名と、名乗らぬもの①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
目を開けると、外套の織りの隙間に細い光があった。
寝る前と同じ光だった。
塔の壁は消えない。
リュカはしばらくそのまま横になって、耳を澄ませた。
下から何も聞こえない。
隣から息の音がする。
ゆっくりで浅くない。
――寝てる。
リュカは外套を頭から下ろした。
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リナンは横向きのまま、坂の下のほうへ顔を向けていた。
目は閉じていなかった。
「……起きてるのか」
「起きてます」
リナンは小さく答えた。
「数えてました」
「何回目だ」
リナンは少し黙った。
「……分かりません」
「分からない」
「千になったら、起こそうと思ったんです」
リナンはそう言った。
「千になって、起こそうとして、リュカくんの息を聞いたら、まだ深かったので」
「……」
「もう千と思って」
「それを何回やった」
「三回か四回です」
リナンはそこで少しだけ顔を上げた。
「間違えてもいいって、言いましたよね」
リュカは言い返す言葉を探した。
探して見つからなかった。
千で替わると決めたのは自分だ。間違えてもいいと言ったのも自分だ。
この人は、決めたことを言われたとおりに使った。
「……言った」
「言いました」
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「寝ろ」
リュカは身体を起こした。
「今度は俺が数える」
「もう朝じゃないんですか」
「朝はない」
リュカは言った。
「お前が寝てないなら、夜はまだ半分だ」
リナンは何か言いかけた。
言いかけてやめた。
それから、翼を畳み直して、壁際で目を閉じた。
左の翼は、二つ目の節でまた引っかかった。
肩を動かして直して折り込んだ。
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リュカは壁を背にして座った。
座って数えた。
一。二。三。
千まで数えてリナンを見た。
寝息は深かった。
もう千と思った。
思ってから少しだけ笑いそうになった。
――同じことをしてる。
二千を数えて三千を数えた。
下からは何も聞こえなかった。
三千のところでリュカは数えるのをやめた。
やめて壁の光を見ていた。
この人を起こさずに済むなら、数はどうでもよかった。
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リナンが起きたのは、それからしばらくしてからだった。
どれくらいかは分からない。
分からないのが少しだけ気持ち悪かった。
気持ち悪いのをそのままにした。
「……おはようございます」
「おはよう」
言ってからリュカは、それが合っているのかを考えた。
日は昇っていない。昇るものがない。
だが、二人とも寝て、二人とも起きた。
それを朝と呼ぶなら朝だ。
――一晩目が終わった。
石は外の日で数える。
胸に手を当てた。
三十三個目は肌の温度のまま、そこにあった。
三日目だ。
あと七日。
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リナンが腰から小さい水袋を外した。
リュカが受け取って振った。
底のほうで鳴った。
鳴るのは残りが少ないからだ。満ちている袋は鳴らない。
三年、荷の中で水を運ぶときに覚えた。中で鳴る荷は量が足りていない荷だ。
「……鳴ってますね」
「鳴ってる」
「あと何口ですか」
「六口くらいだ」
一口ずつ飲んだ。
四口になった。
リナンは、もう一つの大きいほうを腰の上で少し持ち上げてみせた。
重い。まだ重い。
「こっちは四十口くらいです」
「昨日も四十だった」
「開けてないので」
リナンはそう言って、リュカの腰のバルの古い革袋を見た。
リュカも見た。
開けていない。
開けていないので、まだあることになっている。
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干し魚は出さなかった。
二枚ある。
一万息を一晩と数えるなら、夜に食えるのはあと二回。朝に食えば夜が一回減る。
リナンも何も言わなかった。
言わないのが分かっているという返事だった。
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支度は少なかった。
外套を着る。バルの革袋を腰に下げる。石の袋を肩に掛ける。杭の布巻きを外套の内側に入れる。
リナンは、左の翼をミラの布で縛り直した。胸の前で結ぶ。夜のあいだは畳むために解いていた。
それから、リュカは外套の下から投槍器を出した。
布巻きを開いて、杭を一本つがえた。
つがえたまま手に持った。
「……もう出すんですか」
「先に出しておく」
リュカは言った。
「最初の石の羽のとき、出してなかった。出してから考えるのと考えてから出すのとでは間に合う長さが違う」
杭は九本。
撃てるのが七本。つがえた一本。叩く用の曲がった一本。
曲がった一本は左手に持った。
つがえた投槍器は右手に。
坂は右へ回るので、壁はいつも左にある。叩くのは左手でいい。
両手が塞がった。
――両手が塞がると、壁に手をつけない。
三年、荷を担いで石段を上ってきた。両手が塞がる荷のときは、足で段を探った。
ここには段がない。
足で探るものは坂の縁だけだ。
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「リナン」
「はい」
「今日は叩く」
リナンはリュカを見た。
「……昨日やめましたよね。叩くのは」
「やめた。叩くと後ろが聞こえない」
リュカは曲がった杭を見た。
「叩く音のほうへ寄ってくるのもいる。昨日の後ろの三つはそうだった」
「……はい」
「だから軽く叩く。澄んだら止まる。寄ってくるのが後ろなら、俺には聞こえない」
リュカは言った。
「だから分ける」
「分ける」
「叩くのは俺だ。聞くのはお前だ」
リナンは少し黙った。
「……わたしが後ろを」
「お前のほうが先に聞こえる」
リュカは言った。
「風が先に来るって言ってたな。音より先だって」
「言いました」
「後ろから何か来たら言え。叩くのは止める」
「……はい」
「前から何か来たら俺が言う」
リナンは頷いた。
頷いてからもう一度頷いた。
昨日はどちらかしか選べなかった。
二人いれば両方できる。
当たり前のことだった。
当たり前なのに、昨日は思いつかなかった。
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三層目の平らなところの端で坂がまた始まっていた。
前の坂と同じだった。
幅は人一人ぶん。段はない。外側が壁で内側は何もない。
右へ回りながら上がっていく。
リュカは坂の一歩目に足を置いた。
置いてから壁を叩いた。
こん。
一歩。
こん。
一歩。
叩いてから進む。進んでから叩く。
一歩に二息。
「……一からですか」
後ろでリナンが訊いた。
「一からだ」
リュカは言った。
「三層目から一だ」
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百息で五十歩。
二百息で百歩。
全部こんだった。
鈍い音だ。詰まった音。中に隙間のない音。
籠の留め具と同じだ。締まっているものは鈍く鳴る。
――ここは締まってる。
締まっている壁は壁だ。
壁のあいだは、少しだけ息がしやすかった。
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「リュカくん」
三百息を過ぎたところでリナンが言った。
「うん」
「後ろ何も来てないです」
「分かった」
「……来てないって、言ったほうがいいですか」
リュカは少し考えた。
「言え」
「来てないのに」
「来てないのが分かるのと何も言わないのとは違う」
リュカは言った。
「何も言わないと、お前が寝てるのか来てないのか分からない」
「……寝てませんけど」
「分かってる」
リュカはまた叩いた。
こん。
「百息に一度でいい。来てないって言え」
「はい」
リナンはそう答えた。
百息後に小さく言った。
「来てないです」
その百息後にも言った。
「来てないです」
声は毎回同じ高さだった。
同じ高さで言われると、それは数と同じになった。
来てない。来てない。来てない。
リュカはそれを数の代わりに聞いた。
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八百息を過ぎたころ音が変わった。
こんではなかった。
澄んでいた。高い。
リュカは足を止めた。
叩くのも止めた。
止めてから壁の面を見た。
ほんの少し濃い。
――いる。
一つ目だ。
坂の外側の壁。リュカの肩の高さ。
息を止めた。
後ろでリナンが止まった気配がした。
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叩いた音で起きたかどうか。
リュカは濃いところを見ていた。
動かない。
動かないものは動かない。
軽く叩いた。軽くても澄んだ。
昨日叩きながら登っているあいだに後ろの三つは、音のほうへ移ってきた。
この一つが今の音のほうへ寄ってくるかどうかは分からない。
分からないものは、寄ってくるほうで数える。
リュカは二十息、待った。
濃いところは動かなかった。
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「……リナン」
リュカは声を落とした。
口の中で言う程度の声だ。
「一つ。左の壁。肩の高さ」
「……はい」
リナンの声も同じくらいだった。
「通る」
リュカは、濃いところの手前で自分の身体を坂の内側へ寄せた。
内側は何もない。
縁から下が見える。下は光の届かない暗さだ。
見ないようにした。
見ると首が動く。
首が動くと肩が動く。
――昨日リナンが言ったことだ。
リュカは足の裏で縁を探った。
一歩。
一歩。
濃いところの前を息を止めて通った。
面は動かなかった。
通りきってから振り返らずに言った。
「来い」
リナンが来た。
翼の先が壁に当たらないように、身体を斜めにしていた。
当たらなかった。
面は動かなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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