壁が動く①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
次の坂は前の坂と同じだった。
幅は人一人ぶん。段はない。外側が壁で内側は何もない。
右へ回りながら上がっていく。
リュカは曲がった杭を手に持って、壁を叩きながら登った。
こん。
一歩。
こん。
一歩。
叩いてから進む。進んでから叩く。
一歩に二息かかる。
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「リュカくん」
「うん」
「数言いますね」
「言え」
「八十二です」
「俺も八十二だ」
合っていた。
リナンの息はまだ速い。速いが数は合っている。
速さは合わせられない。数は合わせられる。
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百を過ぎたころ音が変わった。
こんではなかった。
澄んでいた。高い。
リュカは足を止めた。
もう一度叩いた。
同じだ。
壁の面を見た。
ほんの少し濃い。
板ほどの大きさ。
――二つ目だ。
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リュカはそこで見た。
三年、そうしてきた。
見切り《サク》。目で追うのではなく重心で読む。
溝鼠は跳ぶ前に後肢を寄せる。寄せた足が右なら左へ左なら右へ跳ぶ。三年で五十匹以上仕留めて、同じ動きを五十回見て覚えた。
鎌翼は脚の付け根に重さが載る。右に載れば左へ跳ぶ。目でも首でもない。載っている場所だ。
動くものには動く前がある。
動く前は重心に出る。
リュカは壁の濃いところを見た。
重心がなかった。
板だった。
壁に貼りついた板に重心はない。
肩がない。足がない。首がない。寄せる後肢がない。
――読めない。
三年、いちばん使ってきた技がここでは何も言わなかった。
リュカはそのことをしばらく見ていた。
読めないものは読まない。
読めないなら叩く。
叩いて分かるのは、そこにいるかどうかだけだ。いつ動くかは分からない。
いつ動くかが分からないなら、通るときに動かれる前提で通る。
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リュカは壁から身体を離して、そこを通った。
通るときリナンを内側に入れなかった。内側は落ちる。
代わりに二人で一度に通らなかった。
リュカが先に通って、三歩先で待つ。
それから、リナンが通る。
通りきるまでリュカは、その壁の面を見ていた。
動かなかった。
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百二十歩目で三つ目があった。
百三十一歩目で四つ目。
百三十四歩目で五つ目。
五つ目と六つ目のあいだは、三歩しかなかった。
リュカはそこで足を止めた。
止めて後ろを振り返った。
振り返って数えた。
登ってきた坂で叩いて澄んだ音がした場所。
一層目から二層目までは二百五十歩で三つだった。初めの一つと避けた二つ。
しかも、避けた二つは百八十二歩目と二百四十七歩目だ。終わりの七十歩に二つ入っていた。
二層目からここまでは百三十四歩で六つ。
――増えている。
歩数に対して増えている。
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「リナン」
「はい」
「上にいくほど多い」
リナンは上を見た。
坂が右へ回って、光の薄いところへ消えている。
「……どれくらい多いですか」
「下の坂は八十歩に一つだった。ここは二十二歩に一つだ」
リュカはそう言った。
四倍近い。
坂一つ上がるだけで四倍になる。
このまま同じ増え方をするなら、次の坂は五歩に一つだ。その次は一歩に一つになる。
そのうち壁が全部そうなる。
――そうはならない。壁が全部そうなったら、塔が保たない。
どこかで止まる。どこで止まるかは、行かないと分からない。
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「戻りますか」
リナンが訊いた。
訊き方が静かだった。
責めてもいない。急かしてもいない。訊いただけの声だった。
リュカは考えた。
今日が何日目かはまだ数えられる。
塔に入ったのは旅の十六日目だ。焼けてから四十日目。
入ってから一万息は経っていない。一万息で夜にすると決めてある。夜が来ていないなら、まだ同じ日だ。
日が落ちない場所で日を数えるのは、そういうやり方になった。
水は三日ぶんで、三日目を過ぎている。
戻るなら下りに一日。岩場を戻るのに二日。
三日ぶんの水で三日は戻れない。
「戻れない」
リュカは言った。
「戻る水がない」
「……はい」
「進んでも足りない」
リュカはそこで言い直した。
「だから、足りるほうを選ぶんじゃない」
「じゃあ何を選ぶんですか」
「上に水があるかどうかは、上に行かないと分からない」
リュカは言った。
「下に水がないことはもう分かってる」
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六つ目を通り過ぎた。
その先はなかった。
二十歩歩いてなかった。
三十歩歩いてなかった。
リュカはそこでかえって足を遅くした。
増えていたものが急に途切れる。
三年、荷を担いできて、そういうことに何度か出会った。
朝からずっと荷があった日に昼から一つもなくなる。
そういう日は、たいてい夕方に大きいのが来た。
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四十歩目で音が変わった。
澄んだ音だった。
叩いた場所のすぐ隣も叩いた。
澄んでいた。
その隣も。
澄んでいた。
リュカは杭を止めた。
三つ並んでいる。
板ほどの大きさが三つ隙間なく。
壁の一区画がそのまま、そういうものだった。
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リュカは振り返った。
振り返って今来た道を叩いた。
澄んだ音がした。
三歩下がって叩いた。
澄んでいた。
さっき通ったところだ。
通ったときはこんと鳴った。
鳴ったのを覚えている。
「……後ろも」
リナンが言った。
「後ろもだ」
リュカはそう言った。
「通ったあとに来た」
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どうやって来たのかは分からなかった。
壁の中を移ったのか。剥がれて下りて、また貼りついたのか。
音はしなかった。
剥がれるときは音がする。一つ目は剥がれるとき、風の音がした。
風の音は聞こえなかった。
聞こえなかったのは、聞いていなかったからかもしれない。
登るあいだリュカは、前の壁を叩いていた。
叩く音を自分で立てていた。
――自分の音で聞こえなかった。
リュカはそこで杭を握り直した。
叩けばそこにいるかどうかが分かる。
叩けばその音で後ろが聞こえなくなる。
どちらかしか選べない。
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数えた。
前に四つ。
後ろに三つ。
七つだった。
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リナンが動かなくなった。
声も出さなかった。
リュカが振り返ると、壁に背をつけて立っていた。
翼が半分開いていた。
ミラの布で胸の前で結んで、畳んであったはずの翼だ。
開こうとする力で布が緩んでいる。
「……リナン」
返事がなかった。
リナンは内側を見ていた。何もない側だ。
「リナン」
もう一度呼んだ。
リナンの目が動いた。
「……はい」
「息を吐け」
リナンは息を吐いた。
吐いてから吸ってまた吐いた。
三度で肩の上下が変わった。
「……止めてました」
「止めてた」
「止めてたのに、気づきませんでした」
「翼が開いてる」
リナンは自分の背中に手を回した。
布に触って、緩んでいるのが分かったらしかった。
「……閉めます」
「俺が閉める。手が届かない」
リュカはリナンの後ろに回った。
七つに囲まれた坂の上で布を結び直した。
結び直すのに二十息かかった。
二十息のあいだ七つは動かなかった。
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結び終えてからリュカは、そのことに気づいた。
二十息動かなかった。
二人ともほとんど音を立てなかった。
布を回す音しかしていない。
――動かない。
音を立てなければ動かない。
それはさっき考えたことと同じだった。
同じだが今度は確かめたことになる。
二十息ぶん確かめた。
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一層目の床に折れた杭が七本あった。
全部、鉄だった。全部半ばで折れていた。折れ口が全部同じ向きを向いていた。
七本。
七つ。
偶然かどうかは分からない。
分からないが数が合っている。
あの一人もどこかで七つに会って、七本撃ったのかもしれない。
――七本あって足りなかった。
リュカは九本持っている。
二本多いだけだ。
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リュカは坂の幅を見た。
人一人ぶん。
外側は壁でその壁が七つそうなっている。
内側は何もない。
下がれない。横に逃げられない。
三年、リュカが使える技は三つだった。
沈み《ハウ》。気配を薄くする。
見切り《サク》。目ではなく重心で読む。
退き足。後退しながら防ぐ。
石が一つも要らない技だ。だから、この三つだけを磨いてきた。
ほかの技は石が要る。
石纏は纏う石がない。
放石は投げる石を買えない。
灯し《オル》も、補石も石が要る。
三年、石のない技だけが上手くなった。できることを増やそうとすれば、自然とそうなる。
三つのうち一つは、さっき何も言わなかった。
見切り《サク》。読む重心がなかった。
もう一つはここで使えない。
退き足。後退しながら防ぐ技だ。
後退する場所がない。
残ったのは沈み《ハウ》だけだった。
気配を薄くする技だ。
薄くするとどうなるか。
――音のほうへ行く。
一つ目は、こちらが杭で押したときに動いた。
後ろの三つは、音を立てて登っているあいだに移ってきた。
気配ではない。音だ。
沈み《ハウ》は、気配を薄くする技で音を消す技ではない。
三つのうち三つとも、ここでは足りなかった。
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リュカはそのことを口に出さなかった。
出すとリナンが聞く。聞いてどうにもならないことを言う意味がない。
代わりに数えられるものを数えた。
杭が十本。うち撃てるのは九本。曲がった一本は叩く用だ。
石が二十七個。水袋が三つ。干し魚が四枚。投槍器が一台。
三年、これで足りてきた。
足りてきたのは、相手が一つずつ来たからだ。溝鼠は一匹で来る。鎌翼は一羽で来る。
七つ同時に来るものに、会ったことがなかった。
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リュカは外套の下から投槍器を出した。
木と革でできている。三年、同じ一台だ。革帯が手の形に馴染んでいる。
布巻きを開いて、杭を一本つがえた。
九本のうち一本。
相手は七つ。
一つに一本で足りるなら、九本で足りる。
――足りない。
足りないことは最初から分かっていた。
鎌翼は一羽に三本かかった。翼の骨に当たって一本が折れた。
七つに三本ずつなら二十一本だ。
九本では三つしか落ちない。
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落ちないとは思わなかった。
落とせないと思った。
落とすのではない。
――抜ける。
リュカはそう言い換えた。
言い換えると数が変わった。
全部落とす必要がない。
前の四つのうち通れる幅を空けるだけでいい。
空けるのに、いくつ落とせばいいか。
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リュカは前の四つを見た。
三つは並んでいる。一つはそこから五歩先に離れている。
並んだ三つの真ん中だけを落とせば両脇の二つのあいだに人が一人通る幅ができる。
できるかどうかは分からない。
通るとき両脇が動いたら挟まれる。
――両脇は動かないようにする。
動かないようにする方法をリュカは知らなかった。
知らないので逆から考えた。
動くのはいつだったか。
一つ目は杭で縁を押したときに動いた。
こちらが触ったときだ。
触らなければ動かない。
触っていないのに、後ろの三つは通ったあとに壁に移ってきた。
移るのと落ちてくるのは別だ。
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音だ。
リュカはそう決めた。
根拠は、叩いて登っているあいだに後ろへ増えたという一つだけだ。
一つでは足りない。足りないがほかに材料がなかった。
――間違っていたらそのとき考える。
三年、そうやってきた。ここでは直す機会がないかもしれない。
それでも、決めないと動けない。
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音を立てる道具は売っている。
音石。市で十二シャルド。
目を潰すなら、閃光石。十五。
追い出すなら、煙幕石。十。
三年、一度も買わなかった。
日当が四十で依頼料が五の仕事に十二の石は見合わない。
見合わないから買わなかった。買わなかったから、代わりを覚えた。
リュカは石の袋に手を入れた。
二十七個。
三年ぶんの外れだ。
その中から指で一つ選んだ。
選ぶのに時間はかけなかった。角のあるほうを取った。角があると、当たったときに音が硬い。
それを坂の上へ投げた。
前の四つのいちばん先にある一つ。その手前の壁へ。
からんと鳴った。
音が返ってきた。
塔の中は継ぎ目がない。継ぎ目がないと音が消えない。
三番街の水路で鼠を追い出したときと同じだった。
狭いところでは音がよく響く。
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五歩先の一つが動いた。
壁から剥がれて翼を開いた。
開いて坂の上を横切って、内側へ抜けた。
そのまま下りていった。
リュカはそれを目で追わなかった。
追う代わりに並んだ三つを見ていた。
三つは動かなかった。
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「……音のほうへ行きました」
リナンが言った。
「行った」
「音を追うんですね」
「追う」
リュカは次の石を出した。
「追うなら呼べる」
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「リュカくん」
リナンが言った。
声が少し硬かった。
「音ならわたしのほうが出せます」
リュカはリナンを見た。
リナンは腰の包みに手をかけていた。
布で巻いたものだ。厚く巻いてある。背負うと翼の付け根に当たるので、厚くしてあるのだと言っていた。
弓の形をしているのは、布の上から見て知っていた。片手で抱えられる大きさだ。
ほどいたところは一度も見ていない。
里から一つだけ持ってきたものだと本人が言っていた。
「弦です」
リナンは言った。
ほどかないまま言った。
「弾けば鳴ります。石を投げるより大きい音が出ます。何度でも出せます」
「……何度でも」
「石は投げたら減ります。弦は減りません」
リナンはそう言った。
「切れるまで鳴ります」
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
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