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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 灰は軽く、風に乗る

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口に出して数える①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 焼けてから十一日目の朝リュカは杭を撃つ前に、荷車の把手を握っていた。


 空き地の石垣の脇にゴドの荷車がある。昨日右に寄せて梁を運んだ荷車だ。


 把手の手の形に擦れたところを握った。


 ゴドの手の形だった。まだ少し大きかった。


 ――数える。


 昨日の夜ヴェスナは椀の数を数えて、何人だったのか言わなかった。


 リュカも数えなかった。


 数えたら昨日の数と比べてしまう気がした。


 今朝、目が覚めて、屋根裏の板の隙間から入る光を見ていて思った。


 比べるのが怖くて数えないのは、終わりが分からないものを数えないのと違う。


 終わったものは数えられる。


 街が焼けて十一日。


 出ていく者は出ていった。


 残る者は残った。


 終わったのだと思った。


 だから数える。


---


 杭は撃たずに、荷車を押して、空き地を出た。


 右に寄せて瓦礫を一山載せた。空で回るより何かを運びながら回るほうがいい。荷運びの癖だった。


 宿の前でヴェスナが箒を使っていた。


 穂の先の焦げた箒。


「婆さん」


「なんだい」


「今日、数える」


 ヴェスナの箒が止まった。


「何を」


「人」


 ヴェスナはリュカを見た。


 しばらく何も言わなかった。


 それから、箒をまた動かした。


「……数えな」


「うん」


「あたしは昨日椀を数えたよ」


「知ってる」


「言わなかったけどね」


「知ってる」


「椀は人じゃない」


 ヴェスナは、箒の先で焦げた瓦の破片を路地の端に寄せた。


「椀を持ってこない者もいる。持ってこられない者もいる」


「……うん」


「だから、あんたが数えな。戸口を叩いて」


---


 戸口を叩きはじめる前に、数え方を決めた。


 名前は訊かない。


 名簿の日に名前は全部読み上げられた。読み上げられて、「いる」と「いない」に分けられた。あれはザヴの紙の上の話だ。


 今日知りたいのは紙ではない。


 今夜この街で寝る者が何人か。


 それだけだ。


 だから、戸口で訊くのは一つでいい。


 何人ですか。


 宿から数えはじめた。


 ヴェスナ。一。


 リナン。


 リュカはそこで少しだけ迷った。


 リナンはこの街の者ではない。上から来て、宿に泊まっていた翼人だ。名簿の日も呼ばれなかった。


 土間の奥でリナンが梁の上のセイルに欠けた皿を差し出していた。


 昨日子供を二人見送った翼人だった。


 この十一日一度も、上へ帰る籠に乗らなかった翼人だった。


 ――今夜ここで寝る者。


 数え方をそう決めた。


 今夜この街で寝る者を数える。


 リナン。二。


 それから自分。


 自分は最後に数えることにした。


---


 宿の東隣はゴドの家の跡だった。


 誰もいない。


 ゼロとは数えなかった。数えないものは数えない。


 その先の路地の入り口の西の脇。崩れた三軒目の小山は、もう黒い炭の平らな跡になっていた。


 誰もいない。


 路地の入り口を越えて広場へ。


 広場に面した立っている家。


 戸口の前で荷車を止めた。


 戸を叩いた。戸は焼けて半分しかなかった。半分の戸を叩いた。


「はい」


 出てきたのは、子供を毛布の老婆に預けていた男だった。明け方に立っている家を数えていた男。


「……荷運びの」


「今夜ここで寝る人は何人ですか」


 男は少しのあいだリュカの顔を見ていた。


「……数えてるのか」


「数えてます」


 男は家の中を振り返った。


「俺と女房と子供。それから、毛布の婆さん。家が焼けたからうちで寝てる」


「四人」


「四人だ」


 男は少しだけ笑った。


「俺もあの朝数えたよ。家を。七軒」


「聞いてました」


「今度は人か」


「人です」


「……いくつになる」


「まだ分かりません」


 六。


 男は戸口の中へ戻りかけて、振り返った。


「なあ、坊主」


「はい」


「数えて上に報せるのか」


「……上?」


「詰所の上だ。上の街の役所とかそういうところに」


「報せません」


「じゃあ何のために数える」


 リュカは少し考えた。


「……数えたいので」


 男はしばらくリュカの顔を見ていた。


 それから、鼻から息を吐いた。


「変な子だな」


---


 イサの家。


 広場の東側の夜のあいだ燃えなかった家。


 戸を叩くとイサが出てきた。手の布はもう巻いていなかった。今朝、外したところだと言った。掌の皮が薄く張り直している。


「坊主」


「今夜ここで寝る人は」


「あたしとミラ」


「ミラさん」


「薬房が焼けたからね。うちの奥の部屋で寝てる。朝早くから怪我人を見て回ってるよ」


 イサは戸口に寄りかかった。


「数えてるのかい」


「数えてます」


「あたしは、三十年この井戸端で顔は数えてきたよ。名前は半分も知らなかったけどね」


 八。


 イサは戸口の柱に背を預けたまま、路地の東のほうを見た。


「焼ける前は、この路地だけで百人以上いたんだよ」


「はい」


「井戸に朝いちばんに来る順番があってね。日の出前が鍛冶場と宿の分。そのあとが子持ちの家。そのあとが年寄り」


 イサは指を三本立てて、それから下ろした。


「今は順番なんかないよ。来たやつが汲む」


---


 広場から東へ。


 横丁の一本目は、広場の東のすぐ脇から入る。


 短い横丁だった。本通りから入って、十歩ほどで行き止まる。両側に家が三軒ずつ。


 三年、荷を届けに何度も入った横丁だ。どの家に何人住んでいたか荷の数で覚えていた。


 右の一軒目は焼けて、誰もいなかった。


 二軒目。戸を叩いた。


 粉屋のネラが出てきた。


「……荷運びの子」


「今夜ここで寝る人は」


「あたしと亭主と娘が一人」


「三人」


「粉屋は粉がなきゃ粉屋じゃないけどね」


 ネラは、焦げた麦の袋の空になったのを戸口の脇に畳んでいた。


「上から麦が入るようになったら、また挽くよ。石臼は焼けなかったから」


 十一。


 左の三軒目は、戸口に荷がまとめてあった。


 布袋が三つ。縄で縛ってある。


 戸を叩くと中年の男が出てきた。


「……何だ」


「今夜ここで寝る人は何人ですか」


 男は戸口の荷を見て、それからリュカを見た。


「明日、下りる」


「……今夜は」


「今夜はここで寝る。五人だ」


「五人」


「明日にはいなくなる五人だぞ」


「今夜はいます」


 男は少し黙った。


 それから、ふんと鼻を鳴らした。


「……勝手に数えろ」


 十六。


---


 横丁の二本目は、広場から東へ二十歩ほど行った先にある。


 入り口の家の前に、女が一人座っていた。


 夜中に東の路地の奥で一つの名前を呼び続けていた女だった。カイの女房。


 リュカが荷車を止めると、女は顔を上げた。


「……荷運びの」


「今夜ここで寝る人は何人ですか」


「あたし一人」


「一人」


「うちの人は上。頭の傷がまだ塞がらないって」


 女は膝の上で手を組んだ。


「帰ってくるって言ってた。塞がったら籠で」


「……帰ってきたら足します」


「足すって」


「数に」


 女は少しのあいだリュカの顔を見ていた。


 それから、小さく笑った。


「……そうして」


 十七。


 二本目の横丁の奥でマルタが息子と二人で焼けた梁を割って薪にしていた。


 名簿の日最初に「いる」と答えられた名前だった。


「二人だよ」


 マルタは訊かれる前に言った。


「数えてるって、さっき粉屋から聞いた」


「二人」


「坊主。数えてどうするんだい」


「……分かりません」


「分からないのに数えるのかい」


「分からないので数えます」


 マルタは斧を下ろして、リュカを見た。


 それから、息子のほうを見た。


「……変な子だね」


 今日二度目だった。


 息子は何も言わずに、次の梁を割った。


 十九。


 横丁の三本目。


 小山の黒い道で脛を焼いた男が戸口の前で脚に布を巻いたまま座っていた。


「三人。俺と女房と兄貴」


「三人」


「脚がこれだ。明日からまた梁を運べる」


「……まだミラさんに」


「分かってる。あの娘にあと三日は運ぶなって言われた」


 男は布を巻いた脛を軽く叩いた。


「三日経ったら運ぶ」


 二十二。


 横丁の三本目の奥。


 戸を叩いて訊いて数えた。


 戸を開けない家もあった。中に人の気配はある。声をかけても返事がない。


 リュカは戸の前でしばらく待った。


 待っても開かなかった。


 戸の隙間から煮炊きの匂いが漏れていた。


 ――いる。


 何人かは分からなかった。


 訊いて答えのない家を数に入れるかどうか。


 リュカは、荷車の把手を握ったまま考えた。


 留守なのか答えたくないのか。


 答えたくない理由は、いくつも思いついた。


 人数を言えば家の中が分かる。女ばかりだと分かる。年寄りだけだと分かる。


 焼けたあとそういうことを気にする者がいてもおかしくない。


 名簿の日ザヴは、見た者がいないヴェスナの名前の横を空けたままにした。


 いるともいないとも書かなかった。


 リュカはその家の戸の前に、焼けた瓦を一枚立てかけた。


 あとで、もう一度来る。


 それから、次の家へ行った。


 次の家では若い男と女が焼け残った壁に板を打ちつけていた。


 屋根の代わりに板を斜めに渡して、雨よけにしようとしている。


「二人です」


 女のほうが訊かれる前に言った。


「下りようかって、話したんですけど」


「……」


「四百が二人で八百。あっても、下で何をするのか分からなくて」


 男が板を押さえたまま言った。


「ここなら何をするか分かる。壁が一枚ある。板を打ちつける」


 女が少しだけ笑った。


「それだけなんですけどね」


 二十四。


 その隣の家は老いた夫婦だった。


 夫のほうは、耳が遠いらしくリュカの問いを妻が大きな声で繰り返した。


「何人かだって。今夜ここで寝る人が」


「二人だ」


 夫ははっきり答えた。


「五十年、二人だ」


 二十六。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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