そうこの日までは②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
ようやくここから物語が動き出します!
どうストーリーが進んで行くか乞うご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
リュカは路地に立っていた。
どこへ行くかを決めていない。
二度目の光が消えてから、まだ二十も数えていない。
その二十のあいだに、街が変わった。
路地の向こうで、戸が叩かれていた。
誰かが誰かの家を叩いている。何を言っているかは分からない。名前を呼んでいるのかもしれない。
子供の泣き声がした。
女の声が、それを黙らせようとしている。
――静かにさせてる。
理由は分かった。音を出せば見つかる。何が来ているのか分からなくても、それだけは分かる。
どこかで物が割れた。皿か、壺か。
逃げる支度をしていて、落としたのだろう。
あるいは、逃げようとして転んだのかもしれない。
この街の床は平らではない。板が反っている家が多い。夜中に急げば、必ずどこかで躓く。
三番街は狭い。二十三軒が肩を寄せて建っている。
だから音が全部聞こえた。
誰がどこで何をしているか、見なくても分かった。
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隣の家から、男が出てきた。
名前は知らない。顔は知っている。井戸端で何度も見た。荷車を引いている男だ。
手に何か持っていた。棒だ。鍬の柄かもしれない。
男は路地の入り口を見ていた。
リュカもそちらを見た。
何もない。
――何を見てる。
男が一歩、前に出た。
それから止まった。
止まってから、後ろへ下がった。
速かった。前に出るより、下がるほうが速かった。
彼は戸を閉めた。中から音がした。何かを積んでいる。戸の内側に。
リュカはその音を聞いていた。
――閉じこもるのか。
それが正しいのかどうか、分からなかった。
正しいのかもしれない。
だがヴェスナは、まだ外にいた。
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井戸端のほうで、水の音がした。
桶が落ちた音だ。誰かが落としたか、綱が切れたか。
水は貴重だ。この街で桶を落とす者はいない。落とせば汲み直しになる。
それでも落ちた。
綱が井戸の縁で鳴っている。空の桶が、下で揺れているのだろう。
落とした者は、拾いに行かなかった。
――拾わないのか。
それが、いちばん変だった。
この街の人間は、落ちたものを拾う。瓦でも、釘でも、紐の切れ端でも。
拾わないということは、拾えない事情があるということだ。
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最初に見たのは、影だった。
路地の入り口に立っていた。
人の形をしている。背丈はリュカと同じくらい。両腕がある。両脚がある。頭がある。
だが、おかしかった。
どこがおかしいのか、すぐには分からない。
しばらく見て、気づいた。
――関節が、一つ多い。
肘と手首のあいだに、もう一つ曲がるところがある。
腕を下ろしているだけなのに、その形が人のものではない。
他は、人だった。
頭の位置も、肩の幅も、脚の長さも。遠目に見れば、誰かが立っているとしか思わない。
身体に何か巻いている。布のように見えるが、布かどうかは分からない。ぼろぼろで、垂れ下がっている。
着ているのか、生えているのか。
それが歩いてきた。
足音がしない。
石畳の上を歩いているのに、音がしない。
――重くないのか。
後で、それが間違いだと分かる。
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リュカは後ろへ下がった。
ヴェスナの前に。
意識してやったわけではない。気づいたら、そこに立っていた。
「坊主」
「うん」
「中へ」
「婆さんが先だ」
老婆は動かなかった。
影が近づいてくる。
十歩。八歩。
リュカは杭の袋に手を伸ばした。
――ない。
屋根裏に置いてきた。夜中に外へ出るのに、杭を持つ理由がなかった。
懐に手を入れた。
石の袋がある。二十八個。二十八個。
彼は一つ取り出した。
灰色。小さい。重さは大したことがない。
六歩。
――どこを狙う。
溝鼠なら首の付け根だ。動きが止まる。
人なら顔か、膝か。
これは、どちらでもない。
彼は顔を選んだ。
目があるはずの位置。
投げた。
放石。一般技の第一段階で、誰でも使える。石を投げるだけの技だ。
だが三年やっている。狙ったところに当たる。
顔に当たった。
音がした。硬い音だ。石が石に当たったような音。
それは止まらなかった。
顔を背けもしなかった。
――当たったのに。
当たったことは確かだ。石が跳ね返って、石畳に落ちる音がした。
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二つ目を投げた。
今度は喉を狙った。人なら息が詰まる。
当たった。
止まらない。
三つ目。
膝を狙った。人なら崩れる。
当たった。
膝が一度沈んで、すぐ戻った。
――沈んだ。
少しだけ効いた。
痛みではない。物理的に押されて、沈んだだけだ。
だが沈んだ。
当たれば、動く。
石一つでは足りない。もっと重いものなら。
四歩。
――効かない。
三年、溝鼠を五十匹以上仕留めてきた。どこを打てば止まるか、体が覚えている。
その全部が効かない。
痛がらない相手を、止める方法を知らなかった。
――杭なら。
思って、すぐ打ち消した。
杭は屋根裏だ。取りに戻れば、この場を離れることになる。
離れれば、ヴェスナが一人になる。
それに、杭でも同じかもしれない。
石が効かないなら、杭も効かない可能性がある。
――試したことがない。
当たり前だ。試す相手がいなかった。
三年、溝鼠しか撃っていない。
撃てば止まる相手しか、撃ったことがない。
溝鼠なら止まる。人間でも止まる。だがこれは止まらない。
痛がる様子がない。
リュカは横へ動いた。
沈み《ハウ》。気配を消す技だ。石が要らない。三年で第二段階の頂点まで届いている。
影が、彼を追わなかった。
――効いた。
いや、違う。
それはヴェスナのほうへ歩いていった。
最初から、彼を見ていなかった。
---
リュカは走った。
三歩で追いついて、影の腕を掴んだ。
冷たかった。
人の腕ではない。布を巻いた棒のような感触で、体温がない。
引いた。
動かなかった。
――重い。
見た目より、はるかに重い。
彼は足を払った。荷を倒すときと同じ動きだ。重いものは、支点をずらせば倒れる。
三年、木箱を積み下ろししてきた。重心の位置を見る目はある。
影が傾いた。
――倒れる。
倒れなかった。
もう一つ多い関節が、ありえない角度で曲がって、体勢を戻した。
肘と手首のあいだの関節ではない。
膝の下にも、一つあった。
そこが曲がって、支えた。
――関節が多いと、倒れないのか。
支点が増えれば、倒れにくくなる。荷でも同じだ。脚の多い台は倒れない。
当たり前の理屈だった。
だが、それを人の形をしたものに当てはめたことはなかった。
そして振り返った。
顔が近い。
目がなかった。
窪みはある。だが眼球がない。影があるだけだ。
その影が、彼を見ていた。
見ているという感じがした。目がないのに。
――何だ、これは。
三年、この街で見たことのないものだ。
地上層でも、上層でも、見たことがない。
絵でも見ていない。話にも聞いていない。
井戸端では、あらゆる話が回る。上の噂も、下の噂も、三日あれば届く。
こんなものの話は、一度も出なかった。
魔物は知っている。溝鼠、深歯、在来種と呼ばれるもの。全部、獣だ。
これは獣ではない。
人の形をしている。だが人ではない。
人に似せようとして、失敗したような形だった。
――失敗?
そう思った自分に驚いた。
似せようとしたのなら、元になるものを知っていることになる。
何のためにだ。
考えている場合ではなかった。
だが、考えてしまった。
――誰が作った。
作られたものだと、なぜか思った。
生まれたものではない。生まれたものは、もっと理屈が通った形をしている。
溝鼠には溝鼠の理屈がある。狭いところを通るための体で、噛むための歯がある。
これには理屈がない。
関節が一つ多いことに、意味がない。
いや——
倒れにくくなる。
意味があった。
---
腕が振られた。
リュカは見切った。
見切り《サク》。重心で読む。三年で覚えた。
目で追うのではない。肩の入り方と、腰のひねりを見る。
――右から来る。
半歩、左へ。
外れた。
腕が壁に当たって、石が一つ砕けた。
音が遅れて響いた。
――本気で当たったら死ぬ。
壁の石は、拳ほどの大きさだ。それが砕けた。
人の頭に当たれば、同じことになる。
もう一度、腕が来た。
今度は横から。
――読める。
同じ動き方だ。肩から入る。溝鼠とは違うが、法則はある。
法則があるなら、読める。
沈んだ。
沈み《ハウ》。低く構えて、腕の下を抜ける。
抜けた。
背後に回った。
――ここから、どうする。
そこで止まった。
回っても、できることがない。
武器がない。効く攻撃がない。
三年、避けることだけは上手くなった。
当てることは、上手くならなかった。
当てる相手がいなかったからだ。
的は動かない。溝鼠は小さい。
自分より大きくて、痛みを感じないものを、彼は撃ったことがない。
彼は下がった。
三歩。五歩。
影は追ってこなかった。
また、ヴェスナのほうを向いた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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