一日と、二十三軒①
只今誠意執筆中_φ(ò_óˇ)ᕤ
今はまだ第1部1章で、まだ物語の序章ですので大きな変化が見られるのをこうご期待!!
現在は、第4部終盤の執筆に取り掛かっております!
残すは5、6、7部。
先はまだまだ長いですが、構想は終わっているので毎日楽しく執筆できております(●´ω`●)
皆様に少しでも楽しみに感じて頂ける作品になるよう私も楽しみながらやってきます!!
三番街の朝は、火の匂いから始まる。
夜明け前、まだ暗いうちに、どこかの家が火種石を割る。指の先で挟んで、爪で弾くと、薄い破片が落ちて熱を出す。それを油に落とせば火が点く。
一つ二シャルド。パン一つと同じ値段だ。
だから一日に一度しか使わない。朝に点した火を、昼まで種火として残す。消えたら、その日はもう煮炊きができない。
リュカが梯子を降りるころ、路地の三軒に火が入っていた。
残りは、まだ暗い。
どの家が早いかは、だいたい決まっている。
鍛冶場がいちばん早い。炉の種火を起こすので、夜明け前から動く。次が宿。ヴェスナが湯を沸かす。三軒目は名前を知らない家で、たぶん子供が多い。朝が早い家は、たいてい人数が多い。
残りの十数軒は、日が昇ってから点す。
――もったいないからな。
暗いうちに点せば、その分だけ早く油が減る。油は一合で六シャルド。火種石より高い。だから明るくなるまで待つ。
リュカは自分では火を使わない。
朝は宿の残り湯をもらい、パンは買う。煮炊きをしないので、火種石を買う必要がない。
三年で一度だけ買った。冬に、指が動かなくなったときだ。温石を買おうとして、二シャルドの火種石のほうが安かったので、そちらにした。
布に包んで懐に入れて、一晩持たせた。
朝には冷めていた。
温石なら朝まで温かい。だが五シャルドする。
二シャルドで一晩、五シャルドで朝まで。三シャルドの差が、夜明け前の二刻ぶんの温かさになる。
その計算を、あの冬にした。
――二刻ぶんで三シャルド。
高いと思って、買わなかった。
三年経った今も、同じ計算をすれば同じ結論になる。
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空き地に着くと、既に人がいた。
子供が四人。膝をついて、地面に何か並べている。
「兄ちゃん」
一人が顔を上げた。三日前にルフに触ろうとした子だ。
「なに」
「これ見て」
地面に石が並べてあった。七つ。大きさ順に。
「拾った」
「そうか」
「兄ちゃんの真似」
リュカはしゃがんで、順に見た。
一つ目は石英。二つ目は砂利。三つ目も砂利。四つ目は——
「これは」
「なに」
「……分からない」
灰色で、表面がざらついている。重い。同じ大きさの砂利より明らかに重い。
子供が期待した顔をした。
「当たり?」
「分からない」
「なんだよ」
「分からないから、持っとけ」
リュカは石を返した。
「十日持って、何も起きなかったら外れだ」
「十日も?」
「十日だ」
「長いよ」
子供は不満そうに言って、それでも石を懐に入れた。
他の三人が「俺のは」「俺のも見て」と寄ってきた。全部で二十個近くあった。
全部見た。当たりはなかった。
だが一つだけ、返すときに言った。
「これは、もう一回見せろ」
「どれ」
「この緑がかったやつ」
子供が差し出した。親指の先ほどの石で、表面に細かい筋が入っている。
リュカは光にかざした。透けない。だが縁のところだけ、わずかに色が違う。
「……割れてる」
「割れてる?」
「中で。表からは分からない」
「なんで分かるんだよ」
「筋が入ってる。割れた石は、ここから割れる」
彼は指で筋をなぞった。
「拾ったとき、割れてなかったか」
「割れてない」
「じゃあ、拾った後に落としたな」
子供が黙った。
「……落とした」
「石は落とすと割れる」
「見えないのに?」
「見えなくても割れてる」
リュカは石を返した。
「宿るかどうかは知らない」
「じゃあなんで言うんだよ」
「割れてるってことは、前に誰かが落としてる」
子供が首を傾げた。
「拾って、落として、置いていったんだ。一度は誰かの手にあった」
「それ、関係あるの」
「ない」
リュカは正直に答えた。
「でも俺は、そういうのが気になる」
「捨てる?」
「好きにしろ」
「兄ちゃんなら?」
彼は少し考えた。
「……持っとく」
「なんで」
「割れてても、石だからだ」
子供は納得しない顔をして、それでも懐に入れた。
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子供の一人が、袋から何か出した。
「これ、当たり?」
小さな筒だった。石ではない。
「なんだこれ」
「拾った。市の裏で」
リュカは受け取って、振ってみた。中で何かが動く。
筒の端に、削れた印がある。
「……煙幕石の空だ」
「からって?」
「使い終わってる」
彼は筒の口を見せた。焦げている。
「煙が出る石を、この筒に入れて売ってる。割って使ったら、筒だけ残る」
「じゃあ、ゴミ?」
「ゴミだ」
子供が落胆した顔をした。
「でも」
リュカは筒を返した。
「十シャルドする石が入ってた」
「十!」
「使ったら消える。筒だけ残る」
「なんでそんな高いのを」
「逃げるときに使う」
「誰が」
「戦う連中だ」
子供たちが顔を見合わせた。
この街の人間は、煙幕石を買わない。逃げる必要がある仕事をしていないからだ。
「兄ちゃんは?」
「買わない」
「なんで」
「十シャルドだ」
答えになっていない気もしたが、子供たちは納得した。
この街では、それが答えになる。
---
練習を始めると、子供たちは石垣の上に並んで座った。
見学席のつもりらしい。
リュカは気にせず撃った。二十歩、三十五歩、五十歩。三巡で百二十本。
途中で一人が「兄ちゃん外した」と言った。
「外してない」
「中心じゃなかった」
「中心じゃなくても刺さってる」
「でも外した」
子供は容赦がない。
途中から、彼らが勝手に点をつけはじめた。中心なら三点、外れて刺さったら一点、落ちたらゼロ。
一巡目の分は数え直した。誰が何本目を覚えているのか、四人で言い合って決めていた。
リュカは一度も落とさなかった。
合計は子供たちが数えた。三巡で三百二十点。満点は三百六十点だという。
「兄ちゃん、まあまあだね」
「まあまあか」
「もうちょっと頑張って」
言われて、リュカは何も返せなかった。
三年で最も高い点だった。三年前なら、半分も入らなかっただろう。
――まあまあか。
子供の基準では、そうなる。
彼らは適合者を見たことがない。上層の選手も、公式の大会も知らない。だから比べる相手がいない。
比べる相手がいないと、評価が正直になる。
「兄ちゃん、石は?」
一人が訊いた。
「持ってない」
「じゃあ、なんで撃つの」
リュカは杭を拾いながら答えた。
「撃てるからだ」
「それだけ?」
「それだけ」
子供は納得しない顔をした。
だが追及もしなかった。十歳の子供にとって、大人が変なことをしているのは当たり前のことらしい。
---
空き地を出るとき、ルフが石垣の下にいた。
子供たちが並べた石の残りを、勝手に食べている。
「おい」
それは顔を上げた。口の端に粉がついている。
「それ、あの子らのだ」
通じない。
子供の一人が気づいて、駆け寄ってきた。
「あー! 食べてる!」
「悪い」
「俺のやつ!」
「弁償する」
「どうやって」
リュカは考えた。石を石で返しても、同じものは返らない。
「……明日、掘る場所を教える」
「場所?」
「よく出るところ」
子供が目を輝かせた。
「教えて!」
「明日だ」
「今!」
「明日」
リュカはルフを抱え上げた。軽い。持ち上げると、四肢が空を掻いた。
「行くぞ」
子供が「約束だからな!」と叫んだ。
リュカは片手を上げて応えた。
読んで頂きありがとうございます。
引き続き1話ずつ毎日更新していきます。
現在4部まで出来ているので一年以上は連続更新できる予定です。
基本的には1日2-3部を18時と20時に分けて更新して行く予定としております!!
少しでも次が気になったり、楽しみにして頂ければ幸いです!
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