↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降譚―STELLA NOMINA―  作者: うめこまち
第一部 油の匂い、朝の匂い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/165

光と、油②

只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ


今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!


現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!

残すは5、6、7部。

先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)


皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!

 下りの荷を受け取るまで、小半時ある。


 リュカは受け渡し場の外へ出た。


 アステル区の通りは広い。石畳が揃っていて、割れているところがない。三番街とは別の街だ。同じ国で、同じ層なのに。


 通りを歩く人間の数も違う。


 三番街は朝と夕方に人が出て、昼はほとんど歩いていない。仕事に行っているからだ。


 ここは昼が一番多い。


 しかも急いでいない。歩く速さが揃っていない。立ち止まって話している者がいる。店の前で品物を見ている者がいる。


 ――時間があるんだな。


 石屋の男の言葉を思い出した。金のあるやつは、時間を買ってる。


 だとすれば、この通りを歩いている人間は、時間を買った側だ。


 買った時間で、何をしているのか。


 見たところ、歩いている。


 灯柱の根元に、白っぽい衣の男がいた。


 昨日も見た男だ。灯柱に触れながら歩いていく。触れると、光が少しだけ強くなる。


 リュカは立ち止まって、それを見ていた。


 男が気づいて、会釈をした。


 今日は、会釈を返さなかった。


 代わりに、近づいた。


「あの」


「はい」


 声が思ったより高かった。若いのかもしれない。だが顔を見ても年齢が分からない。


「それ、何をしてるんですか」


 男は手を止めた。


「灯柱の手入れです」


「触るだけで?」


「触るだけです」


 彼は次の柱に手を当てた。光が強くなる。


「循環石は、星の光で満ちます。ですが埃が積もると、入りが悪くなる」


「拭くんですか」


「拭きません。触ると分かるんです。どこが詰まっているか」


 リュカは自分の手を見た。


 昨日、同じことをした。触ったが、何も分からなかった。明るさも変わらなかった。


「……俺がやっても、変わらなかった」


 言ってから、余計なことを言ったと思った。


 だが男は驚かなかった。


「そうでしょうね」


「なんでですか」


「さあ」


 彼は肩をすくめた。


「私は、そう教わっただけです。理由は知りません」


「誰に教わったんですか」


「親に」


 あっさりした答えだった。


「親も、そのまた親も、同じことをしていました」


「ずっと灯柱を?」


「ずっとです」


 男は次の柱に手を当てた。光が強くなる。


「この区画に、三百本あります。一日で回りきれないので、三日かけます」


「三日」


「ええ。回り終えたら、また最初から」


「終わらないんですか」


「終わりません」


 彼は少し笑った。笑うと年齢が近く見えた。


「終わったら、仕事がなくなりますから」


 リュカは自分の袋に手を当てた。


 からから、と鳴りかけて、止めた。


 ――終わらないほうがいい仕事。


 石を拾うのも、たぶんそうだ。


 見つかったら、終わる。


 それきり、男は次の柱へ歩いていった。


 リュカはしばらくそこに立っていた。


 ――さっきの人は、変わってた。


 昨日もそう思った。そして気のせいだと打ち消した。


 今日は打ち消さなかった。


 だが、考えても分からなかった。


 彼は灯柱に、もう一度だけ手を当てた。


 温かくもなく、冷たくもない。


 手を離す。明るさは変わらない。


 ――変わらない。


 それが普通なのかもしれない。あの男が特別なだけで。


 だが、あの男は「そう教わった」としか言わなかった。特別だとは思っていない。


 親も、そのまた親も、同じことをしていた。


 ――家で継ぐのか。


 昨日、上の連中が言っていたことを思い出した。


 わたしたちは継いだ。あなたは拾った。制度は、継いだほうしか数えない。


 あの男も、継いだ側なのだろうか。


 灯柱に触れることを。


 リュカは手を下ろして、籠へ戻った。


---


 下りの荷は二つだった。


 どちらも軽い。布と紙束だ。紙束のほうは、荷札に「地上層・窯元」と書いてある。


 リュカは積んで、縄を掛けた。二つなら縄は一本でいい。


 籠が下がりはじめる。


 光が減っていく。灯柱の列が上へ流れて、消える。


 中層。継ぎ接ぎの壁。


 ――ここから先は、油だ。


 匂いが変わる直前に、籠が三番街の高さを通る。


 壁に開いた通風口から、一瞬だけ街が見える。


 瓦の並び。物干し綱。井戸端の屋根。


 速度があるので、二つ数える間に消える。


 瓦の色で季節が分かる。乾いていれば晴れが続いている。黒ければ雨の翌日だ。


 それでも毎回、そこを見てしまう。


 自分の住んでいる街を、横から見る機会は、この一瞬しかない。


 ――今日は、洗濯物が出てる。


 誰の家かは分からない。だが白いものが二枚、揺れていた。


 消えた。


 匂いで分かる。煤と、燃えた油。三番街の匂い。


 だが籠は止まらない。三番街を通り過ぎて、さらに下へ行く。


 地上層まで、あと小半時。


---


 地上層の受け渡し場は、湿っていた。


 天井が低く、木の梁で組んである。壁に苔がついている。


 二つを下ろすと、いつもの岩人がいた。


「二つ、確かに」


「はい」


「今日は軽いな」


「軽いです」


 男が荷札に印を押した。


 印は二つ押す。一つは受け取りの証、もう一つは日付だ。


 日付の印は毎日替える。木の駒を差し替える仕組みで、朝いちばんに誰かが替える。


 リュカは一度、替え忘れた日を見たことがある。前日の日付のまま押された木札を、ドランに渡した。


 男は何も言わずに受け取った。


 「これ、日付が違います」と言うと、「知ってる」と返された。


 ――知ってて受け取るのか。


 そう訊くと、こう言われた。


 「荷は届いてる。紙が間違ってるだけだ」


 それ以来、日付は見ていない。


 リュカは木札を受け取って、袖に挟んだ。


 いつも通りだ。


 三年、同じやりとりをしている。


 彼は一度、口を開きかけた。


 そしてやめた。


 上でもやめたのに、ここでやれるはずがなかった。


 だが、岩人のほうが先に言った。


「兄ちゃん」


「はい」


「名前、なんて言うんだ」


 リュカは顔を上げた。


「……リュカです」


「そうか」


 男は木札を数えながら言った。


「俺はバルだ」


「バルさん」


「さんは要らん」


 それだけだった。


 男は次の荷の確認に戻り、リュカは籠へ歩き出した。


 三歩歩いて、振り返った。


「なんで訊いたんですか」


 男は顔を上げなかった。


「三年も同じ顔を見てりゃ、そのうち訊く」


「……そうですか」


「早いほうだ。十年知らんやつもいる」


 リュカは一つ思い出した。


 二年前の雨の日、この男に雨宿りを勧められたことがある。


 そのときも名乗らなかった。


「あの」


「なんだ」


「前に、雨宿りさせてもらいました」


「そうだったか」


「そのときは、訊かなかったんですね」


 男は初めて手を止めた。


「濡れてるやつに名前を訊いてどうする」


 それだけ言って、また荷に向き直った。


 リュカは籠へ戻った。


 訊けなかったことを、向こうから訊かれた。


 三年かかった。

読んで頂きありがとうございます。

引き続き1話ずつ毎日更新していきます。

現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。


基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!


少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!


ブクマやお気に入り登録していただけますと今後の執筆の励みになります(´∀`*)

よろしければ是非応援頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。