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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 雲より古いもの

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76/163

雲と、古いもの②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 次の朝、リュカは日が昇る前に起きた。


 梯子の三段目が鳴った。


 土間を抜けるとき、毛布の上でヴェスナが目を開けていた。


 何も言わなかった。


 リュカも何も言わずに出た。


 戸口の脇にリナンが立っていた。


 こんな時刻に起きている理由はないはずだった。


「……行ってらっしゃい」


「うん」


 それだけだった。


 坂の側の小路を上がった。石段を四十二段。二番街の焼け跡の脇。二つ目の坂。


 荷を担いでいない。


 担いでいないのに、いつもと同じ速さで歩いていた。


 詰所の前に列はなかった。朝の早い籠には誰も並ばない。


 石の上に老人が座っていた。


 毎朝ここにいる。


 リュカを見て、少しだけ顎を動かした。


 リュカは頭を下げた。


 老人はそれ以上は何もしなかった。


 籠に乗った。


 荷はなかった。


 リュカ一人だった。


 ドランは止め木の柄を握って、何も言わずに籠を下ろした。


 摩天楼の壁が上へ流れる。


 暗い。


 やがて外が開ける。


 開けて白くなりかけた。


 そのとき、籠が止まった。


 揺れなかった。


 跳ねもしなかった。


 止まったと気づくまでに少しかかった。籠の底が下へ行こうとする感じが消えていた。


 綱が鳴っていた。


 下りているときの音とも、上がっているときの音とも違った。


 重さがかかったまま、動いていない音だった。


 張ったままこらえている音。


 ――止めてる。


 三十数えるあいだだけとドランは言った。


 リュカは数えはじめた。


 外は白の手前だった。


 白い床のすぐ上。


---


 リュカは格子に顔を押しつけた。


 雲の海が下に広がっていた。


 白かった。


 平らだった。


 平らに見えて、近くを見ると、ゆっくりと動いていた。うねっていた。端のほうが風でほどけていた。


 その上に空があった。


 空には摩天楼の腹が伸びている。上の街の底板も見える。人の造ったものは、白い床の上に黒く重なっていた。


 白い床の上に上の街の影が落ちていた。


 黒い四角い影。


 あれがリュカの住んでいる街の影だった。


 三年住んできた場所が雲の上から見ると、影でしかなかった。


 焼けたところも、焼けなかったところも同じ黒さだった。


 遠くのほうがわずかに盛り上がっている。盛り上がったところがゆっくりと形を変えていく。


 風が上を走っていた。


 走った跡が白の表面に筋になって残る。残った筋がすぐに消える。


 海だと言った者がいるのは、そのせいだと思った。


 ――雲の海。


 リュカは海を見たことがない。


 地上層に海があると聞いたことはある。行ったことはない。


 だから、これが海に似ているのかどうかも分からない。


 分からないまま見ていた。


 東。


 そこに一本立っていた。


---


 細かった。


 白い床から真っ直ぐに。


 灰色だった。石の色だ。


 まっすぐで途中に膨らみがない。上へ行くほどわずかに細くなっている。


 てっぺんが少しだけ欠けていた。


 ――欠けてる。


 ザッハが言ったとおりだった。


 四十年と少し前に、渡し船の甲板から見た男の言葉と同じものがそこにあった。


 リュカは目で測った。


 雲の床からてっぺんまで。


 遠いので大きさが分からない。だが、比べるものがあった。


 摩天楼の腹だ。


 三年、毎日見上げてきた。あの厚みを知っている。


 塔の雲の上に出ている部分は、摩天楼の腹の厚みの三倍ほどに見えた。


 ――高い。


 雲の上だけでそれだけある。


 雲の下は分からない。


 距離はもっと分からなかった。


 荷を担いで歩く距離なら、目で測れる。二十歩。三十五歩。五十歩。第七通りまで二百七歩。


 三年、歩数で測ってきた。


 歩けない距離は測れなかった。


 あの塔まで何歩あるのか。


 歩いていける場所ではない。あいだに雲の海がある。


 ――だから誰も行かないのか。


 見えるのに歩けない。


 見えるものと行けるものは違う。


---


 二十を数えた。


 風が格子の隙間から入ってきた。冷たかった。


 白い床が少しだけ動いた。


 動いた白が塔の根元のあたりを薄く覆った。


 覆われると、塔は雲から生えているように見えた。


 根元がない。


 どこから始まっているのか見えない。


 ザッハの言葉を思い出した。


 頭だけが出とる塔だ。どこから始まっとるかは誰も知らん。


 二十五。


 二十六。


 リュカは目を離さなかった。


 東。塔。灰色。欠けた頭。


 覚えるものが四つ。


 覚えられた。


 二十七。


 塔の表面に縦の筋が見えた気がした。


 遠すぎてはっきりしない。石を積んだ継ぎ目かもしれないし、影かもしれない。


 継ぎ目だとしたら積んである。


 積んであるものは人が積んだものだ。


 ――誰かが積んだ。


 雲の上に誰かがあれを積んだ。


 二十八。


 二十九。


 風が格子の隙間から入ってきて、目に当たった。


 瞬きをした。


 瞬きのあいだ塔が消えた。


 開けるとまたあった。


 三十。


 籠が下りはじめた。


 白が格子の外を上へ流れていった。


 二十三を数えるあいだまた何も見えなくなった。


 数え終わる前に、リュカは目を閉じた。


 閉じても見えた。


 東。細い灰色。欠けた頭。白い床。


 目を閉じたほうがはっきりしていた。


---


 詰所へ戻ったときに、ドランに何か言うつもりだった。


 言う前にドランのほうが訊いた。


「見えたか」


「見えました」


「そうか」


 ドランはそれだけ言って、籠の脇に座り込んだ。


 膝の上に工具箱を開けていた。芯のあたりの留め具を一つずつ叩いている。


 音は詰まった鈍い音だった。


 止めたことで何かが減ったのかどうか。


 リュカには分からなかった。


「……ありがとうございました」


 ドランは顔を上げなかった。


「礼はいい」


「でも」


「止めたのは俺の都合だ」


 リュカはドランの背中を見た。


 都合という言葉の意味は、言われなかった。


「坊主」


「はい」


「見えたものは覚えとけ。忘れたらただの噂になる」


 ドランは留め具を一つ叩いた。


 鈍い音がした。


「噂になったものは二度と確かめられん」


 籠が下りきる前に、綱の音が少し変わった。


 張る音ではなく擦れる音が混じった。


 リュカは格子の上のほうを見た。


 何も見えなかった。摩天楼の壁の暗さだけだった。


 地上層の受け渡し場で籠を降りた。


 バルが印を押す荷札を待っていた。


「……荷は」


「今日はないです」


「じゃあ何しに来た」


「見に来ました」


 バルはリュカの顔を見た。


「見えたのか」


「見えました」


「そうか」


 バルはそれ以上は訊かなかった。


 油皿の位置を直して、奥へ行きかけた。


 途中で足を止めた。


「兄ちゃん」


「はい」


「上で止まってたな。籠が」


「……分かるんですか」


「綱の音が途中で変わった」


 バルは、天井の低い苔の生えた梁を顎で示した。


「ここまで響いてくる。ずっと下までな」


 リュカは天井を見上げた。


 苔の生えた梁。その向こうに岩。その上に雲。


「三年、毎日聞いてる音だ。変わりゃ分かる」


 バルは梁から目を離した。


「上の連中は下を見ん。下の連中は上を見ん」


「……」


「岩人は上も下も見る。石の中にいるからな。どっちも同じ壁だ」


 それだけ言って奥へ行った。


 市へ下りた。


 嘘つきの棚の前に、ザッハが座っていた。


 リュカを見て、髭を撚る手を止めた。


「……早いな」


「見ました」


 ザッハの手が完全に止まった。


「何を」


「塔です。雲の上に出てる頭のところを」


「どこから」


「籠の中から。雲の上で止めてもらいました」


 ザッハは椅子の上で身体を起こした。


 しばらくリュカの顔を見ていた。


「……止めた」


「はい」


「籠を雲の上で」


「三十数えるあいだだけ」


 ザッハは髭を撚りはじめた。


 速かった。


「四十年だ」


 ザッハは言った。


「四十年、この市で話した。誰も見に行かなかった。わしが見たと言っても、誰もでは見に行くとは言わなかった」


 ザッハはリュカを見た。


「お前は翌日に見に行った」


 リュカは、何と答えていいのか分からなかった。


「……近くで見たわけじゃないです」


「見たんだ」


 ザッハはそう言い切った。


「見てないやつと見たやつのあいだには、雲の厚みぶんの差がある」


---


「続きのない話の二つ目を」


 リュカは言った。


「『わしの父親のそのまた父親の代にな』です」


 ザッハは頷いた。


 髭から手を離した。


「あれはな。わしの父親のそのまた父親の代にな塔の根元まで行ったという男がおった」


「根元」


「雲の下だ。雲の下に塔がどこまで続いとるかは誰も知らん。その男は根元を見たと言った」


「……何があったんですか」


「門だ」


 ザッハは指を二本立てた。


「二つ」


---


「二つ?」


「塔の根元に門が二つ並んどる。同じ大きさの同じ形の石の門だ」


「どっちも開くんですか」


「知らん。そこまでは聞いとらん」


 ザッハは立てた指を少し傾けた。


「どちらの門にも字が彫ってある。門の上の石に一行ずつ」


「字」


「古い字だ。この市の字でも、上の街の字でもない。塔と同じくらい古い字だ」


「……何て書いてあるんですか」


「知らん」


 ザッハはあっさり言った。


「その男も読めなかった。読めないまま、片方の門に入って、戻ってきて、それきり二度と行かなかったそうだ」


「読めないまま」


「読めないまま入って、生きて戻った。それだけは確かだ」


「……門はどのくらいの大きさだったんですか」


 ザッハは髭を撚った。


「人が二人並んで入れるくらいと聞いた」


「二つとも」


「二つとも同じ大きさで同じ形だ。並んどる。あいだは腕を広げたくらいだと」


「どっちが右でどっちが左か決まってるんですか」


「知らん」


 ザッハは指を下ろした。


「そこまで訊いた者がおらんかったんだろう」


 リュカは頷いた。


 門が二つ。同じ形。同じ大きさ。字が一行ずつ。


 覚えるものがまた増えた。


 ザッハは棚のほうを見た。


 三段の古い本が詰まった棚。


「この中にあの字で書かれたものが一冊ある」


 リュカは棚を見た。


 背表紙の字は今日も読めない。


「……読めるんですか」


「読めん」


 ザッハは髭を撚った。


「四十年、眺めとる。一字も読めん」


 それから、椅子から立ち上がった。


 棚のいちばん下の段に手を伸ばして、一冊を引き抜いた。


 薄い本だった。紙が茶色く焼けていて、端が丸まっている。


 台の上に置いて開いた。


 リュカは覗き込んだ。


 字が並んでいた。


 荷札の字とも詰所の板の字とも違った。角がなかった。丸くて続いていて、どこで一つの字が終わるのかが分からない。


 読めないというよりどこからどこまでが一字なのかが分からなかった。


「……これが」


「同じ字だと言われた。三十年前にこれを売った男に」


「売った男は読めたんですか」


「読めんと言っとった」


 ザッハは本を閉じた。


「読めんものを売って、読めんものを買った。そういう買い物だ」


 リュカは閉じた本の表紙を見ていた。


 革だった。角が擦り切れて、下の板が覗いている。


 三十年、この棚にあった本だ。誰にも読まれずに。


「……いくらですか」


 ザッハの手が止まった。


「買う気か」


「……いくらか訊いただけです」


「買えんよ」


 ザッハはあっさり言った。


「値をつけとらん。四十年、一度も値をつけたことがない」


「なんで」


「値をつけたら、売れてしまうかもしれんだろう」


 ザッハは棚を見上げた。


「売れたらわしの棚から消える。消えたらこの市にあの字は一つもなくなる」


「……なんで買ったんですか」


「読めんからだ」


 ザッハは本を棚に戻した。


「読めるものは誰かが読む。読めんものは誰も読まん。誰も読まんものは、そこに置いておくしかない」


 ザッハは椅子に座り直した。


「わしの棚はそういうものを置く場所だ」


 リュカは棚を見上げた。


 三段。読めない本がぎっしり。


「……続きのない話はあと一つです」


 ザッハは髭を撚る手を止めた。


「一つ」


「はい。『あれはな』で切れてます。咳で」


 ザッハはしばらく黙っていた。


「……それはまだいい」


「いいんですか」


「まだだ」


 ザッハはそれだけ言った。


 理由は言わなかった。


---


 帰りの籠を待つあいだリュカは、受け渡し場の壁に背を預けて座っていた。


 覚えるものが増えていた。


 東。塔。灰色。欠けた頭。


 門が二つ。


 字が一行ずつ。


 ――読めない。


 リュカは、荷札の地名と数字しか読めない。


 ミラは字が書ける。ヴェスナも少しは読めるかもしれない。ザヴは帳簿をつけていた。


 だが、あの字はこの市の字でも、上の街の字でもないとザッハは言った。


 ミラにも読めないだろう。


 ――読めなくても入れる。


 根元まで行った男は読めないまま、片方の門に入って、戻ってきた。


 だから、読めなくても入れる。


 入れるが。


 ――どっちに入ったんだろう。


 その男が入ったのがどちらの門だったのかをザッハは言わなかった。


 訊いても知らんと言われるだろう。


 知らないことを知らないと言う男だ。


 覚えたものを順番に並べた。


 東。塔。灰色。欠けた頭。縦の筋。門が二つ。字が一行ずつ。


 七つ。


 数えられた。


 三年、歩数を数えてきた。荷の数も杭の数も日当も。


 今日数えたのはどれでもなかった。


 覚えたものを数えた。


 ――覚えられるうちに数えておく。


 忘れたら噂になる。


 名前が落ちて、石になり金貨になり墓になる。


 落とさないように、順番にもう一度並べた。


 東。塔。灰色。欠けた頭。縦の筋。門が二つ。字が一行ずつ。


 夜宿に戻った。


 土間で鍋を食べた。


 梁の上でセイルが今日の音を繰り返しはじめた。


 籠の綱の張ったままこらえる音。


 バルの声。「上の連中は下を見ん」


 ザッハの声。「門だ」「二つ」


 トトが椀から顔を上げた。


「……門?」


「セイルが拾っただけだ」


「誰の声だそれ」


「下の市の爺さん」


「ふうん」


 トトは椀に顔を戻した。


 それから、もう一度顔を上げた。


「……お前最近よく下に行くな」


「荷があるから」


「昨日は荷がなかったろ」


 リュカは答えなかった。


 トトはそれ以上は訊かなかった。


 ミラは記録の束を膝に置いたまま、梁を見上げていた。


 ヴェスナは、柄杓で鍋の底をこそげていた。


 誰も何も訊かなかった。


 リナンだけが梁の下でセイルの皿に屑を足しながら、一度だけリュカのほうを見た。


 リュカは頷いた。


 それだけで見えたと伝わったらしかった。


 リナンは何も訊かなかった。


 セイルが梁から下りてきて、皿の屑をつついた。


 つつき終えて、また梁の上に戻った。


 いつもの夜だった。


 いつもの夜にリュカの頭の中だけが雲の上にあった。


 鍋を食べて屋根裏に上がった。


 板の隙間から夜が見えた。


 シャツの胸に手を当てた。


 白っぽい丸い石。三十個目。九日目。


 あと一日。


 肌の温度のままだった。


---


 次の日荷はなかった。


 リュカは空き地で杭を撃って、荷車で瓦礫を運んだ。


 運びながら東の空を何度か見た。


 摩天楼の腹と上の街の底板のあいだの細い空。


 その向こうに雲があって、雲の上に塔がある。


 ここからは何も見えなかった。


 昼、ヴェスナが箒を使っている前を通った。


 ヴェスナはリュカを見て、何も訊かなかった。


 この二日リュカが籠で何をしていたのかをヴェスナは訊かなかった。


 三十年、この街で雲の上の話をする若いのを何人も見てきた人だった。


 訊かないのは、知っているからだと思った。


 次の日。


 三十個目の十日目だった。


 昼井戸で水を汲んだ。


 イサが井戸の縁に座っていた。


「坊主。二日籠に乗ってたね」


「乗ってました」


「荷もないのに」


「……荷は昨日はありました」


「今日は?」


「今日はないです」


 イサはそれ以上は訊かなかった。


 桶の水をリュカの桶に移した。


「塔の話はもう終わったのかい」


「……終わってないです」


「そうかい」


 イサは少しだけ笑った。


「うちの人もね若い頃そういう話をしてたよ」


「行ったんですか」


「行かないよ。結界の外の岩場までは行ったけどね。そこで鎌翼を見て帰ってきた」


 イサは綱を手繰った。


「帰ってきて、それきり外の話はしなくなった」


 その日も何も起きなかった。


 空き地で杭を撃ったときも、荷車で瓦礫を運んだときも井戸の綱を引いたときも。


 何も。


 夜になって、リュカは空き地へ行った。


 杭は持たずに、袋だけ持っていった。


 石垣の脇にしゃがんで、袋の口を開けた。


 二十四個。


 暗がりの中で形だけを指で確かめた。角の取れたもの。尖ったもの。平たいもの。丸いもの。


 三年と少しで二十九個が外れて、袋に入った。あとの五つはあの夜に投げた。


 今、胸にあるのが三十個目だ。


 ――外れ。


 三十個目。


 リュカは石をシャツの胸から出した。


 暗がりの中で指で確かめた。丸い。片面に細い筋が一本。


 空き地で子供が並べていた石。


 上の子が何も言わずに差し出した石。


 拾ってるからと言った子の石。


 袋の口を開けて、その中に落とした。


 からんと鳴った。


 二十五個。


 ――外れてもあの子の石だ。


 そう思った。


 思ってからもう一つ思った。


 ――三十個、外れた。


 三年と少しで三十個。


 一つも宿らなかった。


 これから拾う石もたぶん宿らない。


 三十一個目を明日選ぶ。選んで十日待つ。外れる。袋に入れる。二十六個になる。


 その繰り返しをこの街で続けるのか。


 それとも。


---


 屋根裏に上がって横になった。


 東。塔。灰色。欠けた頭。


 門が二つ。


 字が一行ずつ。


 明日の朝も土を掘って、その日いちばん気になったものを拾う。


 三年、そうしてきた。


 明日もそうする。


 だが、今日少しだけ違うことを考えた。


 ――塔の石は。


 あそこにも石が落ちているのだろうか。


 鉄屋は、継ぎ目に鉄が入っていると言った。柄杓の子の祖父は、星が引っかかると言った。ミラの母親は苔が生えると書いた。


 どれも誰も見ていない。


 見ていないものを当てにはできない。


 できないが行けば分かる。


 行った者は戻らないか何も持たずに帰って、黙っているかのどちらかだ。


 リュカは枕の下の袋に手を置いた。


 からからと鳴らないように押さえた。


 塔に行くには、雲の上へ行かなければならない。


 籠は上と下にしか動かない。雲の上の一点へは行けない。


 船が要る。


 渡し船はあの航路を通らなくなった。四十年前に。


 ――どうやって行くのか。


 分からなかった。


 分からないがどこにあるのかは分かった。


 見えないものを探すのと行き方の分からない場所へ行くのは違う。


 三年、見えないものを探してきた。


 石が宿るかどうかは、十日待たないと分からない。待って外れる。何が足りないのかも分からない。


 塔は見えた。


 見えたものへの行き方は、たぶん誰かが知っている。


 知っている誰かを探せばいい。


 上の街には鑑定所がある。古いものを扱う場所があるとも聞いた。


 塔まで行く方法を知っている者がいるとすれば、そういう場所だろう。


 行くには金が要る。片道四百。


 手元には十二枚。


 足りない。


 足りないことはもう分かっている。


 足りないものを一つずつ数えればいい。


 行き方。金。装備。それから読めない字。


 四つ。


 ――数えられる。


 終わりが分からないものは、数えられない。


 これは終わりが分かる。四つを埋めれば行ける。


 リュカはそう思った。


 リュカは目を閉じた。


 下の土間でセイルがザッハの声を繰り返していた。


「門だ」


 それから、少し間があって。


「二つ」

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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