お前と、名前②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
シャルディアに戻ったのは、昼をだいぶ過ぎた頃だった。
木札をドランに渡し、日当を受け取り、そのまま三番街へ向かう。
途中で、井戸端に人だかりができているのが見えた。
「あんた、荷運びの」
呼ばれて足を止めた。桶を持った女だ。名前は知らない。顔だけは毎朝見る。
「溝鼠が出た」
「どこ」
「水路。奥のほう。もう三日も居着いてて、うちの井戸まで来たら困るんだよ」
リュカは背の袋を下ろした。
「頼めるかい。……五シャルドしか出せないけど」
「いいよ」
私的依頼だ。
登録所を通した公的な依頼なら、下級でも二ステラは出る。二百シャルド。五日ぶんの日当だ。
だがそれは登録された適合者しか受けられない。
登録には条件がある。石を宿していること。それだけだ。強いかどうかは問われない。宿しているかどうかだけが問われる。
リュカが受けられるのは、こういうやつだけだ。
近所の困りごとを、数シャルドで。
三年で、百件を超えている。
半分以上が溝鼠だ。次が水路の詰まり、屋根の修理、荷の運搬、迷子の犬。
全部合わせても、公的依頼の五件分にもならない。
女は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。それから、思い出したように言った。
「あんた、いつも石拾ってるだろ」
「うん」
「うちの人が言ってたよ。あんた、いつか当たり引くよって」
リュカは曖昧に頷いた。
リュカは女の顔を見た。
本気で言っている。慰めでも、皮肉でもない。いつか当たると、本当に思っている。
三年見てきた顔だ。名前は知らない。毎朝、井戸で桶を洗っているのを見る。
その人が、自分のことを気にかけていた。
当たる、という言い方が、この街では標準だ。
石は当たるものだと思われている。宝くじと同じ扱いだ。運が良ければ当たる。悪ければ当たらない。
実際、そうなのかもしれない。
だが「当たり」を待っているなら、二十いくつも持ち歩く必要はない。外れたと分かった時点で捨てればいい。
自分が拾っているのはそういうものではない、と説明するのは、たぶん今日も無理だ。
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三番街の水路は、街の下を蛇のように走っている。
全部で七本ある。本数はドランに教わった。上から二番街の水を受けて、三番街を通り、下の排水口へ抜ける。
リュカは七本とも中を知っている。三年で何度も入った。溝鼠が出るたびに呼ばれるからだ。
どこが狭いか、どこで曲がるか、どこの蓋が外れているか。全部覚えている。
覚える必要があったからだ。中は暗い。
石組みの溝で、幅は人ひとりぶん。上に蓋がしてあるが、ところどころ外れていて、そこから下りられる。中は暗い。腰の高さまで水が来ることもあるが、今日は乾いていた。三日晴れが続いたからだ。
三番目の水路だった。
入り口は三番街の東の外れ、井戸から百二十歩ほど。蓋が二枚外れていて、そこから下りられる。
リュカは蓋の外れた場所から中を覗いた。
息を落とす。足の裏を、石畳に薄く貼りつける。
沈み《ハウ》。気配を薄くするだけの技で、誰でも覚えられる。ただし深さは人による。
リュカはこれが得意だった。石を一つも持っていなくても使える技だからだ。
できることを増やそうとすれば、自然とそういう技ばかり上手くなる。
沈み《ハウ》、見切り《サク》、退き足。全部、石が要らない。
逆に石纏は使えない。纏う石がない。放石も使えない。投げる石を買えない。
できることと、できないことが、最初から分かれている。
――かさ。
奥だ。二十歩か、もう少し。
投槍器を構え、杭を一本つがえた。
溝鼠は臆病だ。近づけば逃げる。だから追わない。追わずに、逃げる先で待つ。
音を立てて追い出す道具はある。音石。市で十二シャルド。
今日の稼ぎは四十シャルドで、依頼料は五シャルドだ。買えば赤字になる。
閃光石なら確実だ。目を潰せば動きが止まる。十五シャルド。
煙幕石で追い出す手もある。十シャルド。
どれも五シャルドの依頼には見合わない。
だからリュカは、石の袋に手を入れた。
青いやつを摘み出す。十二日前に外れと決めたもの。
それを、溝の反対側へ投げた。
からん、と音がした。
音は狭い場所でよく響く。
鼠は逃げる。音のした方向とは逆へ。つまり、こちらへ。
黒い影が水路の底を走ってきた。
犬ほどの大きさ。濡れた毛が石にこすれる音。四肢が短く、体が長い。走るというより、滑るように進む。
瞳孔が、暗がりの中で細く光っている。
――ある。
リュカは無意識にそれを確かめていた。瞳孔がある。当たり前のことだ。この世界の生き物には、みんな瞳孔がある。籠の上の猫にも、この鼠にも。
なぜそんなことを確かめたのか、自分でも分からなかった。
肩の入り方で、跳ねる向きが分かる。
見切り《サク》。目で追うのではなく、重心で読む。これも石が要らない技だ。
溝鼠は跳ぶ前に、必ず後肢を寄せる。寄せた足が右なら左へ、左なら右へ跳ぶ。
三年で五十匹以上仕留めた。同じ動きを五十回見れば、覚える。
右が寄った。
――左だ。
リュカは半歩、右へずらした。跳んだ先に杭が通る位置。
振る。
杭は溝の壁で一度跳ね、角度を変え、鼠の首の付け根に刺さった。
跳弾。壁が乾いているときにしか使えない。
影が痙攣して、止まった。
リュカは溝を下り、杭を引き抜いた。
首の付け根に入っているので、抜くのに力が要る。回しながら引く。的の木を抜くのと同じ要領だ。
血を石壁でこすって落とす。布では拭かない。布は乾かないと使えなくなる。
それから、投げた青い石を拾いに行った。
二十歩ほど先の壁際に落ちていた。暗いので手探りだったが、投げた角度を覚えているので、探す範囲は狭い。
水気を拭って、袋に戻す。
四十本と、石が一つ。
全部そろっている。
水路を出る前に、もう一度数えた。同じだった。
二度数えるのは癖だ。暗い場所では、一度目を信用しない。
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水路から上がると、井戸端に人が残っていた。
依頼主の女と、他に三人。全員が桶を持ったまま、立ち話をしている。
「終わった?」
「終わりました」
「早いね」
女は懐から硬貨を出した。五枚。
リュカは受け取って、袋に入れた。
「大きかったかい」
「犬くらいです」
「三日も居着いてたからねえ」
女は納得した顔をした。
他の三人が、少し離れた場所から見ていた。
「あんた、いくらで受けたんだい」
「五です」
「五?」
一人が声を上げた。
「安いよ。前に頼んだ人は、二十取ったよ」
「登録してる人でした?」
「たぶんね」
リュカは頷いた。
登録された者が受ければ、公的な依頼として扱われる。報酬も上がる。ただし三番街の人間は、その値段を出せない。
だから、出せる値段で受ける人間が要る。
――俺が受けなきゃ、誰が受ける。
考えたことはある。答えは出ていない。
「あんた、いつか登録するのかい」
女が訊いた。
「しません」
「なんで」
「できないので」
それで会話が終わった。
誰も追及しなかった。この街では、できないことはできない。理由を訊くのは無作法だ。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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