↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/76

お互いの気持ち

 

「あの。だめですよ、オーナー。いけません……」


 こんな小さな傷で、彼に魔法を使わせるわけにはいかない。

 咄嗟に私が手を引っ込めると、オーナーは少しだけびっくりした様子で、けれどすぐにまたいつもの穏やかな表情に戻った。


「わかってるよ、絵馬。僕はもう、無闇に魔法は使わない。みんなに心配をかけたくないからね」


 そんな彼の言葉に、私はホッとする。

 魔法を使えば彼は眠ってしまう。そうすれば私たちが心配することを、彼はやっとわかってくれたのだ。


「でも」


 と、彼はさらに続けた。


「僕が魔法を使えば、ルナの居場所を突き止めることはできるかもしれない」


 ルナさんの居場所。

 それは私が今何よりも知りたい情報だった。


 確かに、オーナーの魔法ならルナさんを捜し出すことも可能だろう。

 魔法は誰かの願いを叶える形で発動する。そしてルナさんの居場所が知りたいというのは、私の願いでもあるから。


「でもオーナー。そのために魔法を使ってしまったら、あなたは……」


 魔法の代償で、長い眠りについてしまう。下手をすれば、もう二度と目覚めることはないかもしれない。


「そうだね。もしも魔法を使って僕に何かあったら、それこそルナを悲しませることになるかもしれない。だからやっぱり、僕は魔法は使えない。その代わりに、今日は一緒にルナを捜しに行かないか?」


 意外な提案に、私は面食らった。


「ルナさんを捜しに? 今からですか?」


「ああ。朝食が終わったら早速出かけよう。今日は休館日だし、幸い天気も晴れてる」


「で、でも。ルナさんは私たちに見つけて欲しくないんじゃないですか? だからこそ、この館を出て行ったのでは……」


 最期の姿を見られたくない——それが猫のプライドであると、おじいさんも言っていた。

 なら、ルナさんのその気持ちを無視して会いに行くのは、彼女に悪い気がする。


「確かに、ルナの気持ちも大事だよ。だけど同じくらい、絵馬の気持ちも大事だと僕は思ってる」


「私の?」


「絵馬は、ルナに会いたいだろう?」


 聞かれて、否定するはずがなかった。


 ルナさんに会いたい。

 それはきっと私だけじゃなく、この館に残されたみんなも同じ気持ちのはず。


「君がルナのことを大切に思ってくれているのは、僕にも伝わってる。君が彼女に会いたいというなら、その気持ちもないがしろにはできない。それに僕も同じだ。僕もルナに会いたい。たとえ拒絶されたとしても、もう一度彼女と会って話しがしたい」


 オーナーはそう言って、一度離れた私の手を再び両手で握った。


「僕らの願いは一致している。なら、僕は絵馬のために、絵馬は僕のために、ルナを捜しに行く。それならいいだろう?」


 こちらをまっすぐに見つめてくる彼の瞳には、いつになく力強い光が宿っていた。


「僕らのお互いの気持ちを尊重して、ルナに会いに行こう。……それならわかってくれるだろう? シロ」


 と、オーナーは今度は窓の方へ目をやった。

 釣られて私もそちらを見ると、窓の外側にはいつのまにか一匹の白猫がいた。


 おそらくは白髭のおじいさんだ。

 どうやら窓辺から私たちの会話を盗み聞きしていたらしい。


 なぉーん……と力無く鳴いた彼の声は、まるで「仕方ないな」とでも言っているようだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。