装備と、足りぬ金②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
次の日、荷が一つあった。
地上層の受け渡し場で荷を下ろして、バルに訊いた。
「東?」
バルは荷札の印を押す手を止めた。
「受け渡し場から東へ二日歩けば岩場に入る。そこから先は人が住んどらん」
「……水は」
「ない。岩場に入ったら、湧き水は当てにするな」
バルは印を押した。
「三日ぶん持っていけ。二日で着かなかったら引き返せ」
「塔は」
「見たことはない」
バルは木札をリュカに渡した。
「だが、東の岩場の話は昔からある。雲がいちばん低く垂れてるのがあのあたりだ」
「……雲が低い」
「岩場の向こうは雲の中だと言われとる。中に入ったら前が見えん」
バルはリュカの肩の袋を見た。
「灯りは持ってるか」
「……ありません」
「火種石を割って、油に落とすやつが要る。油皿でいい。壊れやすいがな」
「……荷馬車は」
「東へ行く荷馬車はない」
バルはあっさり言った。
「岩場には運ぶものがない。運ぶものがないところへは、馬車は行かん」
「歩くだけですか」
「歩くだけだ」
バルは木札を数えはじめた。
「二人で行くのか」
「……二人です」
「翼の子か」
リュカはバルを見た。
「知ってるんですか」
「荷運びの兄ちゃんが翼の子と一緒にいるって話は、下まで来とる」
バルは木札を数え終えた。
「岩場は風が強い。翼があると煽られる。歩くには向かん」
「……そうですか」
「言っとくが来るなという意味じゃない」
バルは木札を台に置いた。
「風の強い日は、動かんほうがいいという意味だ」
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その晩、受け渡し場の隅でリュカは数を並べた。
覚えるためだ。紙はあるが書けない。
靴。五十。
水袋。三つで七十五から九十。
干し魚。一枚五。三日ぶんで二人なら十枚で五十。
火種石。二で一つ。五つで十。
油皿。いくらか分からない。
杭。五で一本。何本持つかは決めていない。
布。ミラがくれる。
合計で二百は超える。
手元は一枚だった。
数えたものを口の中でもう一度並べた。
靴。水袋。干し魚。火種石。油皿。杭。布。
七つ。
七つのうち布だけがもう手元にある。
六つ足りない。
六つを数で言い直すと二百二十くらいになる。
――物で数えると六つ。金で数えると二百二十。
どちらも同じことのはずだった。
だが、六つと言われるのと二百二十と言われるのとでは重さが違った。
六つならなんとかなりそうに聞こえる。
二百二十はそう聞こえなかった。
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そこにもう一つあった。
リナンの運賃だ。
リュカは荷運びだ。荷を担いでいれば、籠に運賃はかからない。
リナンは荷運びではない。
片道、四百。
――四百。
十日ぶんの日当だ。荷が毎日あった頃で十日。
今は荷が三日に一つあればいいほうだった。
三日で十シャルド。四百まで百二十日。
四か月かかる。
リュカは受け渡し場の天井を見た。
苔の生えた梁。その向こうに岩。その上に雲。
四か月待つあいだに何が変わるのかは、分からなかった。
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次の朝、井戸端で話が回っていた。
リュカが井戸に行くとイサが綱を引く手を止めた。
「坊主。旅に出るんだって?」
「……誰から」
「婆さんが掃きながら言ってたよ」
イサは桶を上げた。
「誰に言うでもなく独り言みたいにね。坊主が旅に出るってさ、って」
リュカは宿のほうを見た。
路地の端に掃いた瓦の山ができていた。
「あの婆さんは、言わないでおこうと思ったことは独り言でも言わないよ」
イサはそう言った。
「言ったってことは言っていいと思ったんだろ」
ネラが水を汲みに来た。
「聞いたよ。塔だって?」
「……はい」
「石を拾いに行くのかい」
「拾えるかは分かりません」
「持って帰ってきたら見せとくれ」
ネラはそう言って、桶を提げて帰っていった。
誰も行くなとは言わなかった。
止める者がいないのは、街が小さくなったからかもしれないと思った。
四十三人だ。
一人が出ていくことを止める余裕が誰にもなかった。
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翌日からリュカは働いた。
荷が来る日は荷を担いだ。一つで十。
荷が来ない日は街の中を動いた。
瓦礫を荷車で運ぶ。右に寄せて積む。ゴドの荷車はよく走った。
瓦礫を運ぶのに、金を出す者はいない。皆自分の家の跡を片づけるので精一杯だった。
一日目は何もなかった。
荷もなく頼まれごともなく瓦礫を運んで終わった。
夜、椀の湯を飲みながら、その日の稼ぎを数えた。
ゼロだった。
ゼロを数えるのは初めてではなかった。三年のあいだ荷のない日は何度もあった。
だが、足りない数が決まっているときのゼロは重かった。
五百九十六が五百九十六のまま、一日過ぎた。
だが、二日目に粉屋のネラが呼んだ。
「石臼を動かしたいんだよ」
焼け残った石臼だった。大人二人でも動かない重さだ。
リュカは荷車の把手を外して、梃子にした。石臼の下に噛ませて、少しずつ浮かせて、板を差し込んで押した。
半日かかった。
ネラは五シャルドを出した。
「これしか出せないよ」
「五でいいです」
一枚が六枚になった。
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三日目、脛に布を巻いていた男が屋根の板を運ぶのを手伝った。
板は焼け残った家から外したものだった。横丁の三本目の誰も住んでいない家。
運ぶ先は男の家の屋根だった。
二人で板を二十枚運んだ。
運び終えて、男が懐から硬貨を出した。
「……三しかない」
「三でいいです」
「悪いな」
男は脛の布を指で押さえた。
「これが治ったら、俺も運ぶ側になる」
九枚。
四日目、荷が一つあった。十。
下の受け渡し場で荷を下ろしたとき、バルが干し魚を二枚くれた。
「……いいんですか」
「うちの分だ。余った」
余ってはいないだろうと思った。
思ったが受け取った。
受け取って頭を下げた。
干し魚は下で買えば一枚四か五だ。二枚で十くらいになる。
だが、もらったものは数に入れないことにした。
入れると稼いだ数が分からなくなる。
十九枚。
五日目柄杓の男の子の祖父が溝鼠を見たと言った。
井戸の裏の焼け残った水路の口から出てくるらしい。
リュカは杭を三本持っていった。
二本で仕留めた。一本は壁で跳ねさせた。乾いていたからだ。
祖父は五シャルドを出した。
「五でいいのかい」
「五です」
三年、そうしてきた。
二十四枚。
――五でいいのか。
帰り道で一度だけそう思った。
溝鼠を仕留めるのは危ない仕事だ。犬くらいの大きさがあって、噛まれれば、指を持っていかれる。
五は安いのかもしれない。
だが、三年、五でやってきた。
今日から十だと言えば祖父は払えない。払えないから頼まなくなる。
頼まなくなれば溝鼠は街に残る。
――値は金の話だけじゃない。
そう思った。
思ったがうまく言葉にできなかった。
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五日目の夜は、焼けてから二十九日目だった。
三十一個目の石が十日目を迎えた。
何も起きなかった。
袋に入れた。二十六個になった。
次の石を次の朝空き地で選んだ。三十二個目。黒くて角の尖ったもの。
――三十二回目だ。
数えてから数えるのをやめた。
数えても増えるだけだった。
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六日目は荷がなかった。
朝から荷車で瓦礫を運んだ。
路地の端の山が一つ増えた。山が増えると路地が広くなる。広くなった路地をヴェスナが掃く。
昼に井戸で水を汲んで、宿の甕に入れた。
夕方に空き地で杭を撃った。四十本。
稼ぎはなかった。
六日目の夜リュカは土間で数を数えた。
二十四枚。
二百二十まであと百九十六。
リナンの四百を入れると、六百二十まであと五百九十六。
――届かない。
この速さでは届かない。
一日に平均して四枚。
五百九十六まで百五十日だった。
半年近くかかる。
半年後に出るのなら、今日決めなくてもいい。
だが、リュカは今日決めていた。
決めたのは二十三日目の朝だ。
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「坊主」
ヴェスナが竈の前から言った。
「何を数えてるんだい」
「……足りないものを」
「いくら足りない」
「五百九十六です」
ヴェスナは柄杓を止めた。
「あんた、それを全部自分で作る気かい」
「……はい」
「何日かかるんだい」
「百五十日です」
ヴェスナは鍋の火を落とした。
それから、土間の隅に座っているリナンのほうをちらりと見た。
「翼の子はどうするんだい」
「……一緒に行きます」
「運賃は」
「四百です」
「あんたが出すのかい」
リュカは答えられなかった。
出すと言えるほどの金がどこにもなかった。
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リナンが立ち上がった。
壁際の包みのところへ行って、しゃがんだ。
縄を解いた。
十字に掛けた片手で解ける結び方。
中から布で巻いたものを出した。
弓の形。片手で抱えられる大きさ。布の端に何度も継ぎが当たっている。
リナンはそれを膝に置いた。
ほどかなかった。
「……これを売ります」
リュカはリナンを見た。
「売れるのか」
「分かりません」
リナンは布の上から指で形をなぞった。
「里から一つだけ持ってきました。売ったことはないので、いくらになるかは知りません」
「……それは」
リュカは言葉を探した。
探して見つからなかった。
傾いた二階から取ってきたとき、リナンは布をほどかなかった。
今もほどいていない。
ほどかないまま、売ると言っている。
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「やめておけ」
ヴェスナが言った。
リナンが顔を上げた。
「売った物は戻ってこないよ」
ヴェスナは、竈の灰をかき寄せながら言った。
「金はまた稼げる。物もまた買える。でも、里から一つだけ持ってきた物は二度と手に入らない」
「……でも」
「あんたが売って、四百になったとするよ。それで籠に乗って、塔に登って、無事に帰ってきたとする」
ヴェスナは手を止めた。
「帰ってきたあんたは、それを持ってないんだよ」
リナンは膝の上の布包みを見た。
しばらく何も言わなかった。
それから、包みを壁際に戻した。
縄は掛け直さなかった。
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七日目リュカは上の荷を担いだ。
アステル区の受け渡し場で荷を下ろしてから第七通りへ歩いた。
看板のない家の石の段。
外套の内側から借りた板を出した。
戸を叩いた。
リナという女が出てきた。
「板を返しに来ました」
女は板を受け取って、帳面を開いた。
何かを書いて閉じた。
「ありがとうございます」
それだけだった。
リュカは頭を下げて、段を下りかけた。
「あの」
女が呼び止めた。
「先生から伝言があります」
リュカは振り返った。
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「『来たらこれを渡せ』と」
女は小さく畳んだ紙を差し出した。
リュカは受け取った。
開いた。
字が三行。
読めない。
「……何と」
「読みましょうか」
「……お願いします」
女は紙を覗き込んだ。
「『石の絵を描くなら、炭ではなく鉛でやれ。線が細くなる。鉛は市の東の文具屋で一本十五。高いと思うなら炭でやれ。炭でも描ける。描かないよりははるかにましだ』」
女は顔を上げた。
「以上です」
リュカは紙を見た。
三行の字がどれが「鉛」でどれが「十五」なのかも分からない。
分からないまま畳んだ。
「……先生は」
「奥にいます。取り次ぎましょうか」
リュカは少し考えた。
「いえ」
「そうですか」
女は戸に手をかけた。
「先生は、取り次がなくていいと言う人のほうが覚えがいいです」
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帰りの籠でリュカは紙を握っていた。
三行。
鉛は十五。
靴が五十で水袋が三つで九十。
その上に十五を足すのかどうか。
足せば絵が細くなる。
足さなくても絵は描ける。炭でも描ける。
描かないよりははるかにましだ。
――そう書いてあった。
書いてあったことをリュカは、読めなかった。
読めない紙が二枚になった。
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七日目の夜トトが宿の土間に来た。
鎚を持っていた。焼けた柄を削り直して、新しい木を嵌めたものだ。
「杭何本持ってく」
「……決めてない」
「四十本は担げねえぞ」
トトは椀を受け取りながら言った。
「四十本でどれくらいの重さか分かってるか」
「分かる」
「言ってみろ」
「五貫と少し」
トトは少しだけ驚いた顔をした。
「……量ったのか」
「荷と比べた。五貫の荷と同じくらいだ」
「五貫を担いで、塔の階を何百も上がるのか」
リュカは答えなかった。
答えられなかった。
「十本だ」
トトは言った。
「十本にしとけ。俺がいちばん硬いやつを選んでやる」
「……十本で足りるか」
「足りるかは行ってみなきゃ分からねえ」
トトは椀の湯を飲んだ。
「だが、四十本担いで登れねえのは行く前から分かる」
「……残りの三十本は」
「置いてけ。俺が預かる」
トトは鎚を膝に置いた。
「鍛冶場に置いとく。炉の脇の石の箱だ。あそこは焼けなかった」
ザヴの帳簿の紙が入っていた箱だった。
「……戻らなかったら」
「そのときは俺が使う」
トトはそう言った。
言ってから椀に顔を戻した。
「使わねえよたぶん。俺は撃たねえからな」
「……じゃあなんで預かるんだ」
「預かったものは、返すまで預かったもんだ」
トトは椀の底を見ていた。
「返す相手がいなくなったら、ただの三十本だ。そうなるのは面倒くせえ」
リュカは頷いた。
分かることから決めるしかなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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