壁が動く②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
リュカはその包みを見た。
理屈は合っていた。
石は二十六個だ。七つには足りるかもしれないが上にはもっといる。上へ行くほど多い。
弦なら減らない。切れるまで鳴る。
――切れたら。
リュカはそこで止まった。
替えの弦をこの塔の中で手に入れられるのか。
手に入れられないなら、切れたときが終わりだ。
そして切れるかどうかは、鳴らしてみないと分からない。
「駄目だ」
リュカは言った。
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「……音が出ないと通れませんけど」
「石で通る」
「石は減ります」
「減る石だ」
リュカは袋を持ち上げた。
「三年、宿らなかった石だ。二十六個ある。全部、外れだ」
「……でもリュカくんの石です」
「外れは外れだ」
リュカはそう言った。
「外れを投げて済むなら、外れを投げる」
リナンは包みから手を離さなかった。
「わたしのは、外れじゃないから駄目なんですか」
「そうだ」
リュカはあっさり言った。
「外れじゃないものは投げない」
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リナンはしばらく黙っていた。
それから、包みから手を離した。
「……ヴェスナさんと同じことを言いますね」
「婆さんはなんて言った」
「売った物は戻ってこないって」
「……そうだな」
「帰ってきたあんたはそれを持ってないんだよ、って」
リナンは、包みの縄を指で一度だけ確かめた。
「今、それを思い出しました」
「思い出したのか」
「言われたときは売る話でした」
リナンはそう言った。
「鳴らす話でも同じでした」
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リュカは二つ目の石を投げた。
今度は後ろへ投げた。
後ろの三つのさらに下。
からん。
後ろの三つのうちいちばん下の一つが動いた。
剥がれて下りていった。
三つが二つになった。
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三つ目の石も後ろへ投げた。
二つ目の石よりも下へ。
からん。
もう一つが動いた。
二つが一つになった。
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四つ目の石をリュカは投げなかった。
袋に戻した。
――呼べば来る。
来るのは音のほうだ。
音のほうへ来るなら、音の反対側に人がいれば、当たらない。
だが、投げた石は戻ってこない。
二十七個が二十四個になっていた。
三年ぶんの外れが三つ減った。
減ったことをリュカは数に入れた。
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残ったのは、前の三つと後ろの一つだった。
後ろの一つはいちばん上にいる。
つまり二人のすぐ後ろだ。
「リナン」
「はい」
「後ろを見ててくれ」
「はい」
「動いたら言え」
「……何て言えばいいですか」
「来ますでいい」
「はい」
リナンは後ろを向いた。
翼を少しだけ開いた。
風を受ける形だった。
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リュカは前の三つに向き直った。
真ん中を落とす。
三年、的を撃ってきた。二十歩と三十五歩と五十歩。毎朝、四十本。
溝鼠は二歩か三歩で振った。あれは当たればいい。
ここは当たるだけでは足りない。
縁に入れる。面の真ん中ではなく縁だ。
縁の幅は指一本ぶんもない。
三十五歩なら入れられる。振りが伸びきる。
ここまでは二十歩ほどだ。
二十歩の的は板だった。板の真ん中なら二十歩でいい。縁は違う。
近いほうが易しいとは限らない。近いと振りが伸びきる前に当たる。伸びきらない杭は角度が浅い。浅い角度では縁に入らずに滑る。
リュカは二歩下がった。
二十二歩。
まだ近い。
もう二歩下がろうとしてやめた。
後ろに一つある。
「……二十二で撃つ」
リュカはそう言った。
誰に言ったのでもなかった。
口に出すと決まる。
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撃った。
杭が真ん中の面の縁に入った。
縁に入ってそこで止まった。
刺さらなかった。
弾かれもしなかった。
挟まれていた。
一つ目のときと同じだった。
――浮かせただけだ。
浮いた縁から壁が剥がれた。
剥がれて翼が開いた。
真ん中の一つが坂の上を横切って、内側へ抜けた。
杭がそれと一緒に行った。
挟まれたまま落ちていった。
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「リュカくん」
リナンの声だった。
「来ます」
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リュカは振り返らなかった。
振り返ると一息かかる。
代わりに壁に背をつけた。
背をつけて腰を落とした。
落とした腰の高さの上を風が通った。
高い音だ。
通り抜けて内側へ消えた。
後ろの一つが下りていった。
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リュカはそこで振り返った。
リナンが壁に背をつけて、腰を落としていた。
同じ形だった。
教えていない。
「……真似したのか」
「見てました」
リナンはそう言った。
「二回目なので」
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残ったのは前の二つだった。
真ん中が抜けた両脇の二つ。
あいだに人が一人通る幅がある。
あるように見える。
リュカは杭をもう一本つがえた。
布巻きの八本のうち一本。
つがえたのは撃つためではなかった。
通るとき両脇のどちらかが動いたら、そこへ突き込む。
突き込んで縁を浮かせる。浮けば落ちる。
落ちる先は内側だ。人がいる側ではない。
――たぶん。
たぶんで通るしかなかった。
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「リナン」
「はい」
「先に行く」
「はい」
「通ったら俺が向こうで待つ。呼んだら来い」
「……呼ばなかったら」
「呼ぶ」
リュカはそう言った。
「呼ばなかったら来るな」
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リュカは沈み《ハウ》を使った。
息を落とす。
足の裏を坂の面に薄く貼りつける。
気配を薄くするだけの技だ。誰でも覚えられる。深さは人による。
リュカはこれが得意だった。石を一つも持っていなくても使える技だからだ。
三年、そればかりやってきた。
得意なものが三つしかない。
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両脇のあいだを通った。
左の面が肩から拳一つ。
右の面が腰から半歩。
通るあいだリュカは、両方を見ていなかった。
左だけを見ていた。
近いほうだ。
近いほうが動いたら、間に合わない。
遠いほうが動いたら間に合う。
だから、近いほうだけを見た。
左は動かなかった。
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通りきって三歩先で止まった。
止まってから振り返った。
両脇は壁のままだった。
「リナン」
「はい」
「来い」
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リナンはすぐには動かなかった。
両脇のあいだを見ていた。
幅は人が一人。
彼女には翼がある。
翼を畳んでも、背中の厚みはリュカより厚い。
リュカが通れた幅をリナンが通れるとは限らない。
リュカはそれを通ってから気づいた。
――先に測っておくべきだった。
三年、荷の大きさと戸口の幅を目で比べてきた。何百回もやってきたことだ。
それをやらないまま先に通った。
「リナン」
「……はい」
「通れるか」
リナンは答えなかった。
答えずに一歩前に出て、身体を横にした。左の肩を前にする向きだ。翼の厚みがいちばん薄くなる。
それから、腰を落として、半歩ずつ進んだ。
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左の翼が左の面に当たった。
しゅと鳴った。
リュカは息を止めた。
左の面は動かなかった。
リナンは止まらなかった。
止まるとそこにいる時間が長くなる。
長くなれば、当たっている時間も長くなる。
半歩。
半歩。
しゅと、もう一度鳴った。
動かなかった。
半歩。
リナンが通りきった。
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通りきってからリナンは、膝に手をついた。
息が速い。
さっきよりも速い。
三歩しか進んでいないのに、坂を百歩登ったときと同じ速さだった。
「……通れました」
「通れた」
「厚みが」
リナンはそこで息を吸った。
「厚みがぎりぎりでした」
「測らなかった」
リュカは言った。
「測ってから通すべきだった。俺が通れたから通れると思った」
「……それは」
「俺の背中とお前の背中は厚みが違う」
リュカはそう言った。
「三年、荷と戸口の幅を目で比べてきた。それをやらなかった」
リナンは顔を上げた。
「……怒ってるんですか」
「自分に怒ってる」
リュカはそう言って、坂の上を見た。
「次からは測る」
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「……当たりました」
「当たった」
「動きませんでした」
「動かなかった」
リナンは自分の左の翼を見た。
先がまた少し短くなっていた。
「触っても動かないんですね」
「動かない」
リュカは言った。
「音で動く。触っても動かない」
「……逆じゃないですか」
「逆だ」
リュカはそう言った。
「一つ目は杭で押したら動いた」
「押したら動いて、当たっても動かない」
「押した力が違う」
リュカは、そこで自分の言ったことを疑った。
一つ目は杭の先を縁に当てて押した。
リナンの翼は面に触れただけだ。
力が違うのはそうだ。
だが、それだけだろうか。
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リュカは、通ってきた両脇をもう一度見た。
それから、坂の上を見た。
上には、もう澄んだ音のする場所はなかった。
叩いてみた。
こん。
三歩上を叩いた。
こん。
十歩上までこんだった。
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リュカはそこで座った。
坂の上に腰を下ろした。
内側に足を出さないように、壁側に寄って座った。
リナンも座った。
二人ともしばらく何も言わなかった。
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息の数を思い返した。
途中から数えていなかった。
石を投げたところから数えていない。
リュカはそのことに気づいて、少し落ち着かなくなった。
三年、数えなかったことがなかった。
数えていれば疲れの量が分かる。
分からないままだった。
「リナン」
「はい」
「いくつ数えた」
「……途中でやめました」
「どこで」
「後ろを見たところで」
「俺は石を投げたところでやめた」
リナンは頷いた。
「じゃあ分かりませんね」
「分からない」
リュカはそう言った。
「今日は分からないままにする」
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分からないままにすると決めてからリュカは、数えられるものを数えた。
杭。
布巻きに七本。つがえたままの一本。手に持った曲がった一本。
撃ったのは二本。
一本は真ん中の面と一緒に落ちた。
もう一本は――。
リュカはそこで止まった。
一本しか撃っていない。
撃ったのは真ん中の一本だけだ。
もう一本はつがえたまま持っている。
撃った杭は一本。
落ちた杭も一本。
つまり撃った分は全部落ちた。
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リュカは坂の端に寄って、下を覗いた。
遠かった。
一層目の床は見えない。
そこに七本の折れた杭と十三の骨がある。
その隣にリュカの杭が一本増えたことになる。
鉄芯に木を巻いた杭だ。トトが巻いた。焼ける前からずっと巻き直してきた。
重さを量って、硬いのを十本選んだそのうちの一本だ。
――取りに行けない。
取りに行くにはこの坂を百七十歩ぶん下りて、それから下の坂を二百五十歩ぶん下りることになる。
下りて拾ってまた上がる。
千息以上かかる。
水は三日ぶんの三日目だ。
取りに行けない。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




