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星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 油の匂い、朝の匂い

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2/161

誰もが信じて疑わない①

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 シャルディアの朝は、油の匂いから始まる。


 正しくは、油と煤の匂いだ。灯りを消したあとに残る匂い。夜通し点していた家が、朝になって吹き消す。その煙が路地に溜まる。


 風が抜ければ消えるが、三番街は建物が詰まっているので抜けない。昼まで残る日もある。


 夜通し灯していた油皿を、どの家も日の出前に吹き消す。三番街の路地には、その煤けた匂いが薄く層になって残っていた。三十歩も歩けば鼻が慣れる。慣れてしまえば、もう匂いだと思わなくなる。


 上を見上げれば、雲の代わりに街がある。

 摩天楼の腹だ。アステル区の底板が、蓋のように空を塞いでいる。あちらの通りには灯柱《ルミナ》が等間隔に並んでいて、夜でも昼のように明るいのだという。話に聞いただけだ。リュカは見たことがない。


 石の光は、上から順に配られる。下まで届く頃には何も残っていない。

 だからシャルディアは油を焚く。だから朝は油の匂いがする。


 小銭の街。そう呼ばれている。

 シャルドという通貨の名と、この街の名は同じ語からきているらしい。欠片、という意味だと誰かが言っていた。褒め言葉ではないことだけは分かる。


---


 リュカが屋根裏の梯子を降りるころ、路地はまだ半分暗かった。


 宿の一階に灯りがある。ヴェスナが湯を沸かしている。彼女は毎朝、日が昇る前に起きる。三十年そうしているらしい。


 リュカは台所の水瓶から柄杓一杯だけ飲んで、外に出た。


 冷たい。空層の朝は、季節を問わず冷える。


---


 路地を抜けた先の空き地に、リュカは立った。


 空き地といっても、元は家が三軒あった場所だ。十年ほど前に焼けて、そのまま誰も建て直さなかった。


 焼けた理由は、火の不始末だと聞いている。油皿を倒したのか、種火が飛んだのか。そういう火事は三番街では珍しくない。石畳の下に礎石が残っていて、雨の日は水が溜まる。


 ここを使っているのは彼だけだった。子供が遊びに来ることはあるが、朝は来ない。


 背丈ほどの木杭が三本、地面に打ってある。標的だ。三年前に自分で立てた。


 投槍器を拾ったのが先だった。市の裏手に落ちていた。革が切れていたので、誰かが使えなくなって捨てたのだろう。


 革を直したが、使う当てがなかった。杭が買えなかったからだ。


 その半月後に、ドランに「働くか」と訊かれた。


 日当が入るようになって、最初に買ったのが杭だった。五本。二十五シャルド。


 そこから始めた。


 最初は的が一本だけだった。二十歩。半年経って二本目を足し、さらに半年で三本目を立てた。


 今の三本は二代目だ。一代目は雨と杭で傷んで、去年の秋に立て直した。


 二十歩、三十五歩、五十歩。距離は歩数で測った。歩幅は毎回同じにしている。荷を担いだときと、担いでいないときで変わらないよう、意識して揃えた。


 三本とも上部が削れている。杭が当たった跡だ。同じ場所ばかり当たるので、そこだけ窪んでいる。一番手前が二十歩、次が三十五歩、奥が五十歩。歩数は毎朝数え直している。土が乾けば縮み、雨が続けば伸びる。誤差は歩幅にして半歩ほど。


 肩から下げた革帯を外し、投槍器《ペルカ》を手に取った。


 革は自分で張り直した。二度張り替えている。


 握りの部分が、手の形に凹んでいる。三年握って木が減った。新しい者が握れば滑るはずだ。

 木と革でできた、ただの狩猟具だ。腕の延長になる細長い板に、杭の尻を引っ掛けて振る。それだけの道具。誰でも撃てる。だから誰も極めない。


 布袋から杭を出す。細い鉄芯に木を巻いた、指二本分の太さの棒。一本五シャルド。

 数えた。四十本。


 昨日と同じだ。折れたのが一本あったが、鍛冶場の親父が芯だけ抜いて巻き直してくれた。手間賃は取られなかった。代わりに荷を一つ余計に運んだ。


 リュカは足を開き、風を測る。

 路地から吹き上がってくる風は朝のうちは弱い。だが三番街は建物の隙間が狭いので、抜けるところだけ速くなる。二十歩の的の手前、ちょうど物干し綱が渡っている辺り。あそこで一度、横に押される。


 半歩分、右へずらして構えた。


 振る。

 杭が空を裂き、二十歩先の的に浅く刺さった。中心から指一本、右。


 押し戻されすぎた。風が昨日より弱い。

 もう半歩戻す。振る。中心。


 三十五歩。ここは風の影響がほとんどない代わりに、落ちる。腕の振りの終わりを、わずかに上へ逃がす。振る。刺さる。中心から指半分、下。悪くない。


 五十歩。

 この距離は、まっすぐ当てようとすると届かない。腕の力だけでは足りないからだ。だからリュカは狙わない。的の一歩手前の地面を狙う。


 振る。杭は地面すれすれで角度を変え、跳ねて、的の根元に刺さった。


 跳弾。地面が乾いているときにしか使えない。雨の翌日は土が食う。

 三日晴れが続いた。今日は使える。


 リュカは的まで歩いていき、杭を一本ずつ抜いた。


 抜き方がある。まっすぐ引くと的の木が裂ける。少し回しながら抜くと、穴が広がらない。三本とも同じようにやる。


 抜きながら数えた。

 三本。手元に三十七本。


 次の三本を撃つ。二十歩、三十五歩、五十歩。また拾いに行く。


 これを十三回繰り返すと、四十本を撃ち終わる。一本余るので、最後は二十歩だけもう一度撃つ。


 走る距離は、合わせて千歩を超える。撃つより、走っているほうが長い。


 ――それでいい。


 撃つだけなら誰でもできる。拾って、数えて、また撃つ。続けられるかどうかだけが違う。


 これを、朝のうちに三度繰り返す。四十本を撃って、四十本を拾う。撃ったら走って拾いに行く。


 二巡目の途中で、汗が出てきた。


 息が上がるのは、撃つからではない。走るからだ。三年やっても、ここは慣れない。慣れたのは走ることではなく、息が上がっても数を間違えないことのほうだった。


 三巡目の五十歩を撃ち終えたとき、日が屋根の上まで昇っていた。


 当たり前のことだ。当たり前だが、この当たり前がなくなる日が来るとは、このときのリュカは考えたこともなかった。


 最後に一本、足元に落ちていたのを拾い上げて、袋に戻した。

 四十本。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
なんでしょう。語彙力がなくて上手く伝えられないのですけど、この回、めっちゃくちゃ好きです。的を狙って撃って拾いに行って、をすぐそばで一緒に見させてもらってるような。好き。なんだこれ。
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