のことを止めてくれてありがとう」
「あ、いえ。私は、結局何もできなかったので……」
先ほどは「私が行きます!」なんて意気込んでいたくせに、実際はチワワを捕まえるどころか逆に追い立てる結果になってしまった。
「そんなことないよ。君のおかげで、僕は魔法を使わずに済んだ。君がいなかったらまた、僕は同じ過ちを繰り返していたと思う。……もう無闇に使わないって約束したのに、自分が不甲斐ないよ」
自嘲するような彼の姿に、胸の奥がきゅっと苦しくなる。
彼が咄嗟に魔法を使おうとしたのは、彼の優しさによるものだ。
なのにその優しさのせいで彼が罪悪感を抱くなんて、なんとも不条理だと思う。
「なぁーん」
と、そこで気の抜けるような鳴き声が上がった。
見ると、いつのまにかクロが道の先に立ってこちらを催促している。
早く行こうよ、とでも言いたげな彼女を見て、オーナーは相好を崩した。
「そうだね、クロ。こうしている場合じゃない。早くルナを捜しに行かないと」
当初の目的を思い出して、私たちは再び歩き出す。
こうしてクロたちがついてきたところを見ると、やはり彼らもルナさんに会いたいのだ。
みんな、ルナさんのことを心配している。
大事な家族が急にいなくなったのだから当たり前だ。
私も彼女に会いたい。
このままお別れだなんて、そんな寂しい結末にはしたくない。
そこでふと、一つの疑問が浮かび上がる。
(ルナさんは、寂しくないのかな?)
彼女は自らの意思であの館を出て行った。きっと相当の覚悟を持ってその決断を下したのだと思う。
それでも、これまでずっと一緒に暮らしてきたオーナーたちと別れるのは、彼女だって辛かったのではないだろうか。
(ルナさんも、本当はあの家に帰りたいんじゃないのかな?)
その仮説は、少なからず私の願望が反映されているものだとわかっている。
けれど叶うなら、彼女の本当の気持ちを確かめるためにも、もう一度彼女に会いたかった。




