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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 灰は軽く、風に乗る

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54/167

台所と、空の棚②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 トトが来た。


 肩に焦げた鍋を担いでいた。


「鍛冶場の焼け跡から出てきた。親方が湯を沸かすのに使ってたやつ」


 鍋を竈の上に据えた。


 大きかった。宿の鍋の三倍はある。


「一人で煮るよりまとめて煮たほうが火種石が一つで済むだろ」


 トトが言った。


「親方がいつも言ってた。炭はまとめて焚けって」


 ヴェスナは鍋を見た。


 それから、豆の袋を見た。干し魚を見た。


 土間に集まった顔を一人ずつ見た。


「……油は」


 誰も答えなかった。


 油は焼けた夜からどこにもなかった。二番街の油屋は店ごと燃えた。


 ミラが戸口に立っていた。


 薬房の焼け跡から来たのだと思った。この五日ミラは、家を回って怪我人を診る合間に薬房の焼け跡に立っていることがあった。


 屋根の落ちた薬房の奥の壁に天井まで組んであった棚の跡が焦げて残っている。棚そのものは燃え尽きていた。壁に段の高さごとの黒い線が何本か走っているだけだ。


 あの棚にももう何もない。


 壺も瓶も束ねた草も。母親の字で書いた壺が並んでいたといういちばん上の段も。


 ミラはその棚の跡の前に、ときどき黙って立っていた。


 何かを探しているのではなかった。ただ、そこにあった形を見ているようだった。


 いつから立っていたのか分からなかった。片腕に布を巻いて、もう片方の手に小さな瓶を持っていた。


「これ」


 ミラは瓶をヴェスナに差し出した。


「薬房の床下にあった。薬に混ぜる油。食べられる。母親が床下に分けてしまってた分」


「……いいのかい」


「薬は全部燃えたの」


 ミラは言った。


「油だけ残っても混ぜる薬がない」


---


 ヴェスナは瓶を受け取った。


 栓を抜いて匂いを嗅いだ。


 少しだけ目を細めた。


「……いい油だね」


「母親が選んだの」


「そうかい」


 ヴェスナは瓶の栓を戻した。


 竈の前に座り直した。


 リュカが買ってきた火種石を一つ受け取った。


 膝の上で割った。


 小さな音がした。


 割れた石を竈の口に落とした。


 赤い点が灯った。


 竈の奥の煤で黒い石が下から照らされた。


 土間に集まっていた者たちが誰も何も言わなかった。


 赤い点が少しずつ大きくなった。


 ヴェスナがその上に細く割った焚きつけを一本ずつ載せた。焼け跡から拾ってきた燃え残りの木だった。


 ぱちと小さな音がした。


 火がついた。


---


 鍋に張る水が足りなかった。


 リュカは宿の桶を二つ持って、井戸へ行った。


 広場の井戸には屋根がない。焼け残った西の柱の根元に綱が結んである。三本ぶん短い綱だ。


 井戸の縁で綱を掴んだ。


 指の腹は使わずに掌で。


 引いた。


 桶が上がってきた。


 重かった。一晩じゅうイサはこれを引いていたのだと思った。剥けた掌で。


 二つの桶を満たして、宿まで四十歩。


 水をこぼさない走り方はしなかった。走らなくてよかったからだ。


 歩いて戻った。


 湯が沸くまでの間ヴェスナは豆を洗った。


 イサの豆だった。


 桶の水に浸して手で揉む。浮いてきた殻を指ですくって捨てる。


 腰に片手を当てたまま、もう片方の手で。


 リナンが隣にしゃがんだ。


「わたしやります」


「いいよ」


「……でも腰」


 ヴェスナは手を止めた。


 リナンを見た。


「あんた、煮るのは上手いのかい」


「……里では時間をかけて煮ました」


「そうかい」


 ヴェスナは、桶をリナンのほうへ少しだけ押しやった。


「豆は急ぐと割れる。割れたら殻が浮く。浮いたらすくう」


「はい」


「それだけだよ」


「はい」


 リナンは豆を揉みはじめた。


 ヴェスナは竈の火を見ていた。


---


 豆を煮ている間にリュカは、土間の片付けをした。


 焼け落ちた東の半分から使えそうなものを一つずつ掘り出す。


 割れていない椀が二つ。欠けた皿が一枚。柄の焼けた柄杓。鉄の鍋の蓋。


 焼けていない物の山に一つずつ置いていく。


 梁の下から平たい板が出てきた。


 人の背丈より少し長い。


 端が焦げていた。表面に煤がこびりついている。


 持ち上げようとして、重さで何の板か分かった。


 厚い。ただの床板ではない。


 ひっくり返した。


 煤の下に何か描いてあった。


---


「婆さん」


「なんだい」


「これ」


 リュカは板を土間の戸口に立てかけた。


 ヴェスナが竈の前から振り返った。


 板を見た。


 しばらく何も言わなかった。


 それから、腰に片手を当てたまま、立ち上がった。


 板の前まで歩いてきて、袖で煤を拭った。


 一度。二度。


 煤の下から白いものが出てきた。


 白い塊だった。


 上のほうが丸くて、下のほうに短い線が四本。線の一本は途中で剥げて、なくなっている。塊の左の端に黒い点が一つ。


 宿の看板だった。


 三年、毎朝その下を通ってきた。


 軒が燃えて、看板ごと梁と一緒に落ちたのだ。


「……出てきたね」


 ヴェスナが言った。


「うん」


「焼けなかったね」


「煤で黒くなってる」


「拭けば落ちるよ」


 ヴェスナはもう一度袖で拭った。


 白い塊が少しだけ白くなった。


---


 トトが竈の脇から覗き込んだ。


「……なんだそれ」


「看板だよ」


「いや看板なのは分かるけど」


 トトは白い塊を見た。


 首を少し傾けた。


「何の絵だ」


「羊だよ」


 ヴェスナが即答した。


 トトはもう一度塊を見た。


 反対側に首を傾けた。


「……羊?」


「羊だよ」


「羊ってあの毛の」


「羊だよ」


「脚四本あるかこれ」


「一本剥げてるんだよ」


「じゃあ三本だろ」


「四本だよ。剥げてるだけだ」


 トトは何か言おうとして、口を閉じた。


 閉じてからまた開いた。


「塊だろ」


「羊だよ」


---


 リナンが豆の桶から顔を上げた。


 濡れた手を前掛けで拭いて、看板の前に来た。


 白い塊をじっと見た。


「……羊ですか」


「羊だよ」


「わたしの里には雲羊がいたんですけど」


「くもひつじ」


「浮島の。毛が雲みたいに長くて」


 リナンは看板の塊をもう一度見た。


「……雲羊じゃないです」


「雲羊じゃないよ。羊だよ」


「羊……」


 リナンは困った顔をした。


「羊ってどういう」


「羊だよ」


「……」


 リナンはリュカを見た。


 リュカは白い塊を見ていた。


 三年、見てきた。何が描いてあるのかは知らなかった。


 今も分からなかった。


 上のほうが丸くて、下に線が三本と剥げた一本。黒い点が一つ。


「……目?」


 リュカは黒い点を指さした。


「目だよ」


「こっちが頭」


「頭だよ」


「……」


 頭にしては低い位置だった。


 リュカはそれ以上言わなかった。


---


 ミラが戸口から覗き込んだ。


「何してるの」


「看板」


 トトが言った。


「婆さんが羊だって言い張ってる」


「羊よ」


 ミラは塊を見もせずに言った。


「……は?」


「羊でしょ。宿の名前が綿羊亭なんだから」


「いや名前はそうだけど絵が」


「絵が何でも羊よ」


 ミラはそれだけ言って、竈のほうへ歩いていった。鍋の中を覗いて、豆の具合を見ている。


 トトは、ミラの背中と看板とヴェスナを順に見た。


「……ずるくねえかそれ」


「何がだい」


「名前で決めるの」


「名前で決めて何が悪いんだい」


 ヴェスナは、看板を戸口の脇の焼け残った柱に立てかけ直した。


 白い塊が朝の光を受けていた。


「三十年、羊だったんだよ」


 ヴェスナは言った。


「今さら塊にはならないね」


 トトは両手を上げた。


 降参の手だった。


 リナンが口元を押さえていた。


 押さえた手の下で肩が小さく震えていた。


 笑っているのだとリュカは気づいた。


 焼けてから誰かが笑うのを初めて見た。


---


 リュカは看板を見ていた。


 白い塊。


 羊は天空国にはいない。三年前そう聞いた。雲羊なら浮島にいるがあれは羊ではないのだと今リナンが言った。


 この街の誰も羊を見たことがない。


 ヴェスナは見たことがあるのだろうか。


 訊かなかった。


 訊くようなことではない気がした。


 白い塊は羊だった。


 三十年、羊だったのだ。


---


 豆が煮えるまで長くかかった。


 リナンが火の加減を見ていた。


 強くしない。弱くもしない。鍋の底から小さな泡がぽつりぽつりと上がってくる加減をずっと守っていた。


「急ぐと割れるから」


 リナンは誰にでもなく言った。


「割れたら殻が浮くから」


「すくう」


 ヴェスナが後ろから言った。


「……はい。すくう」


 ミラの油をヴェスナが少しずつ垂らした。


 匂いが変わった。


 土間に湯気が満ちた。豆の匂いと、油の匂いと、焦げた干し魚の匂い。


 宿の軒下でかちりと音がした。


 ルフが焦げた尻尾を丸めて、食べかけの石を齧っていた。


 匂いには見向きもしなかった。ルフが食べるのは石だけだ。


 焼けた匂いではなかった。


 煮ている匂いだった。


 土間の外に人が集まりはじめていた。


 匂いが路地に流れたのだ。


 最初に来たのは荷車のゴドだった。宿の東隣の家をなくした男だ。焼け残った荷車だけをどこへ行くにも引いている。


「……煮てるのかい」


「煮てるよ」


 ヴェスナが鍋から目を離さずに答えた。


「何を」


「豆だよ」


「どこの豆だい」


「イサの豆」


 ゴドは土間の奥のイサを見た。イサは布を巻いた手を膝の上に置いて、竈の脇に座っていた。


「……俺は何も持ってねえぞ」


「持ってこいとは言ってないよ」


 ヴェスナはそれだけ言った。


 ゴドはしばらく戸口に立っていた。


 それから、荷車を戸口の脇に寄せて、土間の隅に黙って座った。


 次に、粉屋のネラが来た。東の横丁の女だ。手に焦げた麦の袋を少しだけ持っていた。


「粉は全部だめだった。これだけ底に残ってた」


 ヴェスナは麦を受け取って、鍋に入れた。


 その次は名前を知らない男だった。その次は名前を知らない老婆。その次は、名前を知らない子供を連れた名前を知らない女。


 誰も何を持ってきたとも言わなかった。


 持ってきた者は黙って竈の脇に置いた。持ってこなかった者は、黙って土間の隅に座った。


 戸口の脇の柱に立てかけた看板の前で何人かが足を止めた。


「……宿の看板出てきたのかい」


「出てきたよ」


 ヴェスナが鍋の前から答えた。


「羊だよ」


 訊いた男は白い塊を見て、首を傾げかけた。


 傾けかけて、竈の前のヴェスナの背中を見てやめた。


「……羊だな」


「羊だよ」


 男は頷いて土間の隅に座った。


 トトが竈の脇で肩を震わせていた。


---


 椀は足りなかった。


 宿の土間から掘り出した椀が二つ。欠けた皿が一枚。


 集まってきた者たちがそれぞれ焼け跡から拾ってきた器を持っていた。割れた壺の底。鍋の蓋。自分の掌を合わせて出す者もいた。


 ヴェスナが柄の焼けた柄杓で鍋から豆をすくった。


 一人に一杯。


 すくう前に、ヴェスナは集まった顔を数えていた。


 リュカも数えていた。


 二十三人。


 鍋の豆は一人一杯たぶん足りる。二杯目はない。


「並びな」


 ヴェスナが言った。


「子供から」


 広場の家の子が二人前に押し出された。


 上の子が割れていない椀を受け取った。下の子は欠けた皿を受け取った。


 二人ともすぐには食べなかった。


 湯気の立つ豆をしばらく見ていた。


 それから、上の子が下の子の皿に自分の椀から豆を三粒移した。


 下の子はそれを見て、何も言わずに、食べはじめた。


---


 リュカの番は最後のほうだった。


 宿の者は最後だよ、とヴェスナが言ったからだ。


 割れた壺の底に豆をすくってもらった。


 熱かった。


 指の腹の水ぶくれが壺の縁に触れて、少し痛んだ。


 土間の隅にしゃがんで食べた。


 豆は柔らかかった。割れていなかった。油の匂いがして、干し魚の塩気が少しだけした。


 五日ぶりの煮たものだった。


 ――うまい。


 そう思った。


 思ってからこの豆がイサの袋の最後の一袋だったことを思い出した。ミラの油が母親の分けてしまっていた最後の瓶だったことを思い出した。干し魚が焼け跡から拾ってきたものだったことを思い出した。


 明日の分はない。


 ――うまい。


 それでもそう思った。


 リナンが隣にしゃがんだ。


 手に鍋の蓋を持っていた。蓋の窪みに豆が入っていた。


「……割れませんでした」


「うん」


「急がなかったので」


「うん」


 二人ともしばらく黙って食べた。


---


 ミラは自分の椀を持ったまま、イサの隣にしゃがんでいた。


 イサの手の布を少しだけめくって、下を見ていた。


「乾いてきてる。いい」


「そうかい」


「まだ綱は引かないで」


「引かなきゃ水が出ないだろ」


「今日はリュカが引いた」


 イサは、土間の隅のリュカをちらりと見た。


「……そうかい」


 それだけ言って、椀の豆をゆっくり口に運んだ。


 食べ終わった者から器を持って、帰っていった。


 帰り際に何人かが鍋のほうを振り返った。


 何人かがヴェスナに頭を下げた。


 ヴェスナは誰にも何も言わなかった。鍋の底を柄杓でこそげていた。


 最後に、底に残った割れた豆と煮崩れた魚の欠片をひとすくい。


 それを自分の椀に入れた。


 竈の火はまだ残っていた。


 ヴェスナはその火を見ながら言った。


「明日も煮るよ」


「豆は」


 トトが訊いた。


「ないよ」


「じゃあ何を」


「何かあるだろ」


 ヴェスナは、椀の中身をゆっくり口に運んだ。


「焼け跡を探せば何かある。上から買えるものもある。なけりゃ湯だけ沸かす」


「……湯だけ」


「湯だけでも火は使う。火を使えば火種石が一つ要る。一つで済むなら、一か所で焚いたほうがいい」


 ヴェスナはトトを見た。


「あんたの親方の言うとおりだよ。炭はまとめて焚けってね」


 トトは少しだけ鼻の下を擦った。


「……炉もいつか焚く」


 トトは竈の火を見ながら言った。


「鍛冶場の炉は残ってるんだ。親方が言ったとおり石だから燃えなかった。鞴は燃えたけど鞴は作れる。親方が戻ってきたら」


 そこで言葉が途切れた。


 ザヴは上へ運ばれていった。いつ戻ってくるのか誰も知らない。脚が治るのかどうかも。


「戻ってきたら焚く」


 トトは言い直した。


 ヴェスナは何も言わなかった。


 鍋の底をこそげる手を少しだけゆっくりにした。


---


 日が落ちてからリュカは、宿の前に立った。


 傾いた二階の窓を見上げた。


 リナンの部屋の窓だ。毎晩閉めていた窓。あの夜、開けたまま出てきた窓。


 窓の枠が斜めになっている。


 この五日リナンがときどきその窓を見上げているのをリュカは見ていた。


 見上げてしばらくして目を離す。


 それだけだった。


 部屋に何かあるのか訊いたことはない。


 訊かなかった。


 訊かなくても、見上げているのは分かった。


 リュカは、少しのあいだ窓を見上げたまま立っていた。


 勝手に入っていいのかどうか考えた。


 考えて考えるのをやめた。


 傾いた二階に上がれるのは、この宿でたぶん自分だけだ。ヴェスナは腰が痛い。リナンは見上げて目を離す。


 上がれる者が上がればいい。


 荷と同じだった。担げる者が担ぐ。


 リュカは土間に入った。


 土間の奥の焼け残った西の隅から二階へ上がる階段がある。階段は、傾いた二階と一緒に斜めになっていた。段が途中で東へ下っている。


 足を一段目に載せた。


 きしんだ。


 だが抜けなかった。


 二段目。三段目。


 壁に手をつきながら、斜めの段を一つずつ上がった。


 荷を担いで、崩れかけた石段を上がるときと同じだった。足の裏で確かめてから体重を載せる。


---


 二階の廊下は東へ下る坂になっていた。


 奥の四つの部屋のうちいちばん手前がリナンの部屋だった。


 戸は開いていた。


 中は暗かった。土間の竈の残り火の明かりが階段を伝って、わずかに上がってきているだけだった。


 床が斜めだった。寝台が東の壁まで滑っている。


 寝台の脇に小さな荷があった。


 着替えが二枚。


 それから、布で巻いた細長いもの。


 弓のような形をしていた。片手で抱えられるくらいの大きさ。布の端が何度も継ぎを当てられて、厚くなっていた。


 リュカはそれを両腕で抱えた。


 重くなかった。


 着替えの二枚をその上に重ねた。


 斜めの廊下を戻った。


 斜めの階段を下りた。


---


 土間ではヴェスナが毛布を敷いていた。


 リナンが毛布の端に座って、翼を少し開いたまま、壁に背を預けていた。


 リュカが階段から下りてくるのを見て、リナンが立ち上がりかけた。


 リュカは、抱えていたものをリナンの前に置いた。


 着替えの二枚と布で巻いたもの。


 リナンはそれを見て止まった。


 しばらく何も言わなかった。


 布で巻いたものに手を伸ばした。


 触れる前に、指が一度だけ止まった。


 それから、そっと触れた。


「……ありがとうございます」


 小さな声だった。


「うん」


 リュカはそれ以上何も言わなかった。


 リナンも何も言わなかった。


 どうして自分で取りに行かなかったのか。


 リュカは訊かなかった。


 リナンは、布で巻いたものを膝の上に抱えた。


 ほどかなかった。


 ほどかないまま、両腕で抱えていた。


 ヴェスナが毛布の端を伸ばしながら、ちらりとそれを見た。


 何も言わなかった。


---


 屋根裏に上がった。


 梯子の三段目が鳴った。


 横になって、袋を枕の下に押し込んだ。からからと鳴った。二十三個。


 シャツの胸に手を当てた。


 青い石。七日目。あと三日。


 肌の温度のままだった。


 懐の硬貨を数えた。


 十三枚。


 明日はパンが一つ買える。明後日は買えない。


 荷はまだない。


 ――明日ドランさんに訊こう。


 荷がなくても、何か運ぶものはあるかもしれない。瓦礫でも水でも。


 数えて目を閉じた。


 下の土間から低い音が三つ聞こえた。


 同じ三つが繰り返されていた。


 焼けた次の夜も、この音がしていた気がした。


 はっきりとは覚えていない。


 だが、この音は知っていた。


 ルフがミラの台の上で動きを止めた音だ。


 リュカは目を閉じたまま、それを聞いていた。


 三つ。また三つ。


 今夜ははっきり聞こえた。


 聞こえているうちに眠った。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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