紙と、無価値①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
焼けてから二十二日目の朝四十本を撃った。
二十歩。三十五歩。五十歩。
拾って数えて袋に戻した。四十本。
それから、空き地の土を掘った。
掘りながら、昨夜のことを考えていた。
板に丸を三つ描いた。リ、ュ、カ。三つの音に三つの丸。
朝の光で見ると、丸は三つとも大きさが違っていた。
描いたときは、同じ大きさのつもりだった。
――覚えてるのと描くのは違う。
石の形は覚えている。覚えているものを描けるかどうかは、やってみたことがなかった。
土の中から何も出なかった。
三十一個目はまだ胸にある。三日目。
選ぶ日ではない。
詰所へ上がった。
ドランが硬貨を数えて、リュカの掌に載せた。
十枚。
「二つぶんだ。上と下の商会が両方とも受け取った」
「……二つで十ですか」
「下の荷は九貫だ。軽い荷はまけろと言われた」
ドランはそこで一度鼻から息を吐いた。
「上の荷の十と下の荷の七で十七だと言ってきた。二つで十五に値切られかけて、十にさせた」
リュカは掌の十枚を見た。
「……それドランさんの取り分は」
「俺の取り分は荷にかかる運賃だ。お前の日当とは別の財布だ」
リュカは掌の硬貨を見た。
六枚と合わせて十六枚。
「……ありがとうございます」
「礼はいい」
ドランは工具箱の蓋を閉めた。
「今日も上の荷がある。昼の籠だ」
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十六枚で何ができるのかをリュカは知らない。
パンなら下で五つ。上で二つ。
杭なら三本。
火種石なら八つ。
鑑定はいくらなのかを知らない。
灯柱の男は、「取ります」としか言わなかった。いくらかは、頼んだことがないから知らないと。
――足りなければ帰る。
それだけのことだった。
足りなくて帰るのは、恥ずかしいことではない。
そう思おうとした。
下の市で杭一本を値切って断られた日のことを思い出さないようにした。
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昼の籠に乗る前に袋を確かめた。
二十五個。
持っていくかどうか迷っていた。
石を見てもらうつもりは、もともとなかった。写した紙を見せるつもりだった。
だが、鑑定所というのは石を見る場所だ。
三年、一度も持っていったことがない。
――外れた石を二十五個。
誰かに見せるようなものではないと思っていた。
思っていたが袋を肩に掛けた。
どうせいつも掛けている。
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昼の籠は上の商会の荷を積んでいた。
十二貫。布で包んだ角のあるもの。中身は訊かない。
籠が上がるあいだリュカは、荷の縄の結び目を見ていた。
片手で解ける結び方だ。自分で考えた結び方だった。
誰にも習っていない。ドランは、積み方は教えたが結び方は教えなかった。
ヴェスナがリナンに言ったらしい。坊主も、あの結び方は誰にも習ってないよと。
リナンがそれを真似て、壁際の包みを縛っている。
包みはまだ土間の毛布の脇にある。
どこへ行くのかをリナンは訊かない。
リュカも訊かない。
アステル区の受け渡し場で荷を下ろした。
灯柱は今日も消えていない。
台座の前を通るとき、少しだけ足が遅くなった。
字は昨日と同じ形でそこにあった。
白い衣の男の姿は見えなかった。三百本をどこかで回っているのだろう。
リュカは第七通りへ歩いた。
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看板のない家は、昨日と同じ場所にあった。
石の段が一段。真ん中が深く凹んでいる。
戸は閉まっていた。
戸の前に人が一人立っていた。
年配の女だった。上の街の服だが裾が擦り切れている。
手に布の包みを持っていた。掌に載るくらいの大きさ。
リュカは少し離れて立った。
しばらくして、戸が開いた。
中から黒い上衣の若い女が出てきて、包みの女に何か言った。
包みの女は頷いて、包みを胸に抱えたまま、段を下りた。
リュカの横を通るとき、独り言のように言った。
「……もう一回掘り直そうかね」
リュカは振り返った。
女は第七通りを来たほうへ歩いていった。
包みは開かれないまま、女の胸にあった。
リュカは段の前に立った。
外套の内側から板に挟んだ紙を出した。
挟み直してまた内側に入れた。
それから戸を叩いた。
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返事はすぐだった。
戸が開いて若い女が立っていた。
黒い上衣。襟のところに小さな飾りが一つ。
三番街では見ない服だった。
「ご用件は」
「……字を見てもらいたくて」
「持ち込みですね。順番に伺います。お名前を」
「……リュカです」
「姓は」
リュカは少しのあいだ止まった。
「ルスールス」
「リュカ゠ルスールス様」
女は手元の帳面に何かを書いた。
紙に自分の名前が書かれた。
初めてだった。
どんな形なのかは見えなかった。
女は帳面を閉じた。
「はじめての方ですね」
「……はい」
「三番街の方ですか」
「分かるんですか」
「靴です」
女はリュカの足元を見た。
「焦げた靴の方はみなさん三番街です。焼けてから何人か来られました」
「……何人か」
「七人です」
女はそう言って、戸を大きく開けた。
リュカは焦げた靴を見た。
段の凹みに煤がつくかもしれなかった。
靴底を石の段の端で二度こすってから入った。
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中は静かだった。
部屋が二つ。手前の部屋に椅子が三つと低い台が一つ。
奥の部屋との境に布が下がっていた。
壁際に棚があった。ザッハの棚とは違う棚だった。
同じ高さに同じ大きさの箱が並んでいて、箱には札が貼ってある。札の字は読めない。
埃がなかった。
「お掛けください」
女が言った。
「見料は先にいただきます」
「……いくらですか」
「一件、十」
リュカは懐から十枚を出した。
一枚ずつ台の上に置いた。
女は数えなかった。見ただけで頷いた。
十六枚が六枚になった。
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布がめくれた。
男が出てきた。
五十を少し過ぎたくらいに見えた。髪は短く白いものが混じっている。上衣は女と同じ黒。
目が動かなかった。
部屋に入ってきて、椅子に座るまでのあいだ一度もリュカを見なかった。
座ってから初めて見た。
「一件十で受けた分だ」
男は言った。
「順に見る。先に言っておくが私は見たものしか言わない」
「……はい」
「見て分からないものは、分からないと言う。分からないものをそれらしく言うのがいちばん高くつく」
男は台に手を置いた。
「コルベルという。先生と呼ばれている」
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リュカは板に挟んだ紙を出した。
台の上に置いた。
コルベルは紙を見た。
顔を近づけなかった。座ったまま目だけを動かした。
「……写しだな」
「はい」
「原本は」
「下の市の古い本です」
「持ち主は」
「爺さんが一人」
「売る気は」
「ないそうです」
コルベルは指を一本立てた。
「規則を言う。うちは写しを鑑定しない」
「……写しは」
「写しは写した者の手が入る。太さ間、傾き。全部写した者のものだ。鑑定するのは原本だけだ」
リュカは台の上の紙を見た。
炭は太かった。細い線は引けなかった。
男の言うとおりだった。
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「だが」
コルベルはそう続けた。
「見料はもう受け取っている」
男は台の上の紙に初めて指を伸ばした。
触れなかった。指先を紙から少し浮かせたまま、行の上を動かした。
「この字を見たことはある」
リュカは顔を上げた。
「……読めるんですか」
「読めない」
コルベルはあっさり言った。
「見たことがあると言った。読めるとは言っていない」
男は指を引いた。
「どこで見たかも言わない。うちの仕事は、見たものに値をつけることだ。どこで見たかを話すのは、値をつける仕事ではない」
「……」
「知りたければ依頼になる。依頼は見料とは別だ」
「いくらですか」
「七百」
リュカは口を閉じた。
七百。
片道の運賃が四百だ。
荷を七十回運んで、やっと届く額だった。
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「払えないならそれでいい」
コルベルはそう言った。
責める声ではなかった。値を言っただけの声だった。
「払えないものを値切らせるのは、うちの規則にない」
リュカは頷いた。
下の市の金物の台のことをまた思い出した。
あのときは、一シャルドを値切って断られた。
今日は七百だ。
値切るという言葉すら頭に浮かばなかった。
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「ほかにあるか」
コルベルが訊いた。
「……え」
「一件、十だ。見るのは一件だが一件の中に何を入れるかは、持ち込んだ者が決める」
男は台を指で叩いた。
「写しは鑑定しない。だから、まだ一件見ていないことになる」
リュカは肩の袋に手をやった。
三年、誰にも見せたことのない袋だった。
紐を解いた。
台の上に石を空けた。
からからと鳴った。
二十五個。
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コルベルの目が初めて、少しだけ動いた。
「……袋ごとか」
「二十五個です」
「全部自分で拾ったのか」
「はい」
「どこで」
「空き地です。三番街のいちばん西の」
コルベルは石を見た。
指で一つを転がした。
それからもう一つ。
早かった。
一つに二つ数えるくらいしかかけなかった。
転がして脇へ寄せる。転がして脇へ寄せる。
手の動きに迷いがなかった。
リュカは見ていた。
三年、自分で拾って、自分で十日ずつ試してきた石だ。一つにつき十日かけた。二十五個で二百五十日。
その二百五十日ぶんが目の前で二つ数えるごとに脇へ寄せられていく。
早いとは思わなかった。
――見えてるんだ。
自分には十日かかることがこの人には、二つ数えるあいだに分かる。
石を見る技があるとは聞いたことがあった。鑑石を持つ者の技だ。
目の前で見たのは初めてだった。
二十五個が脇へ寄せられるまでに五十も数えなかった。
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「該当なし」
コルベルは言った。
二十五個の山を指で二つに分けた。
「こちらの十九個はただの石だ。硬さも、重さもそのへんの砂利と変わらん」
「……はい」
「こちらの六個は石には近い。近いだけだ。中の詰まり方が違う」
男は六個のほうを指で押した。
「昔はこういうものを『殻』と呼んだ。中身が抜けた石だ」
「抜けた」
「もともと何か入っていたのか初めから空だったのかは分からん。分からんものは分からんと言う」
コルベルは指を引いた。
「どちらにしても等級はつかない」
「……全部ですか」
「全部だ」
男は台の上の石を手の甲で少しだけ押した。
「まず言葉を教える。鑑定で『該当なし』というのは、等級のどれにも当たらないという意味だ。上から下までどの等級にも当たらない」
「……つまり」
「無価値だ」
男は言い直した。
「市場で値がつかない。買い手がいない。うちの帳面にも載らない」
リュカは台の上の二十五個を見た。
三年、掘って拾って、十日ずつ胸に入れて、外れて袋に戻したものだ。
二十五個。
全部無価値だった。
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それは知っていた。
宿らない石に値はつかない。三年、宿らなかった。
だから知っていた。
知っていたが人に言われたのは、初めてだった。
――言われると違うな。
喉の奥が少し狭くなった。
顔には出さなかった。
出さなかったつもりだった。
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「顔に出ている」
コルベルが言った。
「……出てません」
「出ている。二十五個全部に出た」
男は椅子の背にもたれた。
「言っておくが私はお前を責めていない。石に値がないと言った。お前に値がないとは言っていない」
「……はい」
「だが、その二つを分けられない者は多い。分けられないまま、石を売って、値がつかなくて泣く」
コルベルは、台の上の石を一つ摘まみ上げた。
白っぽくて丸い片面に細い筋の入った石だった。
胸にある三十一個目と似ていた。
「これはどこで」
「……去年の雨のあとです」
「筋が入っている」
「はい」
「筋の入った石を何個持っている」
「袋の中には三個です」
「袋の外には」
「……一つ胸に入れてます。今試してる石です」
「出さんでいい」
コルベルはあっさり言った。
「試している石は見ない。十日待っている途中のものを見ると、待っている者の目が変わる」
コルベルの目がまた少しだけ動いた。
---
「三年で三個か」
「はい」
「同じ場所で拾ったか」
「二個は同じ場所です。一個は少し離れた場所で」
「離れたというのは」
「石垣の崩れた面の下とその三歩東です」
コルベルは指で台を二度叩いた。
「三歩」
「……はい」
「歩幅は」
リュカは答えに詰まった。
歩幅を訊かれたのは初めてだった。
「……荷を担いでいないときでこれくらいです」
リュカは椅子から立って、一歩踏んでみせた。
コルベルはそれを見た。
「座れ」
リュカは座った。
---
「お前は記録をつけているか」
「……つけてません」
「覚えているのか」
「覚えてます」
「二十五個、全部か」
「全部です」
コルベルは、台の上の石を手の甲でまとめた。
「一つ当ててみろ。私が指した石がどこでいつ拾ったものか」
男は山の中から角の取れた灰色の石を一つ指で押し出した。
リュカは見た。
「二年前の冬です。空き地の北の端。土が凍ってて、掘るのに時間がかかりました」
コルベルは別の石を押し出した。
青みのある小さな石。
「……十二日ほど前です」
リュカは言った。
「いえ。焼けてから二十二日目なので、もっと前です。十日試して、外れて袋に入れました。拾ったのはその十日前で」
自分で言って、途中で分からなくなった。
「……数え直します」
「要らん」
コルベルは石を戻した。
それから、少しのあいだ何も言わなかった。
リュカは待った。
待つのは得意だった。
「……お前数えるのが好きか」
「好きかは分かりません」
「数えるだろう」
「数えます」
「何を」
「杭と歩数と日当と石です」
リュカは言った。
「あと人を一度だけ」
コルベルの目がまた少し動いた。
「人を」
「街に何人いるか。焼けたので」
「何人いた」
「四十九人です」
コルベルは頷いた。
頷いただけだった。数については何も言わなかった。
---
「記録は紙に書いたものだけではない」
男は言った。
「頭の中にあるものも記録だ。ただし頭の中の記録には値がつかない」
「……値」
「売れない。譲れない。お前が死ねば消える」
コルベルは、台の上の石を袋のほうへ押しやった。
「紙に書けば値がつく。誰がいつどこで拾ったか。それを書いた紙は石と一緒に売れる」
「……石に値がなくてもですか」
「石に値がなくても、記録には値がつくことがある」
男はそこで初めて、口の端を少しだけ動かした。
「二十五個全部無価値の石の記録に値がつくかどうかは、別の話だがな」
---
リュカは石を袋に戻した。
一つずつ。
二十五個。
戻し終えて紐を締めた。
「……あの」
「なんだ」
「紙はどこで買えますか」
コルベルはリュカを見た。
今度は少し長く見た。
「書けるのか」
「書けません」
「字が読めないのに、記録をつけるのか」
「……絵なら描けるかもしれません」
リュカは言った。
「形は覚えてるので」
コルベルはまた少しのあいだ黙った。
それから、奥の布のほうへ顎を向けた。
「ウェル」
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布がめくれた。
若い男が出てきた。三十を過ぎたくらい。上衣は黒。手に紙を挟んだ板を持っている。
一度も口を開かなかった。
コルベルが言った。
「この者に見せてやれ」
男はリュカに会釈をした。
リュカも返した。
男は袋の口から石を一つ抜き出した。
さっきコルベルが押し出した角の取れた灰色の石だった。
掌に載せて指で包んだ。
包んだまま、少しのあいだ動かなかった。
それから、石を台に置いて、板をその脇に置いた。
紙が挟んである。
紙には字ではないものが描いてあった。
石の絵だった。
輪郭。断面。表面の筋。欠けたところ。
その脇に字が並んでいる。
字は読めない。
だが絵は読めた。
――同じ石だ。
さっきコルベルが押し出した角の取れた灰色の石。あれを描いたものだと分かった。
今、握っていたあいだに描いたことになる。
炭も筆も持っていなかった。
リュカは絵の脇の字を見た。
この字は読めない。だが、写した字とは違う形だった。今の字だ。ミラの書く字に似ている。
字と絵が同じ紙の上に並んでいる。
絵のほうだけがこちらに届いた。
――絵は字より遠くまで届く。
読めない者にも届く。
---
「触れたものを紙に写す」
コルベルが言った。
「石を見て絵を描く。そこに聞き取ったことを書き足す。それで、一件の記録になる」
リュカは絵を見ていた。
断面の線が細かった。炭ではない。もっと細いもので描いてある。
「……これはいくらですか」
「紙か。記録か」
「……両方」
「紙は一枚で五。記録はうちが取れば一件で三十」
リュカは懐に手を当てた。
六枚。
紙が一枚。
---
「一枚ください」
リュカは言った。
「五でいい」
コルベルは女のほうを見た。
女が棚から紙を一枚出して、台に置いた。
リュカは五枚を置いた。
六枚が一枚になった。
女が紙を薄い板に挟んで、渡してくれた。
板は要らないと言おうとした。
「板は貸し出しです」
女が先に言った。
「返しに来られない方が多いので、規則では板ごと五です」
「……じゃあ十ですか」
「五で結構です。板は返しに来てください」
女は帳面に何かを書いた。
たぶん板を貸したと書いたのだろう。
紙に書けば残る。
返しに来なければ、紙に残ったままになる。
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「もう一つ規則を言う」
コルベルは立ち上がりながら言った。
「うちは見た結果を紙にする。『該当なし』も結果だ」
「……はい」
「書付が要るなら出す。発行は五だ」
リュカは懐の一枚を見た。
一枚しかない。
書付が五。
払えばなくなる。
「……要りません」
そう言った。
「無価値だと分かったので」
コルベルはリュカを見た。
それから、女のほうを向いた。
「リナ。出してやれ」
女が顔を上げた。
「規則では」
「見料の中だ。今日は写しを鑑定していない。一件ぶん余っている」
女は少しのあいだコルベルを見ていた。
それから、頷いて奥へ行った。
---
待つあいだコルベルは、何も言わなかった。
リュカも言わなかった。
部屋は静かだった。
棚の箱の札が同じ高さに並んでいる。
埃がなかった。
箱の数を数えた。
横に十二縦に四。四十八。いちばん下の段だけ右の端が空いている。
四十七。
数えてから数えても何にもならないと思った。
それでも数えた。
この部屋には、値のついたものだけが置いてあるのだろうと思った。
置かれなかったものは袋に入って、帰っていく。
---
女が戻ってきた。
紙を一枚台に置いた。
字が書いてある。
三行ほど。
いちばん下に印が一つ押してあった。
リュカは紙を見た。
読めなかった。
「……何と書いてありますか」
コルベルが答えた。
「該当なし。無価値」
「それだけですか」
「それだけだ」
男は戸のほうへ歩いた。
「書いてあることが少ないのは、値がないからだ。値のあるものは書くことが多い」
戸の前で男は足を止めた。
「リュカ゠ルスールス」
名前をそのまま呼ばれた。
姓ごと呼ばれたのは、あの日の真ん中の男以来だった。
「なんですか」
「三年で二十五個。全部外れ。それでも拾うのはなぜだ」
リュカは少し考えた。
「……綺麗だからです」
コルベルは頷いた。
それから、少しのあいだ動かなかった。
「三十年、この仕事をしている」
男は戸のほうを向いたまま言った。
「持ち込む者の半分は金が欲しくて来る。残りの半分は、自分が拾ったものが特別だと言ってほしくて来る」
「……」
「どちらにも該当なしと言う。そのあと二度と来ない者がほとんどだ」
コルベルは布に手をかけた。
「綺麗だから、と言った者は久しぶりだ」
「……あの」
「なんだ」
「その人はどうなったんですか」
コルベルは答えなかった。
布の奥へ消えた。
リナという女が台の上を布で拭いていた。
顔を上げずに言った。
「先生は、答えないことを嘘とは言いません」
「……はい」
「知らないから答えないということもあります」
女は布を畳んだ。
「お帰りはあちらです」
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)
よろしければ是非応援頂けますと幸いです。




