誰もが信じて疑わない②
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
空き地の隅に、崩れた石垣がある。
もとは家の基礎だった部分らしい。半分が崩れて、土が露出している。
昨日の雨で土が流れて、崩れた面が新しくなっていた。リュカはしゃがみ込み、指で土をかいた。
こういう場所に、たまにある。
理屈は分かっていない。だが雨の翌日、崩れた面には何かが出る。雨が土を洗って、重いものが下に残るからだろうと思っている。
掘るのは指だけだ。道具は使わない。道具を使うと、掴む感触が分からなくなる。
爪の間に土が入る。冷たい。指の腹で押して、粒があれば拾い上げる。
三つ出てきた。
一つ目は白っぽい石英。よくある。日に透かすと向こうが見える。こういうのは宿らない。
二つ目は角の取れた砂利で、これは石とも呼べない。川か水路を長く流れてきたものだ。
三つ目で、指が止まった。
親指の先ほどの、灰色の小石。何の変哲もない。だが濡れた土の中で、断面が少しだけ光を返した。曇りガラスのような、鈍い光り方だった。
リュカは指の腹で泥を拭った。
光は消えなかった。
角度を変えてみる。正面からだと見えない。斜めにすると、内側の一点だけが光る。
――中に何かある。
そう思った。だがこれまでも何度もそう思った。二十いくつの石のうち、半分以上は同じように光っていた。
残りの半分は、光ってすらいない。それでも拾った。
懐から布袋を出す。杭とは別の、拳ほどの小さな袋だ。口を開けると、中で石同士がぶつかって鳴った。
からから、と。
この音を、リュカは知りすぎている。
中には二十いくつの石が入っている。数えてはいない。数えると、袋の重さが意味を持ってしまう気がする。
どれも宿らなかった石だ。
石は、身につけていれば分かる。適合すれば体内に沈む。手の甲だったり、胸だったり、喉だったり、場所は人による。沈んだ石は二度と外から見えない。持ち歩く必要がなくなる。
だから――適合した者は、袋を持たない。
市場でも、袋を持った人間は珍しい。買うか、宿すか、どちらかだ。買った石は懐に一つ入れておけばいい。宿った石は見えなくなる。
二十いくつを持ち歩く理由がない。
リュカは持っている。ずっと持っている。
十日、身につける。何も起きなければ袋に移す。それで外れと決める。
外れた石は、本当なら捨てるべきだった。
捨てられない石が、袋の中で二十いくつになっている。
新しい灰色の石を、シャツの内側の小さな布ポケットに入れた。
ここが試す場所だ。肌に近いほうがいいと聞いたことがある。誰から聞いたかは覚えていない。市の売り子かもしれないし、井戸端の誰かかもしれない。
ポケットは自分で縫った。縫い目が粗い。三年で二度作り直している。石が擦れて布が薄くなるからだ。
今日から十日。
そして袋を開け、中から一つ、青みがかった石を取り出した。もう十二日、袋の中にあるやつだ。
朝の光にかざす。透けない。ただの石だ。
でも、この青は綺麗だと思う。
袋の中の石は、どれも十日ぶんだ。二十いくつあるから、合わせて二百日以上。
だが拾いはじめてからは、もっと長い。
三年。千日以上ある。
その全部で試したわけではない。拾えない日もあるし、試している石が外れるまで次に移れない。試した数と、経った日数は合わない。
そう考えたことは、一度もなかった。
――数えてない。
そうだ。数えていない。数えないようにしている。
杭は数える。歩数も数える。日当も数える。だが外れた日数だけは数えない。
リュカは石を空き地の隅に置いた。
捨てる、というより、置く。土に還すような手つきになる。自分でも間抜けだと思う。
置く場所も決まっている。石垣の根元、南側。日が当たる場所だ。捨てるなら暗いところでもいいのに、明るいほうを選んでいる。
置いて、二歩歩いて、戻った。
拾って、袋に入れた。
……また増えた。
結局、この袋から何かが減ったことは一度もない。
リュカは袋の口を絞り、懐に押し込んだ。
からから、と鳴った。
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三番街の角に、《綿羊亭》という古い宿がある。
名前の由来は誰も知らない。羊は天空国にはいない。看板の絵はとうの昔に剥げて、今は白い塊のようなものが描かれているだけだ。
建物自体は三階建てだが、三階は使っていない。床が抜けているらしい。二階に四部屋、一階が土間と台所。屋根裏に人が一人入れる隙間がある。
その屋根裏に、リュカは三年住んでいる。
宿代は取られていない。代わりに水を汲み、荷を運び、たまに屋根を直す。
その塊の下で、ヴェスナが箒を使っていた。
「おはよう」
リュカが声をかけると、老婆は手を止めずに顔だけ上げた。
「坊主」
彼女はリュカを名前で呼ばない。三年、一度も。この街の人間の半分くらいは似たようなもので、名前より先に「あの荷運びの」とか「石拾いの」とかが来る。
「今日も早いね」
「練習してた」
「そう」
毎朝、同じやりとりをしている。
ヴェスナは「そう」としか言わない。上手くなったかとも、何のためかとも訊かない。三年、一度も訊かなかった。
訊かれないので、答えたこともない。
ヴェスナは箒を石畳の隙間に差し込み、詰まった煤を掻き出した。腰は曲がっているが、手つきは若い者より正確だ。
この掃除は、宿のためではない。路地全体を掃いている。誰にも頼まれていない。
一度訊いたことがある。なぜ自分の店先だけにしないのか、と。
「隣が汚けりゃ、うちも汚く見えるだろ」
それが答えだった。
それから、リュカの懐に目をやった。
「――まだ拾ってるのかい」
その声の色を、リュカは知っている。
叱っているわけではない。呆れているのとも少し違う。もっと厄介なやつだ。
憐れみ、というやつだ。
「うん」
「そうかい」
ヴェスナは何も言わなかった。言わずに、また箒を動かした。
この街の大人はみんなそうだ。適合しなかった子供が、それでも石を探し続けている。そう見えている。あと二年もすれば諦めるだろう、と思っている。優しさで、何も言わない。
一度だけ、訂正しようとしたことがある。
二年前、ヴェスナに「まだ拾ってるのかい」と言われたとき、「適合したいわけじゃない」と言いかけた。
だが途中でやめた。
――じゃあ何なんだ。
自分でも、続きが出てこなかった。
リュカは訂正したことがない。
説明したところで、たぶん伝わらないからだ。
一度だけ試したことがある。二年前、ドランに。
「なんで拾うんだ」と訊かれて、「綺麗だから」と答えた。
ドランは「そうか」と言って、それきり何も訊かなかった。
通じたのか、呆れたのか、分からない。
――綺麗だから拾っている、と言って、納得する大人はいない。
「昔もいたよ」
箒が止まった。
「そういう子が」
リュカは顔を上げた。ヴェスナは看板の白い塊を見上げていて、こちらを見ていない。
「誰?」
「さあねえ」
老婆は、それきり掃きはじめた。石畳を擦る音が、朝の路地に規則正しく響く。
この話はこれで終わりだ。
何度目かは覚えていない。数えていない。数えるほど何度も言われている。
ヴェスナは時々こういうことを言って、続きを話さない。惚けているのだとみんな言う。
リュカも、そう思っていた。
だが「昔もいた」という言い方だけは、少し引っかかっていた。
いた、という過去形。
その子がどうなったのかを、彼女は言わない。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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