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3話/消えないから

「それ消えないから」


「なんですと」


「逆にどうやったらシャーペンとボールペン間違えるのか、教えてほしいくらいだ。それにその消しゴムボールペン消えるやつじゃないだろ」


「あ」


 気づけば午後の授業が終わっていつもの放課後がやってきました。もちろん私は屋上にいま――せん。あ、いや、本当はいつものように空を眺めたいのですが、なんと午後に入ってすぐに雨が降り始めたのです。


 午前中は快晴の二文字が似合う澄み渡った青い空が見えていたのに、急に暑い雲が空に浮かぶ眼(太陽)をも完全に隠してしまい、予報にもない大雨が降りだしたのです。


 よくいうゲリラ豪雨というやつですが、ゲリラだけあって折り畳み傘を常備してない私を含む何人かの生徒は、校舎内に閉じ込められてしまいました。


 帰るまで雨が上がるかもしれませんし、それまで暇なので、私と古伊崎君は教室で勉強をやってたのです。一日遅れてるからこそ、こういう時間を活用しないと後々困るかもしれませんので。


 それにしても……ノートに書いた字が消えないなんて、厄介です。元はと言えばボールペンで書いてしまった私も私ですが、すごく力入れて消しゴムで擦ってたんですけど、古伊崎君に言われるまで消しゴムも違うことに気づかなくて、結局諦めました。


「にしても、さっきまでめっちゃ晴れてたのに、今はひっでぇ雨だな」


「予報になかったんですけどねぇ」


「ったく、絶好の洗濯日和だと思ったのによ。おかげで一日暇になったじゃねえかこのやろう」


 その言葉と共に古伊崎君は、窓の外から視線を私にずらすと、私の頭をわしゃわしゃとかき乱してきました。正直びっくりしましたが、これも彼なりのスキンシップなのです。多分。


「それを私の髪わしゃわしゃしながら言われても、困るだけなんですけどぅ……」


 そうそう、古伊崎君が部活をやらない理由ですが、それは親が共働きとか何とかで、それもほぼ帰ってこないらしくて実質的な一人暮らしをしているからだそうです。


 だから家のことは自分でやらなきゃいけなくて部活をしている暇はないみたいですが、その割には私のことを心配して、先日みたいに放課後、私のところに来ては一緒に帰ってます。


 そういえば。とちょっと気になったことを古伊崎君にぐちゃぐちゃにされた髪を直しながら。


「そういえばですけど、今度はいつ頃来ますか?」


「ん?ああ、そうだな。じゃあ来週の土曜日」


「来週の土曜日ですね。伝えておきます」


「おう」


 あ、なんのことかわかりませんよね。古伊崎君が殆どずっと一人ってこともあって、月に何回か食事のお誘いをするんです。あ、もちろん家族団らんの座です。ただ古伊崎君の負担を軽減するという目的です。


 私の方の親も共働きではありますけど、古伊崎君とは違って毎日帰ってきますし、なにかと学生なのに一人で生活してる古伊崎君を心配してるんです。


 で、なんやかんやあってお家ごはんをごちそうするようになりました。他にも時々欠席してしまう私に勉強を教えてくれたりしてくれますが、それぞれの家庭の事情とか相まって決まった日ではないので、古伊崎君の方から言ってくるか、私から聞くかして日程を決めなきゃならないのです。


「にっしても本当に止む気配ねぇな」


「ですねぇ」


「いつも空見てるシューなら、雨雲ぐらいどうにかなるんじゃないのか?」


「うーん。私は天気予報士じゃないですし、カエルみたいな真似はできませんよ~」


「ま、そりゃそうだわな。そんなのできたら苦労しないだろうな」


「じゃあなんで聞いたんですかっ!?」


 こうやって話してるとよく思います。古伊崎君の考えてることが時々わからないって。昔からの仲とはいえ、突然わしゃわしゃされたり、今みたいに意味もなく私に質問してきたり。


 まあそうしてくる理由はわからないけど私としては、そのくらい気軽に接してくれるのはとてもありがたくて助かります。


「あ、シュウっち、古伊崎っち。君ら部活ない組に朗報だぞい。生徒用玄関でビニール傘貸出してるから、それ借りれば帰れるぞい~」


「お、まじか、サンキュ柿崎(かざき)


「ありがとうございます柿崎さん」


 声をかけてきたのは柿崎さん。果物の柿と書いて山崎の崎でかざきって読む女生徒です。黒くて長い髪を結んで、尻尾のように揺らす可愛らしい人なのですが、独特な口調が特徴的なんです。


「あ、あとシュウっち、昨日いなかったから伝えとくけど、明日は委員会あるから帰らないっちゃだめだぞい」


「了解しました」


 昨日倒れて寝ていたからこそ、こうして委員会の集まりが急に決まったことを教えてくれるのは助かります。教えてくれなかったら明日の私はきっと怒られてたかもしれません。


 そんなことを思いながら一言お礼を言うと、私たちは廊下を歩いて玄関に。でも部活に入ってない生徒も私と古伊崎だけじゃないようで、たどり着いた時には長蛇の列、とはいきませんがかなり生徒がいました。


 多分ビニール傘を急遽用意してくれたと思いますが、全校生徒分は用意できていないみたいでした。校内で、それも目の前で起こってるそれは安売りの争いを見てる気分です。


「まあ、そうだわな。折り畳み傘を携帯してる真面目なんてほとんど見ねぇし、急の大雨だからな……おし、ちょっと待ってろ。貰ってくる」


「え、ちゃ、ちゃんと並びましょう?順番で並んでるんだと思いますし」


「はぁ、別にそれでも構わねぇけどさ、ただでさえちんちくりんなシューがこの人混みに紛れたら怪我すんだろ。それに傘無くなったら、本当にこの豪雨の中走ることになるぞ?」


「そ、それは嫌ですね……風邪ひいちゃうかもです」


「だろ?だから待ってろ。俺がここから消えるわけじゃねぇんだし、ちゃんと持ってきてやっから。それとも一人じゃ待ってる間寂しいか?そうかそうかお子ちゃまだもんなぁ?」

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