翼と、地面②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
それから四日ほど、たびたび見かけた。
三番街は狭い。同じ場所に住んでいれば、朝と夕方に必ずどこかですれ違う。リナンは乳鉢を抱えて歩いていることが多かった。誰かの使いをしているらしい。
一度目は井戸端だった。
彼女は水を汲む列に並んでいて、順番が来たとき、桶を二つ持とうとして片方を落とした。翼のせいで、体の後ろに手が回らない。
並んでいた女が笑って、片方を持ってやった。
「あんた、いつまでこの街にいるんだい」
「まだ、決めてなくて」
「翼のある子は上にいくもんだと思ってたよ」
悪気はない言い方だった。リナンは曖昧に笑って、それで会話は終わった。
二度目は薬草を干す棚の前だった。
彼女は背伸びをして上の段に手を伸ばしていた。届かない。翼を使えば浮けるはずだが、そうしなかった。台を探して、持ってきて、乗った。
三度目は路地で、鍛冶場の子供とすれ違った。子供が翼を見て、指をさそうとして、母親に手を引かれた。
リナンは気づかないふりをした。
四度目は、雨だった。
三番街は雨に弱い。石畳の継ぎ目から水が上がってきて、低いところに溜まる。水路の蓋が外れている場所は、そこへ流れ込む。
リュカは蓋を戻して回っていた。誰に頼まれたわけでもない。溢れると水路が詰まり、詰まると溝鼠が上がってくる。上がってくれば駆除の依頼が出て、五シャルドになる。
放っておけば稼ぎになるのだが、そうしなかった。
三枚目を戻したところで、リナンが立っていた。
傘を差していない。翼があると傘が使えない。彼女は油紙を頭からかぶって、それでも肩から下は濡れていた。
「濡れてる」
「はい」
「入れよ、どこかに」
「そうします」
だが動かなかった。
彼女は水路のほうを見ていた。リュカが戻した蓋を。
「それ、頼まれたんですか」
「いや」
「じゃあ、なんで」
「詰まると面倒だ」
「……お金は」
「出ない」
リナンは油紙の下から彼を見た。
「損してませんか」
「詰まってから駆除するほうが、稼ぎにはなる」
「じゃあ」
「詰まらないほうがいい」
言ってから、うまく説明できていないと思った。
稼ぎの話ではない。詰まれば井戸に鼠が来る。井戸に来れば病人が出る。病人が出れば薬房が忙しくなる。そこまで考えて蓋を戻しているわけでもない。
ただ、外れている蓋を見ると、戻したくなる。
リナンはしばらく黙っていた。
それから、油紙の端を持ち上げた。
「わたしも、やります」
「濡れるぞ」
「もう濡れてます」
彼女は蓋の端を持った。持ち上げようとして、うまく力が入らない。翼が邪魔で、前屈みになりきれないのだ。
「そっち持て」
リュカは反対側に回った。
二人で持ち上げると、軽かった。
「せーの」
「はい」
四枚目を戻した。五枚目も。六枚目のところで、彼女が言った。
「これ、毎回やってるんですか」
「雨のときは」
「何年」
「三年」
「誰も知らないんですか」
「知ってると思う」
リュカは蓋の位置を合わせた。少しずれていると、水が入る。
「言わないだけだ」
六枚全部を戻したとき、雨が弱くなっていた。
リナンは油紙を絞って、水を落とした。翼から雫が垂れている。畳んだ翼の、外側の羽から。
「拭かないのか」
「あとで」
「風邪ひくぞ」
「翼人は、あんまりひかないです」
彼女は少し笑った。
「軽いから、乾くのも早いんです」
「そうか」
「はい」
二人とも濡れたまま、路地を歩いた。
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五度目は、彼女のほうから声をかけてきた。
「リュカくん、それ、重くないですか」
荷を担いでいるところだった。木箱が二つ。
「重い」
「あの、持ちましょうか」
「いい」
「わたし、力はあるんです。骨が軽いぶん、筋肉が」
「そうか」
「はい」
「でも、いい」
リュカは荷を担ぎ直した。
「これは俺の仕事だ」
リナンは何か言いかけて、やめた。
そして少し離れて、隣を歩いた。
坂を一つ上がったところで、彼女が口を開いた。
「怒りました?」
「怒ってない」
「そうですか」
「仕事だから、他人にやらせると金が減る」
「あ」
リナンは納得したような声を出した。
「そういうことですか」
「そういうことだ」
半分は本当だった。もう半分は違う。
荷を持ってもらえば楽になる。楽になれば、次も頼みたくなる。頼めるようになれば、頼まないと運べなくなる。
――そうなると、困る。
なぜ困るのかは、自分でもうまく説明できなかった。
「じゃあ」
リナンが言った。
「お金がかからないことなら、いいですか」
「たとえば」
「……分かりません。まだ」
「そうか」
「考えておきます」
彼女は真面目な顔で言った。
坂をもう一つ上がって、詰所が見えた。ドランが籠の下に潜っている。いつも通りだ。
「ここまででいい」
「はい」
リナンは足を止めた。
「あの」
「うん」
「重そうでした」
「重い」
「そうですよね」
彼女はそう言って、それから引き返していった。
結局、何も持たせなかった。持たせなくても、隣を歩いた。
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五日目の朝、空き地に彼女がいた。
空き地の隅で、石垣の崩れた面を指でかいていた。
リュカが昨日、掘り返した場所だ。
「なにしてる」
「あ」
リナンが振り返った。指先が土で汚れている。爪の間に入っていた。
「石って、こういうところに、あるんですか」
「たまに」
「探してるの、見たので」
「見てたのか」
「……はい。すみません」
「別に」
リュカは彼女の隣にしゃがんだ。
「そこは昨日やった。出るとしたら、こっち」
崩れた面の下側を指した。
「雨で土が流れると、下に溜まる。上より下」
「へえ」
「あと、乾いてると見えない。濡らすと分かる」
リュカは水筒の水を少し垂らした。土が黒くなる。その中に、光を返す粒が二つあった。
「あ」
「これは石英だ。よくある」
「石じゃないんですか」
「石だけど、宿らない」
「見て分かるんですか」
「分からない。だから拾う」
リュカは自分の袋を出した。からから、と鳴った。
「これが全部、外れだ」
「え」
「宿らなかったやつ」
袋の口を開けて見せた。中で石が重なっている。青、白、灰、赤。二十いくつ。数えていない。
リナンは中を覗き込んで、それから顔を上げた。
「これ、全部?」
「うん」
「……捨てないんですか」
この質問をされたのは、初めてではない。
ヴェスナにも訊かれた。ドランにも。市の連中にも。答え方は決まっている。「そのうち捨てる」と言えばいい。それで会話は終わる。
だがリュカは、なぜか別のことを言った。
「捨てようとした」
「はい」
「置いて、二歩歩いて、戻って、拾った」
リナンは何も言わなかった。
「毎回そうなる」
「……」
「馬鹿だと思うだろ」
彼女は首を横に振った。
それから、しばらく黙って袋の中を見ていた。
朝の光が斜めに入って、袋の口の内側を照らしていた。石が重なっているので、下のほうは影になっている。上に乗っている数個だけが、光を受けていた。
「綺麗ですね」
リュカは指を止めた。
「え」
「その、青いの。あと、そっちの、透けてないけど赤いの」
リナンは袋の中を指した。
「宿らなくても、綺麗です」
リュカは自分の手元を見た。
青い石。十二日前に外れと決めて、一昨日、水路で囮に投げて、拾い直したやつ。
赤い石。地上層の土から出てきた、順番待ちのやつ。
――綺麗だ。
そう思って拾ってきた。物心ついてから、ずっとそうだ。だが誰かに同意されたのは、たぶん初めてだった。
「……うん」
それしか言えなかった。
リナンは自分の指についた土を払って、立ち上がった。
「わたし、使いに行かないと」
「そうか」
「あの」
彼女は一度、言いかけてやめて、それからもう一度口を開いた。
「明日も、ここにいますか」
「朝は毎日いる」
「じゃあ、見に来てもいいですか」
「見て面白いもんじゃない」
「面白いかどうかは、見てから決めます」
また言い切った。
リュカは頷いた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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