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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 灰は軽く、風に乗る

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灰と、軽さ②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 夜が明けた。


 物置の穴から入る光で分かった。


 子供たちはまだ眠っていた。


 リナンは眠らなかった。眠れなかったのかもしれない。どちらなのか自分でも分からなかった。


 戸の外で足音がした。


 足音のある足音だった。


 戸が少し開いた。


 女の人が顔を覗かせた。この横丁に住んでいる人だと思った。煤で顔が黒い。


「……いた」


 女の人は言った。


「翼の子が子供を連れて横丁に入ってったって、うちの人が。夜中に見たって」


「……はい」


「その子たち広場の家の子だろ」


「たぶん」


「親は」


「……分かりません」


 女の人はしばらく子供たちを見ていた。


 それから、手に持っていた器を差し出した。


 水だった。


「飲ませてやりな。あんたも」


「ありがとうございます」


 女の人は戸口にしゃがんで、リナンの翼を見た。


「それ」


「……はい」


「焼けたのかい」


「はい」


「あんた、飛んだんだって?」


 リナンは器を持ったまま止まった。


「子供二人抱えて、屋根の上まで飛んで、火を越えたって。井戸端でそう言ってるよ」


「……飛んでないです」


 リナンは言った。


「飛んでないです」


 女の人は少し首を傾げた。


「そうかい」


 それから、思い出したように言った。


「そういや石拾いの坊主も、一晩じゅう桶を運んでたってさ。水をこぼさないで走ってたって。明け方に黒い山の上で倒れて、運ばれたって」


 リナンは器を落としそうになった。


「……倒れて」


「寝てるだけだって。井戸の脇で」


「……そうですか」


 行こうと思った。


 井戸端には人が大勢いる。焼けた翼を見られる。飛んだと言われる。


 それに子供たちがまだ眠っていた。


 寝てるだけと女の人は言った。リナンは、その言葉のほうを信じることにした。


 女の人は、飛んだかどうかをそれ以上は訊かなかった。


 訊かなかったことにリナンはほっとした。


 訊かれたら、また同じことを言うしかなかった。飛んでない。飛ばない。


 理由を訊かれたら答えられない。


---


 昼前まで子供たちのそばにいた。


 上の子の腕は朝になって、少し腫れが引いていた。女の人が濡らした布を巻いてくれた。


 下の子は、起きてから一度も泣かなかった。泣かないで、リナンの翼の焦げていないほうの羽を指でつまんでいた。


 遠くで人の声がしていた。


 大勢の声。何かを読み上げているような区切った声。


 何をしているのかは分からなかった。


 横丁の女の人が戸口から言った。


「名前を呼んでるんだよ。広場で。いる者といない者を」


「……」


「あたしはさっき呼ばれた。いるって言ってきた」


 リナンはこの街の住人ではない。


 宿に泊まっているだけの上から来た翼人だ。


 だから呼ばれない。


 呼ばれないことが少しだけ寂しかった。


 寂しいと思ったことに自分で驚いた。


---


 昼を過ぎて、子供たちを女の人に頼んだ。


「ちょっと見てきます」


「どこを」


「……空き地のほう」


 女の人は頷いた。


 横丁を出た。


 空き地に出ると光が眩しかった。


 屋根がなくなっていた。空き地に面して建っていた長屋が黒い低い山になっていた。


 昨夜自分が隠れていた軒は、どこにもなかった。


 山のいちばん西の端のあたりをリナンは、少しのあいだ見ていた。


 それから目を離した。


 空き地の真ん中あたりに誰かが座っていた。


 石垣のそばで膝を立てて。手に何かを握っている。


 外套が焦げていた。靴が焦げて反り返っていた。


 リュカくんだった。


 その向こうに的の杭が三本立っていた。


 毎朝、宿の二階の窓を閉めたまま、あの音を聞いていた。とん。少し間があってまたとん。数えていたわけではないのに、しばらく続いたあと少し長い間があって、杭を拾いに行く足音がするのが分かった。


 今朝は聞こえなかった。


 昨日の朝は聞こえた。


 杭は三本とも、昨日と同じように立っていた。撃つ人が撃たなかっただけだった。


---


 リナンは歩いた。


 足音がいつもより大きい気がした。


 ざっと翼の先が地面を擦る。擦ると焦げたところが引っかかって、少し止まる。止まってまた擦れる。


 宿の階段で毎朝鳴らしていた音だった。


 リュカくんが顔を上げた。


 リナンは、その前で少しだけ立ち止まった。


 何か言おうと思った。


 何を言えばいいのか分からなかった。


 無事でよかったと言いたかった。でも、この人が無事なのかどうか、分からなかった。靴も外套も焦げていて、目の下が黒かった。


 右手の指の二本の腹に白いものが張っていた。水ぶくれだった。一晩じゅう桶を運んでいたと横丁の女の人が言っていた。


 黒い山の上で倒れて、運ばれたって。


 昨夜叫んでいた声を思い出した。


 ここですと言った自分の声が届かなかったことを思い出した。


 口を開いた。


 閉じた。


 それから、何も言わずに、隣に座った。


 二人ともしばらく黙っていた。


 リュカくんが手の中のものを握り直した。からからと小さく鳴りかけて止まった。石の袋だった。鳴らないように、押さえているのだと思った。


---


 言わなければならないことが一つあった。


「子供は二人とも無事です」


「そうか」


「一人は腕を」


「そうか」


「今は」


 リュカくんが訊いた。


「西の横丁の奥の焼け残った物置で寝てます。近くの人が見てくれてます」


 言ってからもう一つ言わなければならないことがあると思った。


「……親御さんは」


 そこで止まった。


 続きを持っていなかった。


 かあちゃんは、と訊いた下の子の声がまだ耳に残っていた。


 リュカくんは訊かなかった。


 続きを待ってもいなかった。ただ、止まったところで止まったままにしてくれた。


「ミラさんが」


 しばらくして、リュカくんが言った。


「見つけたら連れてこいって。翼診るからって」


「……あとで行きます」


「うん」


 それ以上言わなかった。


 行けとも。今すぐとも。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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