装備と、足りぬ金①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
焼けてから二十三日目の朝リュカは空き地で杭を撃ちながら、行くと決めた。
決めたというより決まっていたことに気づいた。
二十歩。三十五歩。五十歩。
撃ちながら、考えていたのは水のことだった。
塔に登るなら水が要る。
ザッハが言っていた。あそこで人を殺すのは仕掛けじゃない。自分の脚だ。
脚が止まるのは水がなくなるからだ。
三年、荷を担いで坂を上り下りしてきた。水筒の水が切れた日のことも何度かある。切れると足が重くなる。重くなると歩幅が縮む。歩幅が縮むと歩数が合わなくなる。
登るのは坂よりきつい。
どれくらい要るのかは分からない。
分からないものをどうやって用意するのか。
――訊くしかない。
杭を四十本拾って袋に戻した。
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土間に戻ると、リナンが竈の前で湯を沸かしていた。
ヴェスナは外で路地を掃いている。焦げた箒の音が戸口のない戸口から入ってくる。
「リナン」
「はい」
「行く」
リナンは湯から目を離さなかった。
しばらくして頷いた。
「……はい」
「どこへって訊かないのか」
「塔ですよね」
リュカは言葉に詰まった。
「聞いてたのか」
「セイルが毎晩言ってます。門だ二つって」
リナンは柄杓で湯をすくった。
「あとリュカくんが東の空を見る回数が増えました」
リュカは東の空を見た。
摩天楼の腹と上の街の底板のあいだの細い空。
見ている自覚はなかった。
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「……ついてくるのか」
訊いた。
訊いてから訊き方が悪かったと思った。
リナンは湯を椀に注いだ。
「行きます」
「危ない」
「はい」
「戻ってこられないかもしれない」
「はい」
リナンは椀をリュカの前に置いた。
「リュカくんも同じですよね」
リュカは椀を受け取った。
熱かった。
「……理由は」
「言わないでおきます」
リナンはそう言って竈に戻った。
毛布の脇の壁際に包みが置いてある。
十二日目からずっとそこにある。
リュカはそれを見た。
中身は訊いたことがない。
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外へ出ると、ヴェスナが路地を掃いていた。
右から左へ。一度に同じだけ。
「婆さん」
「なんだい」
「旅に出ます」
箒が止まらなかった。
掃いたままヴェスナは言った。
「どこへ」
「雲の上の塔です」
「……そうかい」
ヴェスナは、焦げた瓦の破片を路地の端に寄せた。
「いつ出るんだい」
「決まってません」
「決まってないのに、出るって言うのかい」
「……はい」
ヴェスナはそこで初めて、箒を止めた。
リュカのほうは見なかった。
「三十年で何人も見たよ。雲の上の話をする子をね」
「はい」
「行った子は、たいてい出る日を先に決めてたよ」
「……決めたほうがいいですか」
「知らないよ」
ヴェスナはまた掃きはじめた。
「決めた子も、決めなかった子も戻ってこなかったからね」
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その日、リュカは要るものを数えはじめた。
数えるものがはっきりしていないと、数えられない。
だから、まず訊いて回った。
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トトは、鍛冶場の焼け跡で鞴の革を張り直していた。
「登るのに何が要る」
トトは革から手を離さずに言った。
「靴だ」
「靴」
「お前のそれ底が反り返ってるだろ。焼けたときに」
リュカは自分の足を見た。
靴の底は焦げて、先のほうが上を向いている。
「坂を上り下りするだけならまだ持つ。塔の階を何百も上がるなら、底が抜ける」
「……抜けたら」
「裸足だ。裸足で石の階を登ると、足の裏が先になくなる」
トトは革を張る手を止めた。
「靴は下の市で五十くらいする。革の厚いやつだ」
「五十」
「親方が生きてりゃ底だけ張り替えられたけどな。鞴がないから膠が煮られねえ」
トトは鞴を叩いた。
「これが直ったら炉が焚ける。炉が焚けたら膠も煮られる」
「いつ直る」
「革が足りねえ」
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イサは井戸端にいた。
「水かい」
「はい」
「水は入れ物だよ。何に入れるかで持てる量が決まる」
イサは井戸の縁に腰を下ろした。
「うちに革の水袋があったけどね。焼けた」
「……」
「下の市なら売ってる。大きいので三十小さいので十五くらいだったかね」
「三十」
「一つじゃ足りないよ。二人なら二つ。登るなら三つ」
イサは指を三本立てた。
「三つで七十五から九十」
リュカは頷いた。
数が増えていく。
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ミラは、イサの家の奥の部屋で記録の束を開いていた。
「持っていくもの?」
「はい」
「布。多めに」
ミラは即答した。
「切ったところを縛る布。汗を拭く布。日を避ける布。布は何にでもなる。かさばらないし重くない」
「……薬は」
「薬は持っていっても、たいてい使い方を間違える」
ミラは束の紐を結び直した。
「そのぶん布を持って。血が止まらないときは、押さえるだけでだいぶ違う」
「布はいくらですか」
「古いのでいいならうちにある。母親の薬を包んでた布」
ミラは少しのあいだ黙った。
「焼けたのは棚で床下のは残ったの。持っていきなさい」
「……いくらですか」
「要らない」
ミラはリュカを見た。
「代わりに行った先で見たものを覚えてきて。石でも苔でも、水の出るところでも」
「……覚えるだけでいいんですか」
「覚えるのは、あなたの得意なことでしょう」
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ヴェスナは、宿の土間で鍋を火にかけていた。
「食う物かい」
「はい」
「歩くなら干した物だね。干し魚と干した豆。パンは二日でだめになる」
「……干し魚は」
「下で買えば一枚五くらいだろ。豆はうちにはないよ」
ヴェスナは柄杓で湯をかき回した。
「何日ぶん持っていくんだい」
「……分かりません」
「分からないなら多いほうにしな」
ヴェスナはそう言った。
「足りない旅で戻ってきた者をあたしは知らないよ」
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夕方詰所へ上がった。
ドランは、籠の下から這い出してきたところだった。
「荷はないぞ」
「荷じゃなくて」
リュカはそこで一度息を吸った。
「……旅に出ます」
ドランは工具箱の蓋に手をかけたまま、動きを止めた。
それから蓋を閉めた。
「どこへ」
「雲の上の塔です」
「行き方は」
「分かりません」
ドランはリュカの顔を見た。
「分からんのに出るのか」
「分からないので訊きに来ました」
ドランは鼻から息を吐いた。
笑ったのかもしれなかった。
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「雲の上には上がれん」
ドランは言った。
「籠は上と下にしか動かん。横へは行かん」
「はい」
「塔は雲の上に頭を出してる。だが根元は雲の下だ」
「……根元は地上層ですか」
「たぶんな」
ドランは籠の綱を掌で叩いた。
「俺は行ったことがない。だが、雲の下に根元があるなら、地上層のどこかから歩いて行ける」
「歩いて」
「歩くか荷馬車だ。ほかに乗り物はない」
ドランはそこで一度間を置いた。
「地上層のことはバルに訊け。あいつは岩の中にいる」
リュカは頷いた。
それから、もう一つ訊いた。
「……連れが一人います」
「翼の子だろう」
「知ってるんですか」
「この街で知らんやつがいるか」
ドランは工具箱を足で引き寄せた。
「連れは荷じゃない。運賃が要る」
「四百ですか」
「四百だ」
「……まけられませんか」
言ってからリュカは自分で驚いた。
値切ったのは二度目だった。
ドランは、少しのあいだリュカを見ていた。
「まけると次に乗るやつにも、まけることになる」
「……はい」
「まけたぶんは油と石になる。油と石が減れば籠が止まる。籠が止まれば、この街に何も入らん」
ドランは工具箱の蓋を開けた。
「だからまけん」
「……はい」
「悪いな」
ドランはそう言った。
三年、この男から悪いなと言われたのは初めてだった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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