十日目と、何も③
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
三番街に着いて、坂を下りる途中で鍛冶場の前を通った。
トトが外にいた。桶に水を張って、何かを冷やしている。
「おい」
「なに」
「杭、どうだ」
リュカは袋を下ろした。
「折れてない」
「何本撃った」
「巻き直してから、五日で六百本」
「折れてないのか」
「一本も」
トトが手を止めた。
「六百で一本もか」
「一本も」
男は桶から金物を出して、布で拭いた。
「前は三十本に一本だったろ」
「そうだ」
「じゃあ二十本は折れてるはずだ」
「折れてない」
トトはしばらく黙っていた。
それから、少し笑った。
「俺、上手いな」
「上手い」
「言えよ、そういうのは」
「言った」
「もっと早く言え」
彼は金物を作業台に置いた。
「あと五百本くらい撃ってみろ。千で何本折れるか数えろ」
「数える」
「数えるだろうな、お前は」
トトは笑った。
それから、作業台の上を顎で示した。
「それ、見てけよ」
台の上に、細い金物が並んでいた。
針のような形をしている。長さが揃っていない。
「なんだこれ」
「針だ。薬房に頼まれた」
「ミラさんに?」
「そう。前に、獣の喉から石を取り出しただろ」
リュカは覚えていた。ルフのときだ。
「あのとき、俺が井戸端で曲げた針を使った」
「使った」
「あれが使いやすかったらしい。だから何本か作ってくれと」
トトは針を一本つまんだ。
「鉤の角度を変えて、五本作った。どれが使いやすいか試すんだと」
「五本も」
「五本だ」
彼は針を置いた。
「どれが正解か分からんから、五本作る。そういう仕事だ」
リュカは針を見た。
五本。角度が少しずつ違う。
一本が正解で、四本は外れるかもしれない。
――同じだ。
二十八個。どれが正解か分からないから、全部試す。
だが彼のは一つずつだ。十日かけて、一つずつ。
五本まとめて作れるトトのほうが、速い。
「上手いな」
「言えよ、そういうのは」
「言った」
「二度目だ」
トトは笑った。
リュカは坂を下りた。
三番街に着いたのは、日が傾く前だった。
詰所でドランに木札を渡す。
「三つ」
「三つだ」
男は日当を数えた。四十シャルド。
「ドランさん」
「なんだ」
「綱、低かったです」
「差したからな」
「切れる前も低いって言いましたよね」
男が手を止めた。
「言った」
「区別、つきますか」
「つく」
ドランは綱に手を当てた。
「油の低さは、全体が低い。緩んだ低さは、一部だけ低い」
「一部」
「切れかけてるところが、そこだけ違う音を出す」
彼は手を滑らせた。
「だから手繰る。全部触れば分かる」
「音じゃなくて、手で」
「両方だ」
男は手を離した。
「音で当たりをつけて、手で確かめる」
リュカは綱を見上げた。
三年、音だけ聞いていた。触ったことはある。だが確かめるために触ったことはない。
「今日は、触りましたか」
「触った」
「どうでした」
「問題ない」
ドランはあっさり言った。
「明日も触る。毎日触る」
それから、少し間があった。
「三年前は、触らなかった」
リュカは黙った。
「音で低いと分かってた。だが触らなかった。明日でいいと思った」
男は工具箱を引き寄せた。
「それだけの話だ」
---
「坊主」
「はい」
「今日、練習の音が違ったな」
リュカは顔を上げた。
「聞こえるんですか」
「坂の上まで聞こえる。三年聞いてりゃ分かる」
ドランは油壺の蓋を確かめた。
「いつもより丁寧だった」
「……そうですか」
「何かあるのか」
「ないです」
男はそれ以上訊かなかった。
「そうか」
だが潜りかけて、手を止めた。
「坊主」
「はい」
「明日、荷が多い」
「いくつ」
「八だ」
リュカは顔を上げた。
「八?」
「上が動かしたがってる。星降りが近いからな」
ドランは綱を見上げた。
「二往復だ。朝に四つ、昼過ぎに四つ」
「夕方には終わりますか」
「終わる。日が落ちる前には戻れる」
「分かりました」
「日当は五十出す」
「はい」
「早く寝ろ」
「はい」
男は籠の下に潜った。
それから、下から声がした。
「あと二日か三日だろうな」
「何がですか」
「星降りだ」
工具の当たる音が響いた。
「上の連中が急いでるってことは、そういうことだ」
リュカは綱を見上げた。
三年、毎年この時期が来る。そして毎年、彼は行かない。
運賃が四百シャルドだからだ。
「ドランさん」
「なんだ」
「浮島、行ったことありますか」
音が止まった。
「ある」
意外だった。
「いつですか」
「若いころだ」
男は這い出てこなかった。声だけが下から聞こえる。
「一度だけな。見に行った」
「拾えましたか」
「拾えた」
「当たりましたか」
「外れた」
工具の音が再開した。
「四百出して、外れだ」
リュカは何と言っていいか分からなかった。
「それきり行ってない」
「……そうですか」
「だが」
ドランの声が少し変わった。
「見たのは、よかった」
「何が見えるんですか」
「教えん」
男は即答した。
「自分で見ろ」
---
薬房の前を通ったとき、戸が開いた。
ミラが出てきた。前掛けが緑に染まっている。
「あ、石拾いの」
「リュカです」
「知ってる」
彼女は笑った。
「ルフ、どう」
「食ってます」
「角のないやつ選んでる?」
「選んでます」
「偉い」
ミラは戸口に寄りかかった。
「あんた、今日なんか変よ」
リュカは足を止めた。
今日、同じことを三回言われた。リナン、受け渡しの男、そしてミラ。
「なんでみんな分かるんですか」
「分かるわよ」
彼女はあっさり言った。
「顔じゃなくて、歩き方」
「歩き方」
「いつもより速い。急いでないのに速い」
リュカは自分の足元を見た。
「薬師は歩き方を見るの。痛いところがあると、すぐ分かる」
「痛くないです」
「痛くないのは分かってる」
ミラは腕を組んだ。
「痛くないのに速いから、変なのよ」
リュカは答えられなかった。
「言いたくないなら、いいけど」
「……石が、今日で十日目です」
「ああ」
彼女は納得した顔をした。
「外れる日?」
「たぶん」
「まだ分からないでしょ」
「分かります」
「そう」
ミラは戸口の内側へ戻りかけて、振り返った。
「外れたら、教えて」
「なんでですか」
「記録しとくの」
彼女は前掛けで手を拭いた。
「うちは薬の効き目を全部書いてる。効いたのも、効かなかったのも」
「効かなかったのも?」
「そっちのほうが大事よ」
ミラは戸に手をかけた。
「効かなかった記録がないと、同じことを繰り返すから」
リュカは戸口を見た。
中に棚がある。壺と瓶と、束ねた草。壺には読めない字が書いてある。
あれが記録なのかもしれない。
「字は」
「書ける」
ミラはあっさり言った。
「母親に習った。うちは薬師だから、書けないと困る」
「この街で、書ける人はどれくらい」
「少ないわよ」
彼女は指を折った。
「うちと、ザヴさんと、ドランさんくらいかしらね。あとは読めるけど書けないか、両方だめか」
リュカは自分の手を見た。
書けない。
読むのは、荷札の分だけできる。地名と数字だ。三年で覚えた。
だが覚えているのは形で、字として読んでいるわけではない。「アステル区」は三つの形の並びで、意味は知っているが一字ずつは分からない。
知らない言葉が出てくれば、読めない。
「……俺、書けないです」
「知ってる」
「なんで」
「荷札、地名と数のところしか見てないでしょ」
ミラは笑った。
「見てれば分かるわよ」
リュカは自分の袋に手を当てた。
二十七個。どれも効かなかった。
――記録してない。
いつ拾ったかも覚えていない。どこで拾ったかも半分は忘れている。
同じことを繰り返している。
「……書いてないです」
「知ってる」
ミラは笑った。
「だから言ったの」
戸が閉まった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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