二度目の危機
飼い主の手を離れたチワワは、坂道を下る形で駆け出した。その先には車通りの多い丁字路がある。
このまま飛び出したら先日の二の舞だ。
慌てて私がその後を追おうとする隣で、オーナーは咄嗟に胸の前で両手を組んだ。
また魔法を使おうとしているのかもしれない——その気配を察知した瞬間、私は彼の両手を自分のそれでがっしりと握り込んだ。
「だめですオーナー。私が行きますから!」
そう短く伝えると、彼はハッとしたように私を見る。
思いとどまってくれたのだろうか。
とにかく時間がないので、私は再びチワワを追った。
「止まって、お願い!」
私が大声を出すと、チワワは一瞬だけこちらを振り返ったものの、怯えた様子で余計にダッシュしてしまう。
(しまった)
追いかけられることが怖いのか、チワワは逃げるようにして丁字路へ向かっていく。
もしもこのタイミングで車が通りがかったら命の保証はない。
「だめ……!」
人間の足ではどうしても追いつけず、チワワが丁字路に突っ込もうとしたその時。
道の角から、三つの影が飛び出してきた。
「ふに゛ゃあああぁん!!」
ドスの効いた、獣の声が三重になって辺りに響いた。
反射的に足を止めたチワワの目の前で、三匹の猫が行手を阻むように威嚇していた。
(あれは……)
現れたのは黒猫に白猫、それに茶トラの三匹だった。
ひどく見覚えのあるその顔ぶれに、もしかして、と直感が働く。
チワワはその場に留まったものの、まだ動揺した様子で足踏みを繰り返していた。
そこへ、「ソラ!」と聞き覚えのある声が私の背後から届く。
振り返ってみると、先ほどの飼い主の男の子がようやく気づいた様子でこちらへ駆け寄ってくるところだった。
なんとか丁字路に飛び出す前にチワワを引き止めることができた。
これで一件落着か、と思いきや、チワワはまだ興奮して落ち着きがなく、なかなか男の子のもとへ戻ろうとしない。
「ソラ、おい。ちゃんと言うこと聞けって!」
男の子は次第に苛立ちを募らせ、声が鋭くなっていく。
これでは落ち着かせる暇もない。下手をすればまたチワワはここから逃げ出してしまうかもしれない。
そこへ、少し遅れてオーナーが到着した。
彼はチワワを見つめたままその場にしゃがみ込むと、冷静に声をかける。
「おいで。ほら、おやつだよ」
言いながら、彼はスラックスのポケットをごそごそと漁る。
その姿を見て、私は首を傾げた。
(あれ? おやつなんて、そんなもの持って来てないはず……)
こちらの疑問が伝わったのか、オーナーは私を見上げて微笑む。
「ジェスチャーだけだよ。こうすると、おやつをもらえると思って近づいてくるかもしれない」




