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4話/一人になっても

「一人になっても大丈夫ですから!?と、というか、こ、子ども扱いしないでください!」


「へいへい。んじゃ行ってくらー」


 にっと笑って人混みの中を古伊崎君は進み始めました。昔から私はよく弄られるのですけど、本当に古伊崎君のあの笑顔にはかないません。今だって子ども扱いされて恥ずかしいですけど、それすら許してあげたくなるような、不思議な笑顔なんです。


 なんて思ってる間も、本当に一人待たされて、気づけば数分。目の前に古伊崎君がいる人だかりがあるのに、一向に戻ってきません。それに人だかりも減ってるようには見えなくて、寧ろ増えている気がします。


 確かにこれだと、私が並んだら転んで怪我してしまったかもしれません。気を使ってくれた古伊崎君に感謝しないとですね。


「あ゛ーくっそ。人多すぎんだろ……貰って来たぞ」


「あ、おかえりなさい」


 ちょっと心配になりましたけど、ちゃんと人混みをかき分けて戻ってきてくれたことに少し胸が温かくなりました。ここまで混んでるのに、並ばずに傘を借りて来たみたいで、多分適当なこと言って貰って来たんじゃないかなって思います。


 どちらにしても、先生にも並んでた生徒の皆さんにも感謝しかありません。それにしっかりと()本借りてきてるのですから、って、あれ?一本?


「……シュー、今なんつった? もう一回言って?」


「ふぇ!?」


 何度見ても古伊崎君の手には一本の傘しかなくて、そのことを聞こうとした矢先、古伊崎君が変なことを言い始めました。えっと、少し、反応に困るのですが……お、おかえりなさいを言えばいいのかな?


「えっと、おかえりなさいって、いい、ました?」


「なんだ、聞き間違いか。お帰りくださいって聞こえたから、ビビった」


 どんな聞き間違え何ですかって言いたかったですが、人のことなんて全く言えないポンコツな私なので、そんなこと言わないって旨を話しつつ、誤魔化すように気になっていたことを聞くことにしました。


「そ、それより、一本しか借りれなかったのですか?」


「まぁ、並ばないで無理言って借りてきたからな。それに全員分は流石にないみたいだからってことで、これだけ」


「そ、そうなんですか」


「あー、安心しろ。俺はカバンを傘代わりにしてダッシュで帰るから。お前は傘使え」


「で、ですが」


「いいって。一緒に帰れないのは仕方ないことだし。俺は濡れた方がいい男になるからな」


 その気遣いは流石に申し訳さすぎて困ります。なんてことは流石に言えませんが、もしも、これで古伊崎君が風邪なんて引いたら実質私のせいですし……多分古伊崎君もそう思って私に傘を譲ろうとしてると思いますし。


 そう考えてると、ふと傘を借りてった生徒に目が行きました。


 多分、いいえ絶対付き合ってるのは間違いない男女のペア。女子生徒が男子生徒の腕をぎゅっと抱きしめていちゃくらしながら帰っていったのです。うわぁ……


 でも、そこまではしないですけど、二人で一つの傘をシェアするのは結構いいアイデアだと思います。そこで。


「古伊崎君、古伊崎君!」


「なんだ?」


「傘をシェアして一緒に帰るというのはどうでしょう!」


「ちょ、おまっ!ちょっ待てよ!それはっ!」


 提案した途端、古伊崎君の顔が急に赤色に染まって、激しく動揺し始めました。見てるこっちもなんか恥ずかしくなりそうですが、私たちにそんなやましいことなんてありません。むしろただの幼馴染です。ただそれだけです。つまり一緒の傘を使って帰っても問題はないのです。


「その、な?一本の傘で二人。それも男女のペアってのはだな?」


「改まらなくてもわかってますよ。でも帰る方法はこれしかないですし。それに私たちは昔からの仲ですよ?そんなの気にしなくてもいいじゃないですか。それにいつも一緒に帰ってるんですから大丈夫ですよ」


「ま、まぁ言われてみればそうだけどよ……」


 小さくため息をついた古伊崎君。何をどうしたら古伊崎君はそんなに悩むんですかね。いつも一緒に帰る仲ですし、傘のシェアくらいなんとも思わないとばかり……あ、もしかして。


「もしかして、雨に当たるのが嫌だとかですか?」


「そ、そうそう!実は雨に打たれるの嫌でな」


 さすが古伊崎君。嘘が下手でした。そもそも雨に当たるのが嫌なら、いつ何時何があってもいいように折り畳み傘は持っていても、おかしくはないはずです。それに私は幼馴染なんですから、雨嫌いを知っていて当然。ですが今初めて聞きましたし、そもそも――とまあ沢山の記憶と口ぶりから簡単に嘘だと見破れました。


「嘘ですね」


「ぐっ」


 さてとどうやって、本音を引きずり出すか。なんて考えていた矢先のことでした。


「あ、いたいた~()()センパ~イ」


「あ、朝日!」


 唐突に私の後ろから気の抜けた声が、人混みの騒音を貫いて聞こえたのです。その声の主は、古伊崎君が発した名前の人。時々倒れてしまう私ですら知ってる朝日さんです。


 その気の抜け具合と、だらだら過ごしてそうとか、何考えてるのかわからないと言うみんなの偏見で、古伊崎君とは裏腹に、新月とまで言われてます。そして何と言っても、その可愛さとは裏腹にだらしなくて、全ての授業においてヨダレを垂らして寝てしまうのです。


 結果、新月と呼ばれつつ、一部では眠り姫。その二つの愛称がある故に、どちらともあまり学校に定着してないのです。


 って、そんな解説よりも。


「朝日さん。どうなされたのですか?」


「聞いてないの~?今日は太陽センパイとでーとなんだよ~。生憎の雨だけどね~でもまあ」


 外を眺める朝日さん。うーんとわざとらしく唸って言葉を溜めてから、言葉を続けました。

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