光と、油③
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
地上層には灯柱がない。
代わりに、天井から光が落ちてくる。
空層の底に隙間があって、そこから日が差す。時刻によって差し込む場所が変わるので、市の店は日の動きに合わせて移動する。
朝は東側、昼は中央、夕方は西側。
店が動く。客ではなく店が動く。
三年見ていて、最初は不思議だった。日が当たる場所が変わるなら、客が動けばいい。
だが違う。
店が動くのは、光のある場所で品物を見せたいからだ。暗いところに置けば、同じ野菜でも色が悪く見える。
だから店が動く。
リュカが着いたのは昼過ぎだったので、市は中央に集まっていた。
台がずらりと並んで、その上に光が落ちている。
空層の底の隙間から、帯状に。
彼は籠を待つ間、市を歩いた。
石屋の前で立ち止まる。癖だ。
「兄ちゃん」
店主が声をかけてきた。年配の男だ。
「見るだけです」
「知ってる」
男は笑った。今日は笑った。
「今日は何も言わんのか」
「何をですか」
「前に、なんで売れるんだって訊いたろ」
半月ほど前のことだ。リュカは覚えていた。
待てないからだ、と男は答えた。拾うのは時間がかかる。買えば今日手に入る。金のあるやつは、時間を買ってる。
「……あれから考えました」
「ほう」
「俺は、時間があるから拾えるんだと思いました」
店主が台を拭く手を止めた。
「なんだそりゃ」
「金がないので、時間を使うしかない」
「まあ、そうだな」
「でも」
リュカは台の石を見た。並んだ値札。一ステラから。
「時間がなくなったら、拾えなくなる」
男はしばらく黙っていた。
それから、台の布を直した。
「そうだな」
「……はい」
「だが兄ちゃん」
「はい」
「時間は、なくならんよ」
「え」
「減るだけだ。ゼロにはならん」
男は石を一つ、指で押して並びを整えた。
「なくなるのは金だ。時間は減るだけで、最後まで残る」
リュカは何と答えていいか分からなかった。
「……そうですか」
「そうだよ」
男は笑った。
「だから拾え。買うより時間はかかるが、なくならん」
リュカは台の石を見た。
三十ほど並んでいる。大きさ順。値札は一ステラから。
「おじさん」
「なんだ」
「ここの石、どこから来るんですか」
男は手を止めた。
「上からだ」
「浮島で拾ったやつですか」
「そうだ。上の連中が拾って、鑑定して、外れたのが流れてくる」
「外れた?」
「鑑定で値がつかなかったやつだ」
男は台を拭いた。
「上の鑑定所は等級しか見ない。等級がつかんものは、まとめて下に流す」
「じゃあ」
リュカは並んだ石を見た。
「ここにあるのは、全部外れですか」
「そうは言っとらん」
男は布を絞った。
「等級がつかなかっただけだ。宿るかどうかとは、別の話だ」
「違うんですか」
「違うと思ってる」
彼は肩をすくめた。
「思ってるだけだがな。証明はできん」
リュカは石を見た。
等級がつかなかった石。だから下に流れてきた石。
自分が土から掘り出す石と、どこが違うのか。
――違わないのかもしれない。
どちらも、誰かが「値がつかない」と決めたものだ。
片方は鑑定所が決めて、片方は誰も見ていない。
「おじさん」
「まだあるのか」
「拾った石を、ここで売れますか」
男が顔を上げた。
「鑑定したのか」
「してません」
「じゃあ売れん」
「なんでですか」
「未鑑定のものは、鑑定所を通したものしか扱えん。決まりだ」
彼は台の隅を指した。
小さな木札が立っている。字が書いてあるが、リュカには読めない。
「これが許可証だ。これがないと売れん」
「じゃあ、拾った石はどうするんですか」
「自分で持っとくしかないな」
男は笑った。
「売れんなら、拾う意味がないと思うか」
「……」
「兄ちゃんは、売るために拾ってるのか」
リュカは首を横に振った。
「じゃあ問題ない」
---
籠が来た。
荷はない。空で上がる。
空の籠は速い。重さがないので、綱の張りが違う。音も違う。高くもなく、低くもない。
リュカは床に座って、壁を見ていた。
――時間は、減るだけ。
言われてみればそうだ。
三年で二十七個。一年で九個。一日で〇・〇二五個。
計算しても意味がない。だが計算した。
このまま行けば、十年で九十個。二十年で百八十個。
――百八十個。
そのうち一つも宿らなかったら。
考えて、やめた。
考えても答えが出ない。答えが出ないものを考えるのは、時間の無駄だ。
時間は減るだけで、なくならない。
だが減る。
彼は袋を出して、掌に空けた。
籠の中は薄暗い。壁の隙間から光が入るが、石の色までは見えない。
形だけを指で確かめる。
角の取れたもの。尖ったもの。平たいもの。丸いもの。
――全部、覚えてる。
いつ拾ったかは覚えていない。だが形は覚えている。手が覚えている。
目をつぶって一つ取り出せば、どれかは分かる。
試してみた。
掌から一つ選んで、握る。角が二つ。片方が欠けている。
――赤いやつ。
光にかざす。赤かった。
当たった。
誰にも言わなかったが、少し嬉しかった。
---
三番街に戻ったのは、日が傾いてからだった。
詰所でドランに木札を渡した。五枚。
「全部か」
「全部です」
「早いな」
「空で上がったので」
男は日当を数えた。四十シャルド。
「坊主」
「はい」
「綱、どうだった」
「高かったです」
「だろうな」
ドランは油壺を出した。
「明日、また差す」
「三日しか保たない」
「保たん」
男は蓋を開けて、中を見た。残りが少ない。
「油が高くなってる。星降りが近いからな」
「買えますか」
「買う。買わなきゃ切れる」
彼は蓋を閉めた。
「切れたら、何もかも止まる」
リュカは綱を見上げた。
三年前、一度切れた。夜中で、誰も乗っていなかった。
――低かったのに、明日でいいと思った。
昨日、この男はそう言った。
「ドランさん」
「なんだ」
「油、俺が買ってきましょうか」
男が手を止めた。
「なんでだ」
「明日、遅れると困るので」
ドランは彼をしばらく見ていた。
それから、懐から硬貨を出した。
「五十だ。足りなきゃ言え」
「はい」
「坊主」
「はい」
「気が利くようになったな」
褒め言葉だった。三年で二度目だ。
一度目は、二年前の冬だった。
その日、荷が二十三あった。星降りの直前で、上も下も動かしたがった。ドランは一人で綱を回し続け、リュカは一人で積み下ろしをした。
終わったのは夜だった。
男は日当を渡して、それから「よくやった」と言った。
それだけだ。
だがリュカは覚えている。三年で、褒められたのはその一度きりだった。
――二度目が今日か。
油を買いに行くと言っただけだ。大したことではない。
だが言われた。
「ドランさん」
「なんだ」
「三年前、綱が切れたとき」
男の手が止まった。
「誰も乗ってなかったって聞きました」
「聞いたのか」
「昨日、そう言ってました」
「言ったな」
ドランは油壺の蓋を閉めた。
「乗ってなかった。夜中だ」
「よかったですね」
「よかねえよ」
同じ答えだった。
「乗ってたかもしれねえんだ」
「はい」
「その日の夕方、俺は最後の荷を上げた。運んだのは俺じゃない。前の坊主だ」
リュカは顔を上げた。
「前の」
「お前の前に雇ってた奴だ。十七だった」
男は工具箱を引き寄せた。
「その日の夜に綱が切れた。朝まであと六時間だ」
「……」
「六時間ずれてたら、あいつが乗ってた」
ドランは蓋を開けて、中を見た。
「そいつは、それから二月で辞めた」
「切れたから?」
「知らん。理由は言わなかった」
男は工具を一つ取り出して、布で拭いた。
「だが辞めるとき、こう言った」
「なんて」
「『次は自分かもしれないと思うと、乗れない』」
リュカは籠を見た。
鉄の籠。三年乗っている。何百回か、数えていない。
「俺は乗ります」
「知ってる」
「怖くないわけじゃないです」
「そうだろうな」
ドランは工具を戻した。
「だから油を買いに行くんだろ」
リュカは答えなかった。
答えが見つからなかった。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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