紙と、無価値②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
外へ出ると、灯柱が昼の光の中で点いていた。
リュカは段の凹みを一度だけ見た。
それから、受け渡し場へ歩いた。
懐には一枚。
手には二枚の紙。
一枚は字を写した紙。
もう一枚は五で買った白い紙。
外套の内側にはもう一枚。
該当なしと書いてある紙。
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受け渡し場へ戻る途中で灯柱の男に会った。
三百本のうちのどこかを回っている途中だった。
「行かれましたか」
「行きました」
「……どうでした」
「該当なしと言われました」
男は台座に手を置いたまま頷いた。
「石ですか」
「二十五個、全部です」
「そうですか」
男は唱えた。
光が少し強くなった。
それから、リュカを見た。
「あの方は読めない字のことを何か」
「見たことはあると」
男の指が台座の字の上で少しだけ止まった。
「……二十年前あの方は、間違えていましたと言いに来ました」
「はい」
「そのとき、こうも言いました。読めない字は、読めないと言うほうが値が下がらないと」
男は指を離した。
「意味は今も分かりません」
リュカは頷いた。
分かる気がしたが言葉にはならなかった。
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籠を待つあいだ白い紙を広げてみた。
何も書いていない。
書けない。
だが、描けるかもしれなかった。
石の輪郭。断面。筋。欠け。
あの絵は字を知らなくても読めた。
――二十五個、描くのか。
考えてすぐにそうではないと思った。
描くのはこれから拾う石だ。
二十五個は覚えている。覚えているものはまだ消えない。
消えるのは自分が死んだときだ。
そのときにはどうせ全部消える。
これから拾うものを描く。
描いておけば自分が忘れても、紙が覚えている。
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夕方の籠で三番街へ下りた。
土間で三枚の紙を広げた。
ヴェスナが覗き込んだ。
「……増えたね」
「増えました」
「どれが何だい」
「これが写した字。これが白い紙。これが」
リュカは三枚目を指した。
「石の紙です」
「石の?」
「二十五個、全部値がつかないって書いてあります」
ヴェスナは紙を見た。
それから、リュカを見た。
「……そんなもんに金を払ったのかい」
「見料が十でした」
「十シャルド」
「はい」
ヴェスナは鼻から息を吐いた。
それから竈に戻った。
「十シャルドで無価値だって教えてもらったんだね」
「……はい」
「安いのか高いのか分からないね」
ヴェスナは鍋に湯を足した。
「三十年前にねこの街にも、石を見る男が来たことがあるよ」
リュカは顔を上げた。
「見料を取って、路地の端で店を広げてね。みんな拾ったのを持っていった」
「……値がつきましたか」
「一つもつかなかった」
ヴェスナは柄杓で鍋をかき回した。
「三日でいなくなったよ。見料だけ持ってね」
「……その人は本物でしたか」
「知らないよ。本物かどうかを見る目がこっちにないんだから」
ヴェスナは、リュカの持っている紙を顎で示した。
「その紙があるだけ今日のほうがましだね」
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トトが椀を持って寄ってきた。
「……紙三枚も持ってんのか」
「三枚」
「金物より高いな」
「一枚、五だ」
「杭が一本買える」
トトは鑑定書を覗き込んだ。
「これなんて書いてあるんだ」
「該当なし。無価値」
「……それだけ?」
「それだけ」
トトはしばらく紙を見ていた。
「俺の巻いた杭も無価値かな」
「なんで」
「売れねえだろ巻き直しただけの杭は」
トトは椀の湯を飲んだ。
「でも、六百八十三本で一本しか折れてねえ」
「うん」
「それはどっかに書いといてほしいな」
リュカは白い紙を見た。
書くとしたらあの紙だった。
だが、あの紙は石のために買った紙だった。
ミラが土間に来て紙を見た。
三枚のうち鑑定書だけを長いこと見ていた。
「……これ読めるわ」
リュカは顔を上げた。
「読めるんですか」
「今の字だもの。写しの字とは違う」
ミラは指で行をたどった。
「石、二十五。すべて等級外。市場価値なし。以上」
「……以上」
「以上で終わってる」
ミラは紙を台に置いた。
「これを書いた人は、余計なことを書かない人ね」
「そう言ってました。書いてあることが少ないのは、値がないからだって」
ミラは少しのあいだ紙を見ていた。
「……私の母親の帳面は、効かなかった薬ほど長く書いてあった」
「はい」
「値がないものほど長く書く人もいるのよ」
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リナンが梁の下から来て、三枚の紙を見た。
「……どれがどれですか」
リュカは順に指した。
字を写した紙。白い紙。石の紙。
リナンは、白い紙をいちばん長く見ていた。
「何も書いてないですね」
「まだ書いてない」
「何を書くんですか」
「石の絵」
リナンは顔を上げた。
「絵描けるんですか」
「分からない」
「……分からないのに買ったんですか」
「五で」
リナンは少しだけ笑った。
「わたしも縫えるか分からないまま、針を買ったことがあります」
「縫えたのか」
「縫えました。里の年寄りが手を持って教えてくれたので」
リナンは白い紙の端を指で押さえた。
「教えてくれる人がいれば、たいていのことはできるようになります」
リュカは紙を見た。
石の絵を教えてくれる人は、上の街にいる。一言も喋らない人だ。
教わるにはたぶん金が要る。
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夜、屋根裏で白い紙を膝に置いた。
炭はまだ半分ある。
シャツの胸から三十一個目を出した。
小さくて端が少し透ける石。三日目。
暗がりでは色が分からない。
明日、明るいところで描こうと思った。
紙は一枚しかない。失敗すればそれで終わりだ。
――失敗しても描く。
覚えているうちに描く。
紙は一枚で五シャルドだった。
手元には一枚しかない。硬貨のほうだ。
足りないものを数えた。
行き方。金。装備。読めない字。
四つとも減っていなかった。
だが紙が一枚増えた。
石の袋の中身は無価値だと分かった。
分かったことは減ったのではない。
――分かったことは増えた。
紙のことをもう一度考えた。
紙は五。石の紙は見料の中で出してもらった。写した紙はミラにもらった。
三枚とも自分で作れないものだった。
三番街で作れるものは、もうほとんどない。
水は井戸から出る。火は火種石が要る。パンは上か下から来る。杭は下の市から。紙は上から。
作れるのは、瓦礫を片づけることと穴を掘ることだけだった。
――掘るのはまだできる。
掘って拾って描く。
描いたものが値になるかどうかは、コルベルの言うとおり別の話だ。
リュカは、白い紙を板と一緒に枕の脇に置いた。
下の土間でセイルが今日の音を繰り返していた。
コルベルの声で。
「該当なし」
それから、少し間があって。
「無価値だ」
リュカはそれを聞きながら、目を閉じた。
聞いても、昼ほどには喉が狭くならなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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