↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
61/76

オーナーと料理

 

          ◯



 夜明けとともに雨雲は去り、山の東側から久方ぶりの太陽が顔を出す。

 ルナさんがいなくなってから、二度目の朝を迎えた。


 いつものように朝一で厨房に向かうと、そこにはルナさんの代わりに別の先客がいた。


「やあ。おはよう、絵馬」


 穏やかな男性の声に出迎えられて、私は目を瞬く。


「えっ。オーナー……? どうしてここに」


 そう尋ねたのと同時に、ふわりとベーコンの焼ける匂いが鼻先をくすぐった。

 見ると、彼の手元ではフライパンがじゅうじゅうと煙を立てている。


「たまには僕も料理をしようと思ってね。久しぶりだから、味の保証はできないけど」


 どうやら私とルナさんの代わりに、彼が朝食を用意してくれているらしい。


「えっ……い、いえ。ご飯の用意なら私がやります!」


「絵馬は今日は休みだろう? 気にせずゆっくりしててよ」


 確かに、今日は私のオフの日。

 ついでに言うと、この館自体も月に一度の休館日だ。


 しかしだからといって、食事の支度をオーナーに任せて自分はゆっくりするなんて気にはなれない。

 今まではルナさんに甘えていた部分もあったけれど、その彼女も今はここにいないのだから。


 なんとかオーナーを説得して、とりあえずサラダの用意だけは私が担当することになった。

 きゅうりと玉ねぎとレタス、それからトマトを順番に包丁でカットしていく。


 厨房の窓から見える空は、昨日の雨が嘘みたいに晴れ渡っていた。清々しいくらいの快晴で、昨日の出来事も全部嘘だったんじゃないかと思ってしまう。


(ルナさん、大丈夫かな)


 今ごろ彼女はどこでどうしているのだろう。

 雨に濡れて、体を冷やしたりしていないだろうか。

 猫の姿で、危険な目に遭っていたりしないだろうか。


 そんなことばかり考えているうちに、左手の人差し指に鋭い痛みが走った。


()ッ……」


 思わず声が漏れてしまった。

 すぐさま視線を手元に下ろすと、指先に薄く赤い線が入っていた。どうやら切ってしまったらしい。


「大丈夫!?」


 私の異変に気づいて、オーナーがこちらに駆け寄ってくる。


「あっ……すみません。指先をちょっと切っただけです。なんだかボーッとしちゃって」


 あはは、と誤魔化すように私が笑っても、オーナーは真面目な顔を崩さなかった。そのまま私の負傷した方の手にそっと触れ、両手で包み込むようにして私の指を眺める。


「血が出てるね。痛そうだ」


 彼はしばらくそうしていた。

 こんな風に彼に手を握られるのは、これが初めてじゃない。


 以前もこうして彼が私を心配していた時、彼は私のために魔法を使った。

 まさか今回も? ——と、不穏な予感が頭を過ぎる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。